海老澤美幸弁護士による法律・判例解説

都度更新する予定です。
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海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

さて事案はこうです。 昔、ピンク・レディーのヒット曲の振り付けでダイエットするのが流行ったんですよ。 で、週刊誌が「ピンク・レディー de ダイエット」ていう記事を載せ、ピンク・レディーの白黒写真を14枚使いました。 ピンク・レディーはこの記事がパブリシティ権を侵害すると訴えたわけです。

2020-11-23 12:29:31
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

最高裁はなんといったか。 「肖像や名前は、商品の販売を促進する顧客誘引力をもつ場合があるよね。この顧客誘引力を独占する権利をパブリシティ権ていうわけだけど、これって肖像とか名前がもってる商業的な価値によるものだから、人格権に由来する権利のひとつだよね。」 上のツイと同内容ですね。

2020-11-23 12:29:32
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

「でもさ、有名人て、社会の注目を集めたりして肖像や名前をニュースとか創作物とかに利用されることもあるじゃん? そういう正当な表現行為については、我慢しなくちゃいけない場合もあるよね。」 パブリシティ権と正当な表現行為とのバランスを図ったわけですね。 で、導き出した判断基準がこちら↓

2020-11-23 12:29:32
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

「肖像や名前を無断で使うことが、専ら肖像や名前がもつ顧客誘引力を利用する目的の場合は、パブリシティ権侵害になるよ! 具体的には、肖像や名前を ① それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合 ② 商品の差別化のために使用する場合 ③ 商品の広告として使用する場合 だyo!」

2020-11-23 12:29:33
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

最高裁はこの基準を示した上で、こう判断しました。 「この記事はさ、ピンク・レディーそのものを紹介してるわけじゃなくて、流行のダイエット法を解説したものだよね。あとは、子供の頃にピンク・レディーのダンスをまねてたっていうタレントの思い出話の紹介でしょ。ピンク・レディーの写真は

2020-11-23 12:29:33
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

200ページの週刊誌全体の3ページにしか使用されてないし、白黒で大きさも大きくないよね。そうすると、ピンク・レディーの写真は、ダイエット法の解説とタレントの思い出話の紹介にあたって、読者の記憶をよびおこして記事の内容を補足する目的で使われてるわけで、パブリシティ権侵害にはなんないよ」

2020-11-23 12:29:34
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

判断基準、ちょっと難しいですね。 この判決には金築裁判官による補足意見がついてます。 また、最高裁の判決には最高裁調査官という超エリートがその判決の関連情報をまとめた解説がつけられます。 話はそれますが、調査官解説は読み物としても面白いので、ご興味のある方はぜひ調べてみてください。

2020-11-23 12:29:35
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

それましたが、補足意見や調査官解説をみると、要はこういうことかと。 「専ら肖像や名前がもつ顧客誘引力を利用する目的」の「専ら」ですが、顧客誘引力を使う目的以外がちょっとでもあればダメなわけじゃなく、「主として」顧客誘引力を使う目的があればOKとされてます。 その上で①〜③をみると

2020-11-23 12:29:35
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

① それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合 ブロマイド、ポスター、ステッカー、シール、画像配信サービスなど、その商品自体を鑑賞する場合が①です。 名前についても、たとえばサインなど鑑賞できるものはここに含まれることになります。

2020-11-23 12:29:36
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

では雑誌に掲載されるグラビアはどうか? ①の基準の「独立して」がカギになります。 つまり、写真の大きさや取り扱われ方と、記事の内容を比較して、記事と無関係に写真が掲載されてるとか、記事があくまで添え物にすぎないなんて場合は、写真が「独立して」使われてるといえそうです。 逆にいえば

2020-11-23 12:29:36
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

記事と関連性があり、記事が添え物ではない場合は「独立して」鑑賞の対象となるとはいえないので、パブリシティ権侵害にはあたらないということになります。 なので、パブリシティ権侵害にならないようにするには、記事にきちんと内容があり、それと関連する形で写真を小さく使うのがよさそうです。

2020-11-23 12:29:37
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

② 商品の差別化のために使用する場合 いわゆるキャラクター商品がこれにあたります。 Tシャツ、ストラップ、下敷き、カレンダーなど。 キャラクターブックもこれに当たります。 調査官解説では例として、レシピ本の表紙に有名料理人の写真を載せるのは差別化を図る目的なので②にあたるとしてます。

2020-11-23 12:29:37
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

③ 商品の広告として使用する場合 そのままですね。 なお、調査官解説では、本の広告に著者の写真を使うのは、商品の出所を示すもので③にはあたらないとしてます。また、レストランに芸能人が来店した写真を店内に飾るのも、芸能人が来店した事実を示すだけで「広告」とはいえないといってます。

2020-11-23 12:29:38
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

パブリシティ権については、まさに裁判例の蓄積中なので、これからさらに明らかになってくると思われます。 なお、厳密にはパブリシティ権侵害には当たらなくても、クレームやトラブルにはなります。 また、他人の写真を使えば当然、著作権侵害になりますので、このあたりには十分ご注意くださいね。

2020-11-23 12:29:38

劇団員事件(労働者性)

海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

少し前に話題になった「劇団員は労働者にあたるか?」の判決、ようやく読めたので簡単にまとめておきます。 なかなか興味深く、モデルやタレント、グラドルの方々、クリエイターの卵の方など多くの方にも影響がありそう。 夢に向かって頑張ってる方にぜひお読みいただけましたら。 超長文です。

2020-12-06 10:04:23
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

判決に入る前に「労働者にあたるといいことあるの?」というお話から。 ここでいう「労働者」とは、労働基準法などの労働関係の法律などで保護される人を指します。会社の正社員が典型ですね。 これに対し、会社と対等な立場で業務の委託を受けている人は、基本的には労働者にあたりません。

2020-12-06 10:04:23
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

「労働者」にあたるとこれらの法律が適用されるので、残業代や休日手当を会社に請求できたり、有休もとれます。自由な解雇も許されません。 「労働者」にあたらなければこうしたルールは適用されません。 そのため「労働者」にあたるかどうかは、労働者・会社の双方にとって大きな関心事なわけです。

2020-12-06 10:04:24
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

ではどのような場合に「労働者」にあたるか? ずばり「会社の指揮命令の下で労働し、労働に対して賃金を支払われる関係か?」で判断します。 指揮命令があるかの判断では主に下の要素を考慮します。 ・会社からの依頼・指示にYES/NOをいえる? ・会社の指揮監督ある? ・時間・場所は拘束されてる?

2020-12-06 10:04:24
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

注意してほしいのは、「労働者」にあたるかどうかは、契約の名前や形式にかかわらず“実質的”に判断されるということ。 たとえば「業務委託契約」を締結していても、実際は会社の指揮命令の下で労働し、その労働に対して給料が支払われてるなら、「労働者」にあたり、様々な保護を受けられるわけです。

2020-12-06 10:04:25
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

話を戻します。 事案は、劇団員Xさんが劇団運営会社Y社に「自分は労働者に当たるから給料と残業代を払え」と求めたものです。 Xさんは、稽古や公演への出演のほか、セットの仕込みやバラシ、音響照明、小道具などの裏方業務やその他の業務も行っており、Y社から毎月6万円の支払いを受けていました。

2020-12-06 10:04:25
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

Xさんは①稽古・出演と②裏方業務を含む劇団業務について「自分は労働者にあたる」と主張したわけですが、興味深いことに①稽古・出演については、第1審と控訴審とで判断が変わっています。 ここでは①稽古・出演と②裏方業務に関する判断に絞ります。 ※第1審や控訴審の意味は調べていただけたら。

2020-12-06 10:04:25
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

先に②裏方業務から。 裁判所はこう言って、裏方業務については労働者にあたると判断しました。 「劇団員は課(例 小道具課)とか部に所属して裏方業務をしてるし、セットの仕込みやバラシも、男性劇団員がスマホアプリで参加できる時間帯を共有しながら人数を確保してるよね。音響照明も、劇団員に

2020-12-06 10:04:26
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

担当が割り振られてて、割当日がNGのときは代わりを確保しなくちゃでしょ。そうするとさ、Xが大道具や音響照明を担当しないとか選べる自由はないし、時間・場所の拘束もあったよね。 Xさんは小道具課で小道具を担当してたけど、公演が年90回もあるからXさんが全く担当しないとか1か月に1公演しか

2020-12-06 10:04:26
海老澤美幸 ebisawa_miyuki @ebisawa_miyuki

担当しないとか許される状況じゃないわけで、小道具を担当するかどうかYES/NOいえないよね。小道具を公演にあわせて準備して、演出担当者の指示で変更することもあったわけだから、劇団の指揮命令で業務をしてたというべきでしょ」 裏方業務について会社の指揮命令があったと判断したわけですね。

2020-12-06 10:04:27