超難解映画『マルホランド・ドライブ』を解説してみた（ネタバレ有り）

狂猫病 @kyobyobyo2

ホームレスが「ダン」＝ダイアンの最大の恐怖である理由は、それがダイアンの想像する、自身にとって最悪の将来であるからだ

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孤独で、ゴミ捨て場を住居とし女性性を完全に喪失しているそのイメージ（「ダン」はそのホームレスのことを「その男」と呼んでいる）は、ダイアンの理想とする「ベティ」の有り様──親切な人々に囲まれ、清潔で高級な住宅に住み、輝かんばかりの美と若さを発散しているその姿の、まさに対極にある pic.twitter.com/sI7zPb1j0P

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ダイアンの想像する「最悪の将来」のイメージは、このホームレスに至る前段階としてウェイトレスと売春婦があるようにも思われる 金髪のショートヘアはダイアンにとってトレードマークのようなものであり、夢の中で彼女と似た髪型の人物はダイアン自身を強く投影していると考えられるからだ pic.twitter.com/I2nSbUJ9Or

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田舎出身の女優志望→ウェイトレス→売春婦→ホームレスという職業の変遷は、ハリウッド転落人生のイメージとしては少々短絡的なステレオタイプに過ぎるだろう しかしこうしたイメージは、ダイアンにとって真に迫った恐怖であり、理想郷であるはずの「夢」の中でさえそれから逃れることができていない

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ミッドポイントにおけるオーディションの場面は女優としての「ベティ」が最も輝く瞬間であり、ダイアンの見る「夢」のまさに頂点だろう

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現実においてダイアンはこの作品のオーディションに落ち、逆に主役の座を掴んだカミーラが女優としての成功のキャリアを開始することになった カミーラとの出会いでもあるが、ダイアンにとっては幾度も幾度も繰り返し悔やんだであろう、女優業での大きな挫折だ pic.twitter.com/Z49uMniCAJ

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「ベティ」として、このオーディションを「夢」の中でやり直すことにしたダイアンは、かつて現実でカミーラがそうしていたように性的に大胆な演技を披露する（このことは相手役の男優が言及しかけている） pic.twitter.com/r3CcT6jlNC

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「ベティ」の演技は関係者に絶賛され、有力なエージェントの目にとまって成功の足掛かりを掴む──というのがダイアンの夢想した筋書きであり、「夢」でのオーディションは彼女の望み通りに進行していく

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ただし、現実世界でのこの『シルヴィア・ノース物語』の監督であったボブ・ブルッカーだけは「ベティ」に対してやや否定的であり、的外れな言動で周囲に呆れられている これはボブに落とされたダイアンの恨みが深く、彼を「無能な監督」だと決めつけているためだろう pic.twitter.com/r3FeFt0R3Y

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しかしこちらのオーディションが終わると、ダイアンの「夢」は徐々に破綻に近づいていく エージェントに連れられて行った先は「夢」の中での『シルヴィア・ノース物語』のオーディション現場であり、そこで監督の椅子に座っているのはボブ・ブルッカーではなくアダム・ケシャーだ pic.twitter.com/CpqK6QJfqk

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複雑な状況だが、「ベティ」がオーディションを受けていたのは「お蔵入りが確定している無名の作品」であり、「夢」の中での『シルヴィア・ノース物語』は、監督アダムが主演女優の選考に関してマフィアからの凄まじい重圧を受けている作品となっている pic.twitter.com/5KFqEcMFLN

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なぜこのように奇妙な、『シルヴィア・ノース物語』の分裂が起こっているのか？ それは「夢」の主であるダイアンが、現実における自らの落選理由に、演技力や容姿といった能力不足以外の特殊な要素を外部へと求めてしまったからだ

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つまり、「オーディションのやり直しで自分の才能を認めさせる」という望みと同時に、「才能ある自分が起用されなかったのは、外部からの圧力が製作上層部に働いていたからだ」という、ダイアンにとって極めて都合のいい陰謀論を『シルヴィア・ノース物語』へ適用しようとしていたわけだ

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この圧力は作品の監督を非常に苦しめるため、「夢」での『シルヴィア・ノース物語』の監督は、ボブ・ブルッカーから「アダム」へと置換されている 現実においてダイアンに起こったあらゆる不幸や不遇を「夢」の中で引き受けることこそ、「アダム」の役割だからだ（浮気、映画界からの拒絶、破産など）

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そして、マフィアの圧力によって主演に捩じ込まれるのが記憶喪失の「リタ」であっては全く辻褄が合わないし、「ベティ」の恋愛にも都合が悪い そこでダイアンはここに、現実でカミーラの新しいガールフレンドになったと思しき金髪の女をキャスティングする pic.twitter.com/4uHII6WmmU

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彼女には「カミーラ・ローズ」という名前が与えられている これは「重要な役を汚い手で奪い取った売女」という、現実のカミーラに対してダイアンが感じている属性を「リタ」から切り離すためだ pic.twitter.com/sAly25YScb

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しかしエージェントによって「アダム」と引き会わされる状況に至って、ダイアン＝「ベティ」は筋書きの致命的欠陥に気がついてしまう 現実において『シルヴィア・ノース物語』で大成功したカミーラはどうなったか？

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第三幕で描かれているように、カミーラは三流女優の恋人ダイアンを捨て、有望な若手監督アダム・ケシャーの妻となる 羨望の対象である女優・カミーラの軌跡を「ベティ」に辿らせようとしていたダイアンにとって、これはうまくない流れだ

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ダイアンは、「ベティ」と「アダム」が恋仲になることなど全く望んではいない 恋愛対象として彼女が本当に欲しているのは、ただ一人、カミーラ＝「リタ」だ

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だから「ベティ」は「アダム」と対面する直前で身を翻し、「リタ」のもとへと駆け戻ることになる 女優業のやり直しはひとまず中断し、まずは「リタ」とともに彼女のミステリーを追い、関係を進展させていくことをダイアン＝「ベティ」は選んだ

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二人が追うミステリーとは、「リタ」が記憶していた「ダイアン・セルウィン」という名の人物が何者であるかだ 「夢」の中の「ダイアン」は現実のダイアンと素性が部分的に重なっていて、「夢」と現実のリンクポイントのような存在となっている

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ダイアンの住居がある戸建てアパート「シエラ・ボニータ」では、時系列にいくらかの混乱が見られる このアパート内では「ベティ」がハリウッドにやってきた「当時」ではなく、ダイアンが17号室に閉じこもっている「現在」の状況を多分に含んでいる

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表札で「ダイアン・セルウィン」が住んでいることになっていた12号室から出てきた不機嫌そうなブルネットの髪の女は、「ダイアンは17号室よ。私たち、部屋を交換したから」と述べる その言葉と表札が正しければ、このブルネットの女の名前は「LJ デローザ」だ pic.twitter.com/8qWtbjhtRF

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