妖浮世草子(あやかしうきよぞうし)

ツイッターで書き連ねている一次創作まとめです
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櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「私とつまらないお喋りに興じてくださる程度には、順調に進んでいるという事ですか?」 「今の所はそうですね。正直、この後はどうなるか僕もちょっと判らないのですが」 「我々としても小さくないリスクを背負って大きく関与しているのですから、実りの多い結果が得られるよう祈りたいですわね」

2022-05-04 02:05:09
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「それでは、私は島をぐるりと見て帰ります。お気遣いなきよう」 生神の言葉が最後まで雲居の耳に届いた頃には、生神の姿はどこにもなくなっていた。「お気遣いする暇もないよ」と雲居は独りごちた。 「彼女本当に人間なのかなあ。健康診断見せてくれるけど全然信じられないんだよなあ」

2022-05-04 02:08:26
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「親御さんも全然普通の一般人だし、最近の若い子ってそんな感じなのかな。将来有望だなあ……」 そんな事を、ちょっぴり人間ではない雲居が言うのである。 鬼ヶ島の端。【鬼】を退治せんとする、人間達の小さな幕間。

2022-05-04 02:10:46

寒い夜

櫨染忌憚 @D9A62E_SS

肌寒い夜だった。前回と同じく大池のほとりで時鳥と吾鷹が立っている。 「善処する、という言葉を鵜呑みにする阿呆もおらんだろうが、それにしたって余計酷くなるとは思わないだろう」 「非戦闘員を戦わせるとこうなるっていうお手本にしてね」 「俺は少し心配になってきた。この調子で酷くなれば」

2022-05-08 21:21:33
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「明日には目も当てられなくなるのではないか?」 「安心したまえ、明日は万里が出るから私は休めるんだ。寝ちゃおうかな」 「ほう、そうか。酒吞童子が出るか。それは勝ったも同然と言って差し支えないな」 「でしょう」 「だがせめて試合は見たらどうだ。貴重なんじゃないか? あの御仁が戦うのは」

2022-05-08 21:24:14
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「なんの参考にならないもの。私が見ても。私は精々、如何にして万里に全部やってもらって私が楽をできるか姦計を巡らすくらい」 「ふむ。惜しいな、しかし。酒吞童子の京に生まれたが惜しいか、あるいは俺の東に生まれたが惜しいか。引き抜いて双藍会(うち)に招きたいと何度思った事か」

2022-05-08 21:27:11
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「京は人材が豊富でありがたい土地なんだよね」 「どうだか。それだけ纏め上げる事も一筋縄ではいくまいな。それに、その土地にいるからってその組に入らねばならぬ理由などないのだから」  妖怪と人間の違い。それは、土地に縛られるかどうか。妖怪は、生まれた土地を遠く離れて生きる事はできない。

2022-05-08 21:29:24
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

遠くに行けば行くほど、その土地から【拒絶】される。生命は細り、身体は衰え、魂は虚ろになる。じわじわと真綿で首を絞められるように、苦しみ衰弱して死んでいく。生まれた土地に留まる事ができれば数百年を超えて生きる妖怪も、土地を離れてしまえば数十年と生きる事ができない。

2022-05-08 21:31:49
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

群れて、あらゆる土地に移動してしぶとく生き延びる人間と。孤立し、生まれた土地に生きて生まれた土地で消えていく妖怪の、違い。

2022-05-08 21:34:27
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

しかし、そこな鵺は【空から落ちてきた】と言うが? さて。それはまだ、語られぬ話だ。

2022-05-08 21:36:02
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「今日は冷えるな」 「そうだね。まあ、これからしばらくは、そうだと思うよ」 「ではこれくらいにしておこう。明日こそは元気な姿を見せてもらおうか」 「狭衣くんこそ。いや、君に至っては然程心配する必要もないけれどね」 次に冷たい風が吹いた時には、そこにはもう誰もいなかった。

2022-05-08 21:38:25

どこかであったいつかの話

櫨染忌憚 @D9A62E_SS

某日。京都。 「言われてた【探し物】、見付かったわ」 「祢杏にしては随分かかったね」 「あたしにしては? なにそれ。あたし別に失せ物探しなんか得意でもなんでもないわ」 「そっか。ただ仕事の早いイメージなので」 「隠す気がなくただ消えてしまったものを探すのって逆に大変よ」

2022-10-12 13:14:45
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「いつ行きたい?」 「できれば早く。祢杏がスケジュールを見て、行けそうだと思う時にねじ込んでくれたら良い」 「じゃあ今からになっちゃうわね。それか、うーん、月曜の昼……になんとなねじ込むか」 「それなら今からにしよう」 「遅いけど良いの?」 「夜の方が良い。伊勢も寝ているから」

2022-10-12 13:16:26
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「場所は?」 「■■県■■■市」 「遠。うちの管轄外だし。それは容易に見付かるまいね」 「でしょう」 「シロとクロは」 「無論」「此方に」「控えておりますれば」「準備しておりますれば」「何処でも」「何処へも」 「宜しい。では行こうか」 某日。京都、深夜。

2022-10-12 13:27:09
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

半刻後。■■県■■■市、某アパートの一室。時鳥と祢杏が話している。 「家賃は2ヵ月前まで振り込まれてて、そこから滞納。大家曰く家主と連絡が取れず困っている。中はこの通り、ほとんど何も動かしてないそうよ」 「居住の形跡は……あんまりなさそうだね」 「少なくとも1年は住んでないわね」

2022-10-12 13:30:35
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

「でも誰か住んでいたのは確かよ。見れば判る通り」 「途中までは普通に人間が住んでいて……どこかを境に消えてしまった。その後も家賃だけは問題なく振り込まれていた……。ふむ。結界の痕跡は?」 「なーい。その代わりものっすごく拙い呪術の跡は大量にあるわね。ほら、そこの鳥居とか」

2022-10-12 13:32:36
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

祢杏が指をさす方向には、こぢんまりとした箪笥の上に、手の平ほどのサイズの、木彫りの鳥居がずらりと10は並んでいた。 「澱んだ黒色」 「血液で着色してるもの」 「なんだろう。ここに住んでいた人間が作ったもの?」 「このド下手クソさ的に人間でしょうね」

2022-10-12 13:34:38
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

ちぐはぐは部屋である。当たり前に人の住んでいた形跡。荒らされた風でもない。そこに点在する拙い呪術の痕跡。写真もあった。 若い女が、女児を抱いている写真。女児は、透き通るような白髪に赤い瞳をしている。

2022-10-12 13:43:46
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

祢杏が引き出しをいくらか物色し、そうして小さな冊子を取り出して時鳥に手渡した。母子手帳、と書いてある。 米山円花、という文字の列を、見る。 「ふん」 その瞳に、どんな感情も見付けられはしない。 「名前の判るものは押収しておこう」 「あーい」

2022-10-12 13:46:14
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

米山 円花(よねやま・まどか)……誰かの最初の名前。

2022-10-12 13:46:58
櫨染忌憚 @D9A62E_SS

基本的には投書箱に感想をおブチ込み頂けると私が喜ぶシステムなのですが、投書箱におブチ込む程ではないなという感想というほどでもない感想とか、私に直接投げつけるのは憚られるなという呟き等ありましたら、ハッシュタグ「#妖浮世噺」で呟いてもらえるとそれを遠巻きに私が見て喜びます よしなに

2022-05-05 02:15:32
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