リキシャー・ディセント・アルゴリズム #7

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フォーフォーフォーフォーーー!!」「アイエエエエエ!アイ!アイエエエエエ!」ナムサン!薄暗いヤクザピットの中には、無数のクローンヤクザがひしめいているのだ!「では私はこれにて……」ヨロシサンの絶叫とロードの高笑いを背に、シャドウウィーヴは静かにフスマをあけて謁見の間を退室した。

2011-07-23 16:04:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴは、携帯IRC端末に送信されてきたマスターの最後の言葉を読み直しながら、ピンク色のボンボリに照らされたキョート城の白壁回廊を歩いていた。『シャドウウィーヴ!シャドウウィーヴ!援護を!援護してくれ!…………サヨナラ!』無念の涙が、IRC端末の液晶画面に滴る。

2011-07-23 16:16:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かつてブラックドラゴンは彼にこう語った。『何故ニュービーのお前を鍛えているかだと?お前のジツには可能性があるからだ。俺のジツは所詮、サイバネ手術によって強化されたカラテの一種に過ぎん。お前には未来があるのだ。ザイバツの目指す理想世界のために、いずれお前の力が必要となるだろう』と。

2011-07-23 16:21:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鎮痛成分が切れ、シャドウウィーヴの片腕が痛み始めた。だが彼のニューロンは、マスターを失った衝撃と仇敵に対する怒りで塗りつぶされ、片腕を失っていることすら忘れて、彼に空を切る虚しい左右連続パンチを繰り出させるのであった。「おのれ、ニンジャスレイヤー!いつか必ずマスターの仇を……!」

2011-07-23 16:27:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そして必ずや、マスターが夢見た理想世界を……!」彼は、壁に掲げられたおそるべきショドー・スローガン『格差社会』を仰ぎ見た。ニンジャは人間ではない。人間との和解は不可能。残されたる道は、下賎な人間どもの罪を罰し、ニンジャ秩序とマネーに支配されるカースト社会を築くことしかないのだ!

2011-07-23 16:41:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカ・マコトを載せた改造リキシャーは、死屍累々たるマイホーム前にたどり着く。銃弾によって半ば破壊された町内名ネオンサインが、バチバチと火花を散らす。その下では一仕事を終えたタカギ・ガンドーが安煙草を吹かしながら、ブーツについたクローンヤクザの血をコンクリートの柱に拭っていた。

2011-07-23 16:46:42
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「オイオイオイ、誰かと思ったぜ」ガンドーは煙草を血だまりに投げ捨て火を消すと、アナカに肩を貸してリキシャーから下ろした。バリキ禁断症状も薄れ、アナカは自分の足で立つことができた。頭も冴えてきたようで、ガンドーが自分に何をしてくれたのかすぐに悟った。「ガンドー=サン、ドーモ……」

2011-07-23 16:51:03
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「ドーモじゃねえよ、アナカ=サン」ガンドーはアナカの背中を叩いた「もう一仕事だ。奥さんを連れてきな」「何で…?」「決まってんだろ、逃げるんだよ。ザイバツはすぐに次のヤクザを送り込んでくるぜ」「逃げる場所なんて……」「偽造ICチップとあわせて、俺が調達してやるさ。階層は下るけどな」

2011-07-23 16:56:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「下降(ディセント)……またあのショーユ大気汚染階層に、妻を……」アナカがそう言いかけると、ガンドーは無言で背中を押した。つんのめるように歩きながら、アナカは切り裂かれたシャッターをくぐってヨモコの待つ薄暗い我が家へと消えていった。「3分以内に出発だ!」ガンドーの声が聞こえる。

2011-07-23 16:59:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは胸元からズバリ入り安酒を取り出すと、それを軽く呷ってから、イチロー・モリタに話しかけた。「あいつらが帰ってきたら、俺の知ってる暗黒不動産屋まで頼む。保証人が要らん闇の物件屋だ。道案内は俺がやる。依頼人のあんたに頼んで悪いが、非常事態だ。引き受けてくれるか?」「受けよう」

2011-07-23 17:14:44
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それから1分ほど、無言の時間が続いた。フジキドの視界がぼやける。体を動かしているか会話を続けていなければ、疲労のせいでいつ体が眠りに落ちるか解らない。そこでイチロー・モリタことフジキド・ケンジは、何の含みも無く、ガンドーにシンプルな質問を投げた。「何故、私立探偵をやっている?」

2011-07-23 17:22:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どうしようもなく暗いトコにな、ライトを当てんだよ」ガンドーは煙草を吹かしながら、どこか照れ臭そうに、ぶっきらぼうに答えた「鴉の懐中電灯でな」。「鴉の?」フジキドは、探偵事務所の前に置かれたカンバンを思い出した。「面倒くせえからこの話は無しだ。それよりあんたは、何でニンジャを…」

2011-07-23 17:31:34
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そこまで言いかけた時、シャッターの奥からアナカ・マコトと和服姿のアナカ・ヨモコが出てきた。マコトは背中に紐でサイバー窓を背負い、涙で頬を濡らしたヨモコは、ハンコやジュッテなどの貴重品を持っている。改造リキシャーと異様な風体の2人組を見たヨモコは、思わず立ち止まり、夫に耳打ちした。

2011-07-23 17:36:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大丈夫なの?」と。「大丈夫だ、あの2人は……」アナカ・マコトは彼らを何と形容すべきか少し迷った。それから妻を安心させるため、精一杯の笑顔を作って言った「……信頼できる男たちだ。だから、頼む。俺と一緒に、あのリキシャーに乗ってくれないか?俺に愛想をつかすなら、その後でいいから」

2011-07-23 17:43:31
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マコトは続ける「俺のせいなんだ。もうここに住めない。また俺たちは下降…」「愛想なんて、つかしませんよ!」ヨモコは精一杯の笑顔を作った。目が細くなり涙が押し出された。コケシめいた和服や黒髪とも相まって、ヨモコの風貌はさらにコケシめいた。「あなたが信じた人たちなら、着いていきます!」

2011-07-23 17:52:19
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「よし、きっかり3分だな」ガンドーは2人を後部座席に座るよう促すと、誰もいなくなったアナカ家の中に入っていった「忘れモンが無いか、ちょっと見てくるだけだ」。その言葉通り、彼はすぐにシャッターをくぐって出てきて、ナビのために前の座席についた。

2011-07-23 17:58:55
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3人が席についたのを見計らうと、フジキドはニンジャ脚力で改造リキシャーを動かし始めた。常人の力では牽けるはずも無い、チャリオットめいた重いリキシャーを。路地を曲がり、クローンヤクザの死体の山が見えなくなりかける頃、ガンドーがアナカ家に仕掛けた爆弾が爆発し、全ての証拠を焼き払った。

2011-07-23 18:01:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒッ!」と、爆音におののくヨモコは夫の肩にすがり、軽い咳の発作を見せた。どうにか妻を連れて逃げ果せることができ、アナカは安堵の息をついたが、それと同時に、どうしようもない無力感に苛まれてもいた。(((俺には何も武器が無い……この先どうやったら、ヨモコをまた上に連れて来れる)))

2011-07-23 18:07:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アナカ・マコトはサツバツたる真実に気付いてしまったのだ。自分は救いようが無いほど凡庸であると。かといって、ニンジャにもなれないのだと。ナムサン!確かにこれは、出口なしの陰鬱なマッポー的袋小路にはまったかのようにも見える。…だが彼は、それよりも重要な事実をまだ自覚できていないのだ。

2011-07-23 18:17:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自分には、人を見る目があるのだと。下層階層の出自ゆえ、両親は彼に高等教育を施すことこそできなかったが、何よりも重要なインストラクションを施していたようだ。タジモト、ヨロシサン、ヨモコ、ガンドー……何を軽蔑し、何に敬意を払い信頼すべきかを、彼は無意識のうちに理解しているではないか。

2011-07-23 18:23:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……確かに、それは逆に苦しい生き方を強いる枷となるやも知れぬ。だが少なくとも今回は、その力が、アナカ・マコトと彼の妻を救ったのだ。アナカがこの事実に気付く日は、果たして来るだろうか?あるいはマッポーが先に訪れ、世界は破滅するかも知れぬ。ショッギョ・ムッジョ……全ては神のみぞ知る。

2011-07-23 18:28:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これは……?」アナカの肘が、何か固いものに当たった。壷だ。タジモトのものだろうか?蓋を開けると、中には輪ゴムで巻かれた大量の札、数枚のコーベイン、分包化された大トロ粉末などが収められていた。「オイオイオイオイ、何だこりゃ?」ガンドーがリキシャーを引くフジキドに訊いた。

2011-07-23 18:33:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「知らぬ」フジキドは短く返す「前の客の忘れ物だろう。ギャングどものな」。「だってよ、アナカ!」とガンドー「全部持ってったらどうだ?どうせお前はもう、リキシャー会社にゃ戻れないんだからな」。同じ穴にタヌキとフェレット……アナカは、今回こそはカワイイフェレットを捕まえたようだ。

2011-07-23 18:38:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイオイ、やっぱりちょっと待て」ガンドーは何か思い出したように振り返り、足のつきやすい大トロ粉末を壷から抜いた。それでもまだアナカが再出発するには十二分なカネが残されている「俺もガンドー探偵事務所の修理代をもらっとくぜ、いいだろ?」「ハイヨロコンデー」アナカは小さく笑った。

2011-07-23 18:47:06