高市早苗発言は何故、支離滅裂か
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弁護士飯田亮真(66期・大阪弁護士会)。大阪星光学院→京都大学→大阪大学→大分修習。ライフワークは法教育。法教育研究中(D2)。趣味はピアノとゴルフ。一太郎派。【監修】『こども六法すごろく』(山崎聡一郎)、『開廷!こども裁判』(伊藤みんご)など。【note】note.com/lre_labo
「日本の名誉を守るという国家の使命を果たすには、外国国旗と日本国旗の損壊に関して同等の刑罰で対応することが重要だ」 支離滅裂やな。国会議員ならもうちょっとまともなこと考えろよ。
2021-01-27 08:00:19保護法益は何? それは刑罰をもって守らなければならないもの? 日本国旗の損壊を禁止することで制約されることになる自由ないし権利は? その自由や権利を刑罰をもって制限することはなぜ許容できるか? twitter.com/sankei_news/st…
2021-01-27 07:56:40自民・高市氏ら「国旗損壊罪」国会提出要請 外国国旗と同等の扱いを sankei.com/politics/news/… 刑法には外国国旗の損壊や汚損などに関して「2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する」との規定がある一方、日本の国旗を損壊した場合の罰則は設けられていません。
2021-01-26 18:17:09高市早苗氏の下記発言が、なぜ支離滅裂なのか、一般の方々には分かりにくいと思われますので、ご説明します。 刑法は、一定の行為を犯罪として定め、刑罰を科すという方法でその行為を禁止する法律です。 刑罰は、本来国民の人権を保障すべき立場にある国家が、強制的にその人権を奪うものです。 twitter.com/r_messy/status…
2021-01-27 09:12:03例えば懲役刑は、人を刑務所に閉じ込めて強制的に働かせるわけですから、身体の自由や移動の自由、経済活動の自由を奪います。 これらの自由は本来憲法で保障されており、国家はそれを保護する義務があります。 その国家が、国民から自由を強制的に奪うことを定める刑法が、なぜ許されるのでしょうか。
2021-01-27 09:14:48それは、犯罪とされる行為が、他の重要な権利や利益を侵害する行為だからです。 例えば窃盗は、他人の財産権を侵害する行為です。こうした行為は強く禁止しなければ、国家は国民の財産権を保障できません。 ですから、物を盗む行為に対しては、刑罰という強い制裁を科すことも許されるわけです。
2021-01-27 09:16:49このように、刑法には、ある行為を犯罪として禁止することによって、その行為によって害されることになる権利や利益を守ろうとしているわけです。 このような権利や利益のことを「保護法益」といいます。 刑法に定められた犯罪には、必ず保護法益があります。
2021-01-27 09:18:14これは裏を返せば、「ある行為を犯罪として禁止するためには、相応の(=刑罰という強い制裁を科してでも守らねばならないほどの)保護法益が必要だ」ということです。 刑罰は国家による人権侵害(これはそもそも許されない前提のものです)ですから、保護法益にもそれなりの重要性が求められます。
2021-01-27 09:20:05ここで「それなりの重要性」といいましたが、「それなり」とは何でしょうか。 今の刑法が定める犯罪における保護法益には、様々なものがありますが、大きく①個人的法益と②社会的・国家的法益に分類できます。
2021-01-27 09:23:11①個人的法益の代表例は、生命・身体・財産・名誉・性的自由などです。殺人罪、傷害罪、監禁罪、窃盗罪、強盗罪、名誉毀損罪、強制性交等罪などは、これらの行為を強く禁止しなければ、国家は国民の生命や身体の自由、財産権や名誉権、自己決定権を保障できないから、刑罰を科すことができるわけです。
2021-01-27 09:25:44これに対して②社会的・国家的法益の代表例は、公共の安全、善良な風俗、取引の安全、国家の存続、国交、国家作用などです。放火罪、わいせつ物頒布罪、文書偽造罪、内乱罪、外国国旗等損壊罪、公務執行妨害罪などがこれに当たります。
2021-01-27 09:27:23①の場合は、「国家が国民の人権を保障するには、これを侵害する行為を強く禁止する必要があり、かつそれも許容される」という比較的分かりやすい理屈ですが、②の場合は社会や国家の利益という抽象的な目的であり、なぜ刑罰を科して良いのか疑問に思われるかもしれません。
2021-01-27 09:29:09しかし②の犯罪は、結局のところ、社会の秩序や安全を維持することが、国民の財産や自由の保障に必要だということになりますし、国民の財産や自由の保障について責任を負い、その責任を果たすための国家作用や、あるいは国自体の安全(外交もこれに含まれるでしょう)も保護する必要があるといえます。
2021-01-27 09:34:46このようにみていくと、刑法がある行為を刑罰をもって禁止することができるのは、その行為を禁止しなければ国家が国民に対して自由や権利を保障できない場合や、国民の自由や権利を確保するために社会の秩序や安全、国家作用を守る必要がある場合、ということができます。
2021-01-27 09:37:43前置きが長くなりましたが、高市氏の発言をみましょう。 まず、「日本の名誉を守るという国家の使命を果たすには」と言っています。 このことから、「日本国旗損壊罪」の保護法益としては、『日本の名誉を守るという国家の使命』を想定していると思われます。
2021-01-27 09:39:25「国家の」という言葉からして、高市氏としては国家的な法益だと言いたいのだと思われますが、「日本の名誉を守ること」は、刑罰という強い制裁を科すことまで許されるようなものと言えるでしょうか。 先ほどみた②社会的・国家的法益の例を思い出してください。
2021-01-27 09:42:10繰り返しますが、刑罰とは、国民から人権を奪うものです。本来国民の人権を保護する責任がある国家が、なぜ刑罰によって国民から人権を奪うことが許されるのか。 それは、そうしなければ、国家が「国民の人権を保護する」という責任を果たせないからです。
2021-01-27 09:44:31では、「国民の人権を保護する」ために、「日本の名誉を守ること」は必要でしょうか。しかも、その必要性の程度は、刑罰という人権侵害を手段としなければ確保できないほどのものと言えるでしょうか。 「日本の名誉」と、国民の人権とは、どの程度関連性があるのでしょうか。
2021-01-27 09:46:55高市氏の発言のうち、「日本の名誉を守るという国家の使命を果たすには」という部分が、「日本国旗の損壊」を刑罰をもって禁止することが許される理由になっているかは、甚だ疑問です。 つまり、高市氏が「日本国旗損壊罪」が必要とする根拠が、そもそも根拠になっていないのです。
2021-01-27 09:52:53次に、「外国国旗と日本国旗の損壊に関して同等の刑罰で対応することが重要だ」の部分です。 先ほども触れましたが、今の刑法には外国国旗等損壊罪という規定があります(刑法92条1項)。 この規定の保護法益は、日本の外交上の利益だとされています(山口厚『刑法(第3版)』有斐閣・443頁)。
2021-01-27 09:55:32この保護法益は、国家的法益に分類されています。つまり、国家の安全を維持するためには、外国との円満な外交関係を維持することが必要であるところ、侮辱の目的をもって外国旗を損壊する行為は、外国との円満な外交関係を維持するうえで重大な障害となるので、これを禁止する必要があるわけです。
2021-01-27 09:58:04前にも述べましたが、外国との円満な外交関係を維持し、国家の安全を確保することは、国民の人権保障に責任を負う国家にとって不可欠なことでもありますから、刑罰をもってこれを保護することも正当化されるわけです。 では、「日本国旗損壊罪」はどうでしょうか。
2021-01-27 09:59:21高市氏が想定していた「日本国旗損壊罪」の保護法益、すなわち「日本の名誉」は、外国国旗損壊罪の保護法益とは全く異質なものです。 それなのになぜ、外国国旗損壊罪と「同等の刑罰で対応することが重要」なのでしょうか。
2021-01-27 10:01:06一概には言えないことですが、大雑把にいうと、刑法における犯罪規定で定められた刑罰(法定刑)の重さは、その規定の保護法益の重さを量る指標とされています。 つまり、重い刑罰が定められた罪ほど、重要な権利や利益を保護しようとしているもの、と(大雑把には)言うことができます。
2021-01-27 10:03:41例えば殺人罪が「死刑、無期もしくは5年以上の懲役」であるのに対し、窃盗罪は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」であり、前者が後者より明らかに重いですね。 これは、殺人罪の保護法益(=生命)が、窃盗罪の保護法益(=財産)よりも重いことの表れだと言えるわけです。
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