-
matorunrun1
- 111674
- 522
- 57
- 124
これまでのあらすじ
1、安久工機に工場見学希望の電話が
2、電話主の息子さん(小学生)が人工心臓に興味を持っているとのこと
3、さらに詳しく話を聞くと、少年の知識のガチさに現場パニック
4、安久工機、大喜びで工場見学を受け入れる
5、安久工機、少年の見学を成功させるべく万全の準備に取り組む
6、ついに安久工機の工場見学実現、少年も大人も初日からフルパワーの対応
【これまでのまとめはこちらから】



2日目はリラックスしたスタート

【二日目】 その日は朝から突き抜けるように透明な青空が広がっていて、見上げているだけで吸い込まれそうな気がしました。 会社に到着すると、まだ7月半ばの9時過ぎだというのに事務所はすでに蒸し暑く、あわてて冷房をかけましたが前日の熱気も冷めやらぬうちにBEN一家がやってきました。
2021-08-29 21:22:49
BENは初日の対面時とはうってかわってリラックスした表情で、到着するなり展示棚の品を手当たり次第に取って眺めていました。 妹ちゃんは「りさちゃん(妻)いますか!」と言うので「ごめんね、りさちゃんちょっと遅れるって」と伝えました。 妻はゴルフの練習を2コマも入れたことを後悔していました。
2021-08-29 21:22:50川沿いのお散歩で「波」の観察を始めたBEN少年

私達は社長の提案で多摩川の土手に散歩に行くことにしました。 私は汗をダラダラ流してトボトボ歩いていましたが、子供達はピンピンしていて彼らの背丈よりも高い雑草の中をグングン進んでいきました。 川岸に辿り着くとBENは一目散に水辺に駆け寄って波を立て始め、妹ちゃんもそれに続きました。 pic.twitter.com/LDxQiiKtwV
2021-08-29 21:22:51

「なんか波が好きみたいです」 と水際に仲良く並んでしゃがみ込む兄妹を眺めながら母上が言いました。 BENは幼い頃から身の回りの現象に周囲の子供達とは違う反応を示したそうです。 飽きもせずにじっと観察し、なぜそれが起こるのか彼なりに考え、いつも新しい"アイデア"を頭の中に描いていました。
2021-08-29 21:22:52
そのBEN独特の反応に気付いてからは、できる限りそれを捉えて言語化し、関連する情報に触れる機会を作ることに必死だったそうです。 そう話す口ぶりは何か達観していると言うより「振り回されて困ります!マジで!(爆笑)」とサバサバしていて、ある意味子供のような方だなと可笑しくなりました。
2021-08-29 21:22:52
彼らの頭の中からポンポン飛び出る興味関心を一つ一つキャッチするって、とんでもなく大変なことだと思います。 彼らの頭の中にあるうちは、それはしなやかで柔軟で全方向へ無限の可能性を秘めた姿をしていますが、言語化された瞬間、受け止め方によって私たちがその姿を歪めてしまうかもしれません。
2021-08-29 21:22:53
それはちょうど両手にすくい上げた新雪のようなもので、力を加えればホロホロと崩れてしまうし、余計な熱を加えれば溶けて消えてしまいます。 正しい受け止め方ってなんだろうとぼんやり考えましたが答えは出せませんでした。 兄妹が多摩川で泥パックを始めないうちに川を引き上げることにしました。
2021-08-29 21:22:53BEN少年のアイデアの開発会議に突入

工場に戻るとBENの開発会議が始まりました。 面白いのが母上、父上、社長のファイトスタイルがそれぞれ全く異なることです。 口数の多くないBENの一言をきっかけに、母上は「これ?こういうこと?こうしたいの?なんで?じゃあこう?」と、とにかく手数を繰り出すインファイターでした。
2021-08-29 21:22:54
父上は工学の心得があり、母上のインファイトを横で聞きながら時折論理的かつ現実的なコメントで刺しに来るカウンターパンチャーでした。 対する社長はそんな3人のやりとりをじっと聞きながら長い間沈黙し、突然確信的な一発を放り込んでまた黙るというベテランのヒット&アウェイスタイルでした。
2021-08-29 21:22:55
BENの頭の中にはすでに確固たる何かがある様子で、目の前の人工心臓やみつろうペンの試作品に夢中になりながら、腹壊すんじゃないかというほど次々にヨーグルッペを飲み干していました。 それからBEN一家は安久工機を隅々まで見学したり、趣味の話をしたり、好きな端材を集めたりして過ごしました。 pic.twitter.com/qtQBHonmIM
2021-08-29 21:22:56
帰る時間が迫り、ソワソワし始めるBEN少年

あっという間に夕方になり、帰る時間が近づいてきました。 車に荷物を積み込みだした頃、BENがソワソワしはじめました。 母上が「ほら、ちゃんとちゅうさんにお願いしなよ」と言います。「千と千尋でしょ」と。 「せんとちひろ?」 とぽかんとしている私に、BENが意を決したように言いました。 pic.twitter.com/w3CDRzKUYW
2021-08-29 21:22:58

「 こ こ で 働 か せ て く だ さ い ! ! 」 さすがに笑いました。 テンパった私は「そ、それじゃ児童労働になっちゃうよ」などというワケのわからないことを口走っていました。 「今からお前の名前はBENだ!」 と返す余裕はありませんでした。
2021-08-29 21:22:59
つまるところ来年中学生になっても研究を進めたいと。 そこで夏休みにまた安久工機に来るので、お手伝いでも雑用でもなんでもするから人工心臓のことやモノづくりのことを勉強させて欲しい、ということでした。 これも何かの縁です。 研究のことはいつでも手伝うし好きな時においでと伝えました。
2021-08-29 21:22:59BEN少年一家との2日を振り返って

BEN達は遙か北陸までの道のりを車で帰って行きました。 みんなきっと疲れていたことでしょう。 最後まで身を乗り出して手を振るBEN達の車を見送りながら「こりゃ一生の付き合いになるな」となんとなく確信がありました。 もはや「実は親戚でした」とかあっても驚かないと思います。 pic.twitter.com/ekPrErbr7T
2021-08-29 21:23:01


BENは普通の子です。 もちろん、ある部分においては非常に優秀なところもありますが、苦手なこともたくさんあって、でもそれを乗り越えるために泣きながら努力したり、悔しいことや悲しいことも経験してきた一人の人間で、妹と公園の水飲み器を全開にしてゲラゲラ笑い転げる、優しい少年でした。
2021-08-29 21:22:54