柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! 『何が利休に起こったか』

これはアロハ天狗によるSFパルプアクション剣豪エンタメ・マーダーパンク小説「柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!」のtwitter再放送ログです
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柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「その反骨こそ、宗匠にござる。我々は幾人か…宗匠同様に”死した”とされている方々を匿っております。島左近殿、島津豊久殿、宗匠にもまだお伝えできませぬが、途轍もない大物まで。宗匠には彼らと共に『しびと部隊』として、死人にしかできぬ働きをしていただきたく」 25

2020-11-24 20:08:20
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織部の顔は更ににやけを強めた。この状況を楽しんでいるのは明白であった。織部はそういう男である。彼の中では戦場の武功も、陰険な謀略も、数寄の美学も同じ境地にある。『万能の半端者』であることを、彼自身が最も楽しんでいた。 26

2020-11-24 20:13:22
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「承りました。どの道死んでいた身なれば、好きにお使いいただきましょう。救いがたき数寄ムジナたちの明日を救うために…」利休は答えた。 「されど」利休が懐から茶器を取り出す。織部は息を呑んだ。 27

2020-11-24 20:18:16
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見事な黒茶碗である。生涯にわたり、『黒』の持つ美を追求しつづけた利休に相応しい、大屋敷が二つ三つ建つほどの名品だ。「しびとなら金がかからぬと思われては困りますな」「これは…」織部が冷や汗を垂らす。いつの間にこのような名品を買付けていたのか。 28

2020-11-24 20:23:21
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「支払いは天下の大大名、古田織部様にツケておきましたので」利休は笑った。愛弟子、織部のようにニタリと。 29

2020-11-24 20:28:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

利休は再び目を覚ました。居場所が最後の記憶と異なる。別の部屋に移されたか。だがすぐに、そうではないと気づいた。 蒸気仕掛けの算版のかわりに見たこともない機械が部屋の中心に鎮座している。頭の中に勝手に情報が流れ込み、それは真空管式コンピュータと呼ばれるものだとわかった。 31

2020-11-24 20:38:17
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部屋が一回り小さいように思えたのは、自身の頭部が肥大化していたからだ。どれだけの年月が経っていたのかはわからなかったが、5年や10年の話ではなかろう。 32

2020-11-24 20:43:21
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出入り口の周りに積もった埃の溜まり具合を見るに、人が頻繁に出入りする様子ではなかった。とはいえ、捨て置かれている訳でもなさそうだ。利休の口から無意識に、新式手裏剣の強度計算の答えがこぼれ出る。それが水槽に付けられたチューブから上の階へと反響していく。 33

2020-11-24 20:48:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

つまり、こうした仕組みを通じて、直接ここを訪れずとも、利休に対して問いと答えの入出力ができるようになったのだろう。辺りの様子を探る間にも、頭には勝手に大量の情報と問いの濁流が絶え間なく流れ込み、そして利休の脳はそれに対して勝手に答えを出し続けた。 34

2020-11-24 20:53:22
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ここから逃れたかったが、どうしようもなかった。何かが欠落している感覚があった。怒らねばならないだけの理由があった筈だが、それすら思い出せなかった。無力感と倦怠感だけがあった。今の自身は、機械と結合した生体コンピューターの中に、何かの間違いで存在する意識の残滓に過ぎない。 35

2020-11-24 20:58:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

抗えぬ眠気と共に、再び意識が遠ざかっていく。次に起きられるのはどれ程先か、それとも目覚めないかもしれない。それもどうでもよかった。 深く、沈んでいく。 36

2020-11-24 21:03:22
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

再び、夢。夜、冷たい雨。泥の中に利休は転がっていた。 目の間に男が立っていた。暗い男だった。目つきが暗く、顔つきが暗く。その声も暗い。彼の周りを闇が覆うような男である。不思議なことにその顔だけが記憶から欠落している。 38

2020-11-25 18:03:18
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「死したる茶人如きが世の趨勢に干渉しようなど、不遜の極み」 彼こそが、柳生一族の頭領。柳生宗矩であった。「見よ、利休。貴様らの小賢しい企みの果てを」宗矩はそう言うと、泥だらけの地面に織部の首を転がした。「お、おお…織部様…」 39

2020-11-25 18:08:20
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利休は慟哭した。しかし、すぐに宗矩を見据えてはっきりとした口調で言った。「構いませぬ。世に数寄の種は捲かれ、自由の領土は興ろうとしています。しびとがしびとに戻り、生者が理想に殉じるのも、また世の倣い。我々の勝ちです、柳生殿」「貴様らの”切り札”とやらはこれか」 40

2020-11-25 18:13:18
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宗矩がもう一つの首を転がす。利休が小さく悲鳴を上げた。視界が歪む。それは、家康の首だった。 41

2020-11-25 18:18:20
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「貴様らの下らぬ謀、徳川の体制、豊臣の富。我が剣の前には全て風の前の蜻蛉に過ぎぬ。豊徳合体、自由の国、なるほど大した陰謀だ。だが、それは我が国興しの前に踏み潰されたのだ、そのつもりさえなくな」 42

2020-11-25 18:23:19
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「私がここに来たのはただ、1腹が立っただけだ。先も言ったように、しびとの茶人如きが世を変えようなどという、その傲岸さにな」 利休は声も出せずに震える。この男は何を言っている。なぜ彼が家康を斬っている。己の想像を遥かに超えることが足元で起こっていた。何かが歪んでいた。 43

2020-11-25 18:28:15
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「新たな世に貴様らのような小賢しい者の居所はどこにもない。”侘び”も”みやび”も”ひょうげ”も許さぬ。われらが求めるのは”滅び”だけだ。我々は永遠に興り、そして永久に滅び続ける。闘争と狂気が染め上げる赤き世に、貴様らのつまらぬ茶など一滴すらも零させぬ」 44

2020-11-25 18:33:16
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「お騒ぎあるな。何事も起こってはおらん。これは夢でござる。かかる悪夢に惑わされてはならん。今日、この日、この只今、豊徳合体、自由の公界は大盤石の重きについた。斯様なことのあり得ようはずがござらん。夢だ、夢だ、夢だ夢だ夢だ、夢でござる!夢でござる!」 46

2020-11-25 18:43:20
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

「現実の世界へようこそ、利休」宗矩が手を挙げると、利休の茶室、邸宅が爆破された。そこには利休と織部が将来に向けてかき集めた、日の本を代表する名器名物の山が… 利休は白目を向いて膝から崩れ落ちようとした。魂が体から抜けようとしていた。 47

2020-11-25 18:48:19
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

心臓が止まる直前、宗矩の刀が利休の首を一払いに刎ねた。 利休は自身の首が転がるのを体感した。意識が消失する最後の瞬間、宗矩の言葉を聞いた。 「頭は氷漬けにしておけ。忌々しい茶人だが、こやつのよく回る頭は役に立つかも知れぬ」 そして、暗黒が訪れる… 48

2020-11-25 18:53:16
柳生十兵衛がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ! / YYYYY @YYYYY_revival

今度こそ、利休は目覚めた。記憶と共に蘇った凄まじい怒りが首だけの全身を漲っていた。「おおおおお!!我が友、織部…我が夢、公界…我が肉体…!!!そして、そして…!我が集めに集めたる大名物よ!!許せぬ、宗矩…許せぬ、柳生ッ!」 前の目覚めから更に大きな時が流れていた。 50

2020-11-25 19:03:22