【2021年8月】1日1SSセルフまとめ

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

地図を指でなぞって目的地を見定めて、顔を上げて途方に暮れた。地図で見ればこれっぽっちの距離なのに。どれくらいかかるのか解らないけど進まなきゃ近付かないなんてなあ。さっと掲げた左腕に相棒が舞い降りて一声鳴いた。よし、行こうか。相棒の目がいつになく賢そうに煌めいて見えた。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

君が最後のひとりだ。 そう言われても一切の反応が出来なかった。 ぼくが最後ってことは、このあとはもうだれひとり助からないってことで。最後に選ばれたのがぼくで、ほんとうによかった？ ヘリの窓から地上を見下ろす。まだあんなに、営みが明るく灯っているのに。 ぼくが最後だなんて。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

史上最大級の流星群を観測できるでしょう。 ウェザーニュースのキャスターがうきうきとした口調で告げた。気がつくとぼくはきみにそのニュースをそのまま伝えていた。きみからの返信。 『動画を送って』 うん、とディスプレイに頷く。耳の奥で星が流れる音がする。これも動画に残せるなら。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

むしゃくしゃしたら沼に小石を投げ入れる日々を繰り返していたら、底に引きずり込まれた。沼の主曰く、小石を片付けなければ元の世界に帰れないそうだ。来る日も来る日も小石を拾うが全く片付かない。きっと誰かが投げ入れているんだろう。ありがたい。 元の世界に帰るなんて真っ平御免だ。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

あのひとの幸せがあたしの幸せ──なんて。 心の底では思うけど口に出したりなんかしない。だってあのひとはあたしの幸せなんて考慮してないもん。好き、のバランスが悪すぎて泣くを通りすぎて笑う気にもなれない。 それでも。 あのひとの幸せを願うあたしを消せない。 あたしは、馬鹿だ。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

また「今日」が始まる。何度も同じ「今日」を繰り返すうち、どうすれば「今日」を終わらせることができるだろうと考えつく限りの行動を試した。明日こそ新しい「今日」がやってくるはずだと思いながら眠りにつき、目覚めた瞬間に絶望する。 もう解ったよ。今日で「今日」をおしまいにする。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

望めば何でも手に入る。実際その通りになった。それなのにあの子の心は手に入らない。 「話が違う」 「それはきっと本当の望みじゃないのさ」 悪魔は答えて旨そうに饅頭を頬張った。そんなはずはない、反発すると美しい笑みを返された。 「しっかり本心と向き合え」 悪魔に言われたくない。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

今日もエアコンをつけたまま家を出る。スマートホームを導入しようか、でもサーバーダウンが怖くて迷っている。仕事を終えて帰ればきみが出迎えてくれる。すぐに撫でたいのをこらえてシャワーに直行。 今日だけじゃなく、明日も明後日も、その先もずーっと。 きみの安全と幸せを願ってる。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

おまえは勇者なのだよと言い聞かされて大きくなった。僕は弱音ひとつこぼすことも許されず、常に勇者であることを望まれた。世界がどうなろうと知ったことではないが、僕が勇者である為には魔王を討たねばならない。目の前の大きな扉を押し開く。 さあ魔王よ、我が為にその命を捧げるのだ。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

次は君の番だよ。目には見えないバトンを託された気がして緊張で身が引き締まる。手が滑って落とすかもしれない。落としたところに運悪く誰かの足がぶつかって、明後日の方向へ飛んで行ってしまうかも。そんなときにはみっともなくても這いつくばってバトンを探そう。 次の誰かに託すため。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

私が見ているものはすべて嘘なのではないか。だとしたら私が「私」と思っているものも私ではないのかもしれない。キーボードを叩く手が止まる。はて、私は何をしていたのだったろう。白く光るディスプレイは、眺めるうちに輪郭がぼやけていく。 「また失敗か」 その声を最後に音が消えた。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

流れ星を捕まえたはずだったのに、手を広げてみたらそれはヤシガエルだった。隣で君がバカにしたように笑うから、もしかしてとその手を掴んだら、そこにあったのはキリルの花弁。笑い返してやった。 「捕まらないね」 「捕まらない、ねぇ」 でも大丈夫、星が流れる夜はまだまだ終わらない。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

郵便受けに待ちわびた手紙。大事に抱いて自室に戻り慎重に封を解く。煙がわいて懐かしい笑顔が浮かんだ。くるくる表情を変えながらの独り語りが終わり煙は消える。開封時一度きりの魔法だ。 さっきの独り語りと一言一句まったく同じ文面を読む。最後の言葉を反芻していた。 早く会いたい。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

生きている意味なんてどこにもない。だからもう死んだって構わない。 醒めた瞳で吐き捨てたキミに。 それならボクが作ってあげる。 明日、一緒にお好み焼きを食べに行こう。明後日は映画で明明後日は日帰り温泉。 醒めた瞳で少女が言った。 バカなの？ キミのためならバカにだってなるさ。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

おや、またあなたですか。ほどほどにと忠告したのに、すっかり取り込まれてしまったようですねぇ。……いいでしょう、お好きにどうぞ。これまでの傾向からするとこの辺りがお薦めですね。ああでも、慎重にお選びくださいね？　間違いなくこれが、あなたが買う最後の夢になるでしょうから。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

どこが好きかと聞かれたら迷わずぜんぶって答えるよ。そりゃあね、人間だもん、嫌だなって思うところもあるけれど、それは嫌いとは違うでしょ。直してほしいことがあったら言うし、直らなかったらできるだけスルーするよ。自分じゃない誰かと一緒に生きるって、そういうことだと思ってる。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

買い置きのカップのお高いアイスクリームが、いくら探しても見つからない。おかしいな？　冷凍庫の中身を全部出しても見つからず、整理しながら片付けてたら彼の「ただいま」が聞こえた。キッチンに直行してきた彼はあたしを見て「あ」という顔をした。もしかしなくても。 犯人はおまえか。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

最寄りのコンビニから急ぎ足で帰途につく。夜中にどうしても我慢できずに食べてしまった彼女の『ご褒美アイス』、ばれないうちに戻さないと。「ただいま」からキッチンに直行。冷凍庫をごそごそやっている彼女と鉢合わせた。顔が怖いよ。いやぼくのせいか。 無言でコンビニ袋を差し出した。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

世界中を巡っていろんなものを見てきた。醜いものばかりでうんざりしている僕の隣で君は、きらきらと瞳を輝かせる。理由を問えば世界が美しいからだと答えた。そうか、君が見ている世界は美しいのか。僕にとってはその瞳以上に美しいものはないというのに。君と同じ世界を見てみたかった。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

初めて君を見た時、髪がなくてびっくりした。剃ったら濃くなるよって言われたけど拒否した。胎毛筆を作るのが夢で。筆が作れる量になるまで三年近くかかった。 それが今。 君は鏡の前でぼやいている。 多いし固いしセットしにくいし。 赤ん坊の頃、髪が薄い子ほど濃くなるって本当らしい。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

そういうときは美味しいものを食べるのが一番だと、用意してくれたのは少々焦げ目のついたホットケーキだった。焼き立てのそれに惜しみなくバターの塊をのせて。 「このバターがめっちゃ美味しいんだ」 楽しそうに歌うように君が言った。 バターの匂いが鼻をくすぐってお腹がぐうと鳴った。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

写真を撮るときに「はい、チーズ」って言うじゃない？　あれがどうにも恥ずかしくて言いたくないんだけど、ほかにいい案ってないかねえ？　はい？　これでも、至って真面目な話をしてるんだけど？ このタイミングで写真撮るか普通。え、動画？　うわあ……信じられない。撮るって言ってよ。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

初めて顔を見て驚いた。想像よりも鼻が大きくて唇が薄くて、かわいくないとは言わないけれど、もうちょっとこう──。がっかりした？　聞かれて慌てて首を振ったけれど、彼女は傷ついた顔をした。それから彼女は急いでマスクをかけて笑った。目元は笑っていても本心かどうか解らなかった。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

眠る直前にきみの泣き顔を思い出すことがある。ずいぶん前、心にもないことを言ってきみを泣かせた。もうきみに会うことは無いのに、きみを泣かせたという事実はいまなお、ぼくの記憶に爪を立て痕をつける。伝わらないし伝わったところでどうにもならないのは解ってる。それでも。 ごめん。 #TwitterSS

小椋 杏/おぐら あん @ogura_anne

おそらく深い意味は、ない。そう思うのにあのひとの言葉に躍らされるあたしがいる。 幸せなのだ、たとえただの勘違いに過ぎなくても。 今日もまた、あのひとの言葉を脳内で再生しながら小さな部屋へ帰る。 言葉に色があるのなら、本心から出た言葉は常盤木のような深い深い緑であればいい。 #TwitterSS