【千年王国思想と北米植民】-新エルサレムとしてのニューイングランド-

英国の北米植民地がいち早く巨大なコロニーに発展できたのは何故か?この疑問を17世紀のピューリタニズムを紐解きながら解明します。 これにより、現在の米国の社会や政治風土が帯びる宗教的色彩の淵源が明らかとなるでしょう。
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HIROKI HONJO @sdkfz01

【千年王国思想と北米植民】 -新エルサレムとしてのニューイングランド- 新大陸に大量の移民が押し寄せ、数多のヨーロッパ系白人が暮らすようになったのは、実は意外と遅く、19世紀以降のことです。1820年代からの100年間で6,000万人が大西洋を越え、このうち3,300万人が米国に流入しました。 pic.twitter.com/14LkFj6V10

2021-01-30 20:25:57
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かかる巨大な人口移動の背景としては、医療技術の向上等による欧州の余剰人口の増大と、蒸気船の普及等を通じた移民にかかるコストとリスクの低減が挙げられましょう。 その結果、ドイツ、アイルランド、北欧、南欧、東欧・ロシア等から多数の人々が新大陸へ渡り、この地に白人社会を確立したのです。 pic.twitter.com/CJIT2XF1Zn

2021-01-30 20:26:23
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それ以前、南北米州における白人人口は、大雑把に言って相当希薄でした。例えばスペイン領アルゼンチンは1800年頃で50万人、フランスの北米植民地(ヌーベルフランス、画像青)は18世紀後半で10万人に過ぎません。 しかしここに、例外があります。イギリス領北米植民地です(画像赤)。 pic.twitter.com/Nwdzhmtxb1

2021-01-30 20:26:53
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実際、英国からの独立を宣した直後の1776年、アメリカ合衆国(13植民地)は約300万人もの白人人口を擁していたのです(本国人口の1/3に相当)。まさに桁違いですね。なお、黒人奴隷の数は21万人だったので、当時としてはかなり同質性の高い巨大コロニーであったと言えるかもしれません。 pic.twitter.com/vYRNJjyxSC

2021-01-30 20:27:26
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19世紀以降に比べればささやかとは言え、何故イギリスの北米東部植民地には早くから多くの開拓者が入植していたのでしょうか? もちろん、それには幾つもの要因が挙げられるでしょう。新天地で一旗あげようという経済的動機から、罪を犯して故郷にいられなくなった等の個人的理由まで様々な筈です。 pic.twitter.com/MCkNPIRrQo

2021-01-30 20:28:06
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少し脱線すると、年季奉公と呼ばれる不自由労働(期間限定のタコ部屋みたいなもの)で連行される場合もありました。 しかし、こうした事情は他国の植民地でも基本的には同じだったでしょう。では、北米東部植民地を著しく成長させた特殊な要因とは何か。 pic.twitter.com/xDVm0ilpky

2021-01-30 20:30:06
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本稿ではそれを宗教的動機に見出します。新大陸に「神の王国」を建設しようという情熱は、他国には見られないものであり、その発露たるピルグリムファーザーズに代表されるピューリタンの入植は、現在でも米国建国神話の輝ける序章に他なりません。 pic.twitter.com/jwsP0ZXCEt

2021-01-30 20:30:49
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HIROKI HONJO @sdkfz01

もちろん、神話とは虚構の別名に他なりません。しかし、それ故に今日の米国人のメンタリティやアイデンティティを映し出す鏡であり、これを論じることは現代を射程に収めるものであると考えます。 pic.twitter.com/NmEDw43v1r

2021-01-30 20:31:29
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という訳で、今回は英本国で迫害を受けたピューリタンが千年王国論と呼ばれる異端的終末思想を奉じ、来るべき世界の浄化のため、キリスト者の拠点となる「真の教会」を打ち立てるべく北米に渡った軌跡を素描します。これにより、米国の社会や政治文化が帯びる宗教性の一端が明らかになるでしょう。 pic.twitter.com/kawZ3YRpYi

2021-01-30 20:32:06
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さて、そもそもピューリタンとは何者でしょうか。日本語では「清教徒」と訳されるため、一つの教派であると思われがちですが、実際には長老派・独立派・会衆派・分離派など複数の宗派にまたがっています。彼らの共通点は、カルヴァン派の流れを汲み、ローマカトリックを否定するのみならず(続く) pic.twitter.com/nHSzy8mrVQ

2021-01-30 20:32:48
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同じプロテスタントである英国国教会の徹底的な改革(国王を頂点とする権威主義的な制度の解体→長老派)か、或いは国教会からの離脱と新しい教会の設立(会衆派・分離派)のいずれかにより、敬虔な信徒の集団を主体とする平等主義的な宗教社会を実現しようとしたことにあります。 pic.twitter.com/0kWH11bs2V

2021-01-30 20:33:33
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(この辺りは、話三割でお聞き下さい。資料によって記述が異なる上に、当時の社会情勢などに沿ってきちんとまとめようとすると、恐るべき分量になるので…。ピューリタンとは、本来「政治や宗教の堕落を嘆くピュアな人たち」という程度の意味合いで、これが簡にして要を得ていると思います)

2021-01-30 20:34:08
HIROKI HONJO @sdkfz01

ピューリタンが勃興した16世紀から17世紀にかけてのイングランドは激動の只中に在りました。ことにプロテスタントとカトリックの角逐は国内に大きな混乱を巻き起こします。 ヘンリー8世が英国国教会を設立するも、メアリー1世は旧教へ復帰。エリザベス1世の治世で再び国教は新教に改められますが、 pic.twitter.com/8UZQgRU8ew

2021-01-30 20:35:04
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後を襲ったジェームズ1世は対抗宗教改革の総本山であるスペインに対し妥協的な態度を取り、国民を失望させます。また、宮廷にカトリックの司祭をおいたことや、新教と旧教の最終決戦と見做された三十年戦争に参戦しなかったことは、強い批判を呼びました。 pic.twitter.com/0c7EFB61kQ

2021-01-30 20:35:51
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このような路線はチャールズ1世に引き継がれ、旧教徒の政府高官への登用、教皇庁支部のロンドンへの設置、親スペイン的外交政策、国教会へのカトリック風礼拝の強制などが行われます。これらの動きを強く批判したピューリタンは弾圧を受け、既存の権力に失望し、必然的に反体制へと傾斜しました。 pic.twitter.com/m7bASufnzB

2021-01-30 20:36:51
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ピューリタンにとって、国家権力と教会組織は汚され、堕落し、ますます残虐な本性を顕しつつあるかに見えたでしょう。それは、相次ぐ戦争や疫病の流行と相まって、聖書に預言された世界の終わりが近いことを予感させたに違いありません。 pic.twitter.com/I1PcdBDfXh

2021-01-30 20:37:21
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かくて、彼らの間に黙示録的終末思想が胚胎します。1636年、独立派に属する戦闘的なピューリタンのヘンリー・バートンは次のように述べています。 「神は…多くの、熱心で勇敢な真理の擁護者を立ち上がらせた。私は、神の言葉を司る敬虔な聖職者の事を言っているのである(続く) pic.twitter.com/Tnw0hUhsnA

2021-01-30 20:38:24
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彼らは反キリストの成り上がり者(国教会の主教)の邪悪で不正で下劣な指令に屈服せず、むしろ全てを失うことを選択するのである。…この点は、獣とキリスト、竜と子羊の間で現在戦われているあの主要な戦闘で紛れもなく確かな争点となるだろう。(続く) pic.twitter.com/qBs43EuH9h

2021-01-30 20:39:13
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あらゆる共謀者を伴う反キリストは…彼らの悪意、権力、政策、陰謀に関わらず、…全て徹底的に打倒されなければならない」 pic.twitter.com/YPjG03ZsdA

2021-01-30 20:40:14
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「反キリスト」とは新約聖書「ヨハネの手紙」に記された、「終わりの時」に出現しキリストを否定し、人々を惑わす者のことです。また、「獣」と「竜」は黙示録で神に背き、抗う存在として描かれます。特に「竜」はサタンの化身であり、強大な力で一度は地上を支配しますが(続く) pic.twitter.com/0Q9hp6NBxD

2021-01-30 20:41:10
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天使との戦いに敗れて封印されます。そしてキリストによる千年の統治(千年王国)の後に解き放たれ、再び地上の国々を糾合し神に挑むものの、打ち破られ、「獣」と共に永遠の業火に苛まれるのです。 黙示録はその後、最後の審判、新エルサレムの出現、そしてキリストの再臨について記述しています。 pic.twitter.com/FyvV7vTZAe

2021-01-30 20:41:37
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今や、ヘンリー・バートンが黙示録等の聖書の記述を援用して、当時彼ら急進的ピューリタンが直面していた国王権力・国教会との闘争を、聖徒とサタンの最終戦争(ハルマゲドン)として認識していたことは明らかです。 それは、妥協の許されない殲滅戦に他なりません。 pic.twitter.com/CjantXmjz6

2021-01-30 20:42:07
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同様の思想は、分離派に属するジョン・リルバーンの記述(1638年)にも見出せます。 「ここに神御自身の御声が選民の全てに…(国王の)権力への服従と隷属を止めることを、ついに命じておられるのだ。…我々は今、(国教会の)主教どもの偶像礼拝的で霊的な軛のもとで大変危険な状態にある。(続く) pic.twitter.com/nLPDwegfN0

2021-01-30 20:43:20
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HIROKI HONJO @sdkfz01

…来たらんとする時のゆえに、悔い改めよ。イエス・キリストの勇猛な兵士の如く、勇敢に決心せよ。この霊的な戦いを雄々しく戦え。…この黙示録を学びたまえ。…子羊とその僕らと、竜とその従臣の間でいかに激しい霊的戦いが行われたか、またこれから行われるかを読むであろう」 pic.twitter.com/pbqAIo09JC

2021-01-30 20:43:48
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HIROKI HONJO @sdkfz01

ところで、反キリストの手先である国王や国教会、そして彼らの首魁と見做されたローマカトリック(バビロン)との最終戦争が今まさに戦われているという認識は、約束された勝利と共に「終わりの時」、すなわち黙示録に預言された千年王国の到来が間近に迫っているという期待をも呼び覚ましました。 pic.twitter.com/TScom1NKwO

2021-01-30 20:44:49
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