シトスレイヤー第一話「第3新東京市炎上」より 「トキオ・スリー・イン・フレイム」
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スリケン。それを用いる生命は、最早この地球から喪われたはずである。エド時代、ショーグンとの盟約を以て、夏枯れの季節より逃れるため、方舟により太陽系外の宇宙へと旅立ったはずの、この世界を支配したイモータルたち。
2021-05-31 22:02:40無論、彼らの全てが宇宙へ去ったわけではない。例外はいた。また、メンキョを得てニンジャとなるためのプロトコルやオーパーツも、わずかだが地球に残された。
2021-05-31 22:03:18実際コーゾー・フユツキも、形而上生物学研究の過程で古典を当たりながらニンジャの存在にたどり着き、擬似的ながらハナミの儀式とメンキョの入手の再現に成功し、半端ながらもニンジャとなったものの一人である。肉体の動きこそ常人の2倍程度だが、その代わりニンジャ動体視力にだけは自信があった。
2021-05-31 22:10:47故に、見えたのだ。この世界の軍事勢力が装備するいかなる弾丸よりも早く、鋭く、B52のジェットエンジン4基を貫いた銀色の星4条が。「まさか……」現存する僅かな資料から得た半端なものとはいえ、彼にもニンジャ神話知識はある。ただのニンジャではない。
2021-05-31 22:11:10「暗殺拳チャドー……ツヨイ・スリケン!」今やニンジャのほぼ全てが宇宙へと去ったこの時代、あのスリケン投擲速度を出せるクランは限られる。
2021-05-31 22:15:29伝説では、多くのニンジャが星の海へと旅立つ中、僅かに残った神話級リアルニンジャの一人の存在が語られている。ドラゴン・ニンジャ。マスターチャドー。その奥義が一つ、ツヨイ・スリケン以外にあの速度はありえまい。
2021-05-31 22:15:41それを、一度に4つ。ニンジャの存在が語られなくなって久しいこの時代において、それほどのニンジャが、実在しうるのか? コーゾーは思考を巡らせる。可能性があるとするならば。まさか。セカンドインパクトを止めた、あの男が帰ってきたと?
2021-05-31 22:23:46家族を失い、絶望と失望の中、何もかもに耐えられなくなり、発狂し自我科へ消えたはずのあの男が?そんなはずはない。だが、黒い巨人、サキエルの視線が、おそらくはスリケンを投擲したであろうポイントを視た。(シトにはカラテが見えるのか?)コーゾーはまたしても驚愕する。
2021-05-31 22:24:08太古の昔よりニンジャとシトはお互いの存亡をかけ幾度となく戦い、大陸を叩き割り、海の底を抜き、環境を激変させ、数多の生物の大量絶滅を招きすらした。ヒトがヒトとなる以前より続いてきた、その人類には想像することも叶わぬほどの長き戦いの末、使徒は南極で眠る一匹を除きほぼ絶滅した。
2021-05-31 22:29:56だが、ニンジャたちの被害も凄まじいものだった。長き戦いにより、ジーンではなくミームによる間接的手段でしか子孫を残せない彼らのカラテは減衰し、いわゆる「夏枯れの季節」を迎えることとなり、劣等の存在たるヒト、モータルにすら狩られる存在と成り果ててしまった。
2021-05-31 22:30:11故に、彼らはエド・トクガワと盟約を結び、彼らの過去の遺産である方舟に乗り、再び力を取り戻すため、星星の海へと去っていったのだ。だが、この星の自然と海、ヒトを導くことを愛したドラゴン・ニンジャとその一門だけは、地球に残ることを選び、何処とも知れぬ自然の中へ姿を消したのだという。
2021-05-31 22:34:54妻を人造のヒト……より正確に言えば、人造のニンジャたるエヴァのコアへのダイレクトエントリー実験に使われ、さらにその光景を目撃していた息子が発狂。自我科送りとなった結果、自らも発狂したあの男は、自我科の閉鎖病棟に隔離されたが、しばらくして病棟を脱走、行方不明となっていた。
2021-05-31 22:35:33セカンドインパクト後の日本は、治安の良い国とは言えなかった。きっと野垂れ死んでしまったに違いないと諦めていたが、もし彼が、ドラゴン・ニンジャクランに拾われていたならば。いや、あり得る確率ではない。天文学的確率、という言葉ですら届かぬレベルの低確率と言っていい。
2021-05-31 22:39:27本物のニンジャはこの星から喪われたはずなのだ。だが、言葉は心と裏腹を叫んでいた。「アオバ、4番のカメラでシトの視線の先を映せ。2番スクリーンに投影、最大望遠だ!」「了解!」素早くオペレーターのアオバがタイプし、司令部右側2番スクリーンに望遠映像が映し出される。
2021-05-31 22:39:48草原の只中に、その男は、居た。己の眼差しを隠すように、茶色に染めた眼鏡をつけており、目から感情を伺うことはできない。耳から顎までを覆う髭。
2021-05-31 22:45:42ハンチング帽を目深にかぶり、身にベージュのトレンチコートをまとう。その右手には……やはり、スリケン。鈍い金属光を放つそれは、おそらくコーゾーのような似非とは違い、血中カラテから生成されたものに相違ない。
2021-05-31 22:45:56吹き抜ける無臭の風を嗅ぎながら、ゲンドー・イカリは己を見下ろす第三シト、サキエルを見上げた。南極の黒き月に残っていたシトの生き残りは、あの時皆焼いたと思ったが、やはり生命の実の種族。灰となってすら蘇るかも知れぬ。
2021-05-31 22:50:33いずれにせよ、関係はない。シトを利してヒューマン・インストゥルメンタリー・プロジェクトを目論んだゼーレは潰した。彼に無断で彼の妻を実験に利用し、人形を父親だと思い込んだままベッドから離れられぬ身と成り果てた息子の落とし前はつけた。
2021-05-31 22:56:54そして、キール・ローレンツを捉え、無慈悲に拷問し尋問した。顔の破孔が8つ、背骨の破孔がそれ以上となった時点で、彼は漸く白状した。計画は最早ゼーレのみのものではなくなっていた。各地に点在するネルフが独自にヒューマン・インストゥルメンタリー・プロジェクトを目論む状況と成り果てていた。
2021-05-31 22:57:20オリジンは複製により劣化する。『ほどほどの安物が増えすぎると高く良いものは売れない』とは、平安時代の哲人剣士、ミヤモト・マサシの言葉であったか。オリジンよりも劣化したシト、オリジンよりも劣化し、モータルのエゴに染まったヒューマン・インストゥルメンタリー・プロジェクト。
2021-05-31 22:59:15