【2021年5月】1日1SSセルフまとめ

すべてフィクションです
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小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

さっきまで不機嫌そうにこっちを睨んでいた女が笑顔になった。 代わってくれてありがとう。 これからは毎日にっこりできるよ。だってあんたはあたしと同じ顔しかできない。 実体を得たあたしはそれだけで最高にハッピー。あんたの分も毎日いっぱい笑ってあげる。クソつまんない日々でもね。 #TwitterSS

2021-05-01 12:46:22
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

彼女が漏らした呟きは風がさらってしまった。聞き返したけど彼女は「二度と言わない」とそっぽを向く。それで意地になって、もういいよって返してしまった。 彼女とはそれっきり。 今日は風が強い。 無理だと知っていて、今さらなことも解っていて、あの彼女の呟きを返してと願う僕がいる。 #TwitterSS

2021-05-02 09:40:39
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

おじいちゃんの話は難しい。 何のためにあるのか。何故大事なのか。 さんざん講釈を垂れるくせに「この先は自分で考えろ」と突然突き放す。 考えてどうなるのさ。ぽそっと呟くと。 「どうなる訳ではなくても、考えねばならぬ」 まずは「考えること」について考えなくちゃならないみたいだ。 #TwitterSS

2021-05-03 09:49:57
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

伝説の剣を求める旅がようやく終わろうとしている。岩に突き立てられた剣の柄を握る。力を込めるとそれは呆気なく抜けた。まじまじと見る。これこそが伝説の剣。ぬっと精霊が姿を現す。 「おめでとう! 今度こそ本物の剣の在処を教えるね」 精霊とのこのやり取り、もう五回目なんだけど。 #TwitterSS

2021-05-04 09:37:11
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

目の前の事象に詩情のようなものを与えたくなるのはどうして。桜はただそこに在って咲いて散ってを繰り返しているだけなのに。 他所よりはるかに遅れて満開を迎えた近所の桜は強風に煽られ、はらりほろりと花弁を散らす。 それはまるで涙のようだ──などと。 野暮で陳腐でああつまらない。 #TwitterSS

2021-05-05 10:03:03
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

あのひとにとっては取るに足らない出来事だった。あのひとの立場で考えたら解る。でもわたしにとっては、そうじゃなかった。 あのひととわたしでは釣り合いが取れない。薄々感じていた事実を突き付けられて、ふふっと微かに笑っていた。 そうっと離れよう。 さよならなんて言ってあげない。 #TwitterSS

2021-05-06 10:56:15
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

目を覚ますとまだ世界は仄暗かった。夜が明ける前のその静寂に包まれながら、一度開いた瞼を閉じる。さてどうしよう。このまま起きるか、二度寝しようか。目を明けた。よしこのまま起きちゃおう。ベッドから抜け出して顔を洗って鏡を見る。 いつもよりちょっとだけキラキラのあたしがいた。 #TwitterSS

2021-05-07 13:19:27
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

「ほっといてくれない? そうゆうのメーワクでしかないし」 「ほっとけんし! おまえには笑っといてほしいし」 「余計なお世話」 おまえはふいっとそっぽを向くとストローを咥えた。口許が細かく震えてる。 素直じゃなくてかわいげもない、なのになんでこんなにおまえがだいじなんだろ? #TwitterSS

2021-05-08 09:47:05
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

昔近所にあった洋館の庭には見事な薔薇が咲いていた。目に痛いほど赤いのは人の血を吸うからという噂だった。一度だけ、水やりをする老婆を見た。その顔には目がなかった。以降、その洋館には近寄っていない。 後々、あの老婆は事故で顔に大怪我を負ったのだと聞いた。 創造力とは残酷だ。 #TwitterSS

2021-05-09 10:18:56
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

通い慣れた道だからかな、こんなところに花壇があったなんて知らなかった。 春はいつもあたしを置いてけぼりにする。ううん春だけじゃない。夏も秋も。冬にだけ敏感なのはあたしが寒がりだからだろう。 来年こそはあたしが先に春を見つけてやる。なんて。気が早すぎでしょいくらなんでも。 #TwitterSS

2021-05-10 09:32:04
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

その背中は僕が守ります──君の瞳に宿る光は決意に溢れ心強い。以来私は前だけを見て突っ走ってきた。 ──本当は。 私こそが君を守る盾。本当の勇者は私ではなく君。 だから私はpこの身を挺して君を守る。 最後に魔王とやらを討ち払うのは、その魂が持つ煌めき──人が希望と呼ぶものだ。 #TwitterSS

2021-05-11 09:44:45
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

その背中を見た瞬間、どきん、とした。おはようが言いたくて息を吸ったのに声が出ない。やり直し。 「お……、はよぅっ!」 ヤバ、変な挨拶って思われたらどうしよう? ちらっとこっちを見た目元がふにゃん、と柔らかくなる。また、どきん、とした。 「おはよう!」 こころがぽわっとした。 #TwitterSS

2021-05-12 09:46:52
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

わたしを目覚めさせてくれるひとを、ずっと待ってる。どれくらい待ったのかもう忘れた。長くわたしと共に在った彼がわたしをここに封じた。いつかまたわたしを必要とするひとが現れ、この封印を解くと言っていた。 世界のためには解かれない方がいいけれど。 そのときが来るのが楽しみだ。 #TwitterSS

2021-05-13 16:49:25
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

母はマーマレードを好んだ。どうにも好きになれず、どうしてこんなの、なんて残酷な科白を投げつけた。 今なら解る。 好んだ理由も、残酷な科白さえ笑って受け入れられることも。 「マーマレードしかないの? サイアクー」 冷蔵庫を覗いて娘がぼやく。 あの頃のわたしと母が、ここにいた。 #TwitterSS

2021-05-14 11:01:34
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

私が愛した王は、まるで自身の身の丈ぴったりに誂えたような風格を身に纏っていた。 戦で傷ついてさえなお堂々と力強く──死に様もまた、王に相応しいものだった。 彼は王であることを求められ応え続け、それは立派だったけれど。 生きていて欲しかった。みっともない姿を晒したとしても。 #TwitterSS

2021-05-15 09:04:37
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

あの子は夜の闇に紛れて屋根裏の窓からやってくる。僕とあの子の秘密の会瀬を知るのは月だけ。その月も明るすぎるとそわそわする。僕らの秘密を暴かれてしまいそうで。ひとときを過ごして自らの世界に帰るあの子が、どうか誰にも見つからないように。広がり始めた雲が味方みたいに見える。 #TwitterSS

2021-05-16 17:51:01
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

君が生まれた日のことは、正直よく覚えていない。気がついたら隣にいて一緒に遊んで喧嘩して、ムカつく、要らない、と何度思ったか解らない。 今でもムカつくしたまに要らないときもあるしそれはおそらくこの先も変わらないだろうけど。今日はまあ、やめておこうか。 誕生日、おめでとう。 #TwitterSS

2021-05-17 09:30:13
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

滅多に表情を変えない君がはにかんだ。 それが目に焼き付いて消えない。 何がどうして君にそんな表情をさせたのかちっとも覚えていなくて、だからいまだにそのはにかみを、再現させることができずにいる。 あのはにかんだ姿を、また見たくて。 今日も理由をつけて君にまとわりついている。 #TwitterSS

2021-05-18 09:36:46
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

暗い牢獄で絶望の中にいました。 日に一度供される食事はほぼ喉を通らず、微かな物音さえ神経に障り、固いベッドでは満足に眠ることもできませんでした。 死を意識し始めた頃──あの方が絶望から救ってくださったのです。 目映い光に包まれたその姿に、私は、一瞬で心を奪われたのでした。 #TwitterSS

2021-05-19 09:21:43
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

どこから来たのか、気がついたら袖に天道虫がくっついていた。摘まんで掌に乗せる。歩き出したのを確かめてからそっと手を立てる。指先のいちばん高いところから飛び立った天道虫はあっという間に見えなくなった。 ちょっとだけ羨ましいなと思うけど。 羽を持たない僕だから歩いて行こう。 #TwitterSS

2021-05-20 14:34:11
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

あたしのおじいちゃんは星の実を磨く職人さんだ。おじいちゃんの磨いた星の実は、他の誰の磨いたものよりうんと綺麗。あたしにもできる? と聞いたらおじいちゃんはちょっぴり哀しげに微笑んだ。女の子ではダメなんだって。つまんない。 どうしてあたしは男の子に生まれなかったんだろう? #TwitterSS

2021-05-21 10:11:53
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

記憶にあるあの卵焼きの再現を目指して今日もキッチンに立つ。レシピも手順も教わった通り、見た目だって遜色ないのに、食べてがっかりする。 「足りないのはきっと愛だよ」 君が言った。 「最高に美味しいよ、私にとってはね」 愛かあ。愛ねえ。 それ、簡単に言うけどめっちゃ難しいやつ。 #TwitterSS

2021-05-22 09:27:57
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

大好物のチョコチップクッキーをかじる。ちらっと目を上げると教室の対角線上にあいつがいて、アホみたいに爆笑してた。小さくため息を漏らしながら空を見た。雲が空豆みたい。こういうのを平和って言うのかな。もうひとつクッキーを摘まんだ。 もしこれが勇気を与えてくれるアイテムなら。 #TwitterSS

2021-05-23 09:30:20
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

お気に入りにの窓側の席に先客がいた。 「なんだよその目は」 先客はぼくを見て不機嫌そうに言う。どんな目をしたんだろう。適当に空いてる席につく。 「次からはここ空けておくな」 詫びるような空気を醸しつつ、さらに言われた。 喜んで譲るのに、君になら。 思いは言葉にできなかった。 #TwitterSS

2021-05-24 09:33:29
小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

とんがりコーンをキャップみたいにはめた指先を差し出された。ぱくっとするとその指の主は、にぱっと笑った。 「毒を仕込んだとんがりコーンだったら死んでるよ?」 「指ごと噛みつかれなくてよかったな」 悔しくて言い返す。 「そんなわけないでしょ」 お互いを信じあえる関係でよかった。 #TwitterSS

2021-05-25 13:49:56