パイデでオメガの話

かむい @sunyaxxx

「は？」 りょーまが結婚する。 相手の写真を見せられた。 長年の拗らせた想いを今度は素直に出そうと決意した、この世界で。 長髪で癖毛が強く気の強そうな琥珀の瞳。 アルファに選ばれたオメガの女。 自分ならりょーまの隣にたてるだけど腕を持つと言いかけて、

かむい @sunyaxxx

「腕だけの出来損ないのオメガはいらん」 ぴしゃりと言葉にする前に言われてしまった。 「いざとなっても支えられるだけの頭のない奴はいらん」 ただでさえ、オメガは出来損ないだと言うのに最底辺近くをうろつくほどの奴に、しかもりょーまと釣り合いのとれない男のくせにと吐き捨てられる。

かむい @sunyaxxx

せっかく、この不自由な世界に生まれ変わって素直になって側に、と思っていたのに、それなのに、りょーまの稼業が邪魔をする、 「りょーまも、この女を気に入ってる、もう子作りの準備は済ませた」 「………」 「護衛の腕だけは買ってやるが、それ以上は、…、わかったな」

かむい @sunyaxxx

釘を十分にさされ項垂れ、それを確認して一人にされた。 この辛い想いは心の底に封をしよう。 言葉にさえしなければ、りょーまを護る武器として側にはいられる。 だから、だから、今日だけは赦されたい。 泣くことを。

かむい @sunyaxxx

実らない恋は幾重にも厳重に鍵をかけて捨ててしまうから、だから、今だけは泣かせて。 「僕、好きな人がいるんです」 こんな稼業は好きで継ぐわけじゃない。 継がないと病弱な母のためにかかる医療費を稼ぐことができないから継ぐだけだ。 だけども一つだけは好きにさせてほしい。

かむい @sunyaxxx

実績はあげた、だから、この不自由な世界の中で、ようやく確実な楔と重石をつけて逃がさない手段を手にすることができる。 「打ち切られたいなら好きにしろ」 「は？」 「この女と結婚しろ、あれは足手まといになる」 写真を投げられ開かれる。

かむい @sunyaxxx

この稼業にもぴったりの女を用意している。 「あれは、もう他のアルファの子を宿した」 「なん、て？」 「お前が一途に想っていても、もう他のアルファが手をつけて孕んだと言ってる」 何を言われているのかわからない。

かむい @sunyaxxx

この世界において間違いなく自分を好きだと思っている。 だから、あとは言葉にして迎えに行くだけだと、なのに目移りして自分以外のアルファの子を？ 嘘だ、そんなの認めない。 だが、証拠を見せられる。

かむい @sunyaxxx

それは、どの部分を見ても間違いない本人と角度で見えないが番になる男と絡み合っている隠しカメラに映るいぞーの顔だ。 初な生娘の顔で恥じらう顔で抱かれている。 「嘘だ、嘘だ、嘘だ！！」 絶叫した。

かむい @sunyaxxx

時間をまたがり遡り絡まるのを紐解けば簡単な事だった。 間違いなく隠しカメラに映っていたのはいぞー本人だし、この後、いぞーは懐妊し一人子供を産んだが死産した。 同時にりょーまの番になった女は無事に跡取りなる男児を産み歓迎された。

かむい @sunyaxxx

りょーまへの想いを経ちきらせて起きながら数年後、大金をもってりょーまに内密での仕事だと言われてきてみれば、 「は？りょーまと子作りしろやと」 何言ってんだ、こいつら？と一瞬頭に血がのぼりかけたが、 「意味がわからん」 「りょーまと番になった女に欠陥があった」

かむい @sunyaxxx

そういうことか、その女とりょーまとの間に成せないから、ようは仮腹に差し出せと言うことか。 自分達の調べたら最高のオメガだというのに最低のオメガと認知しているいぞーに頼むほどに事態は切迫しているようだ。

かむい @sunyaxxx

向けた背を表にし側にあったタバコを一本とり先端に火をともす。 そして足を組んで上から見下ろし、 「金はわかった話もわかった、そいでもたらん、条件を二つつけたせや」 痛いことは嫌いだ、心底嫌いだが、これはチャンスにもなる。

かむい @sunyaxxx

「やってやるきに、りょーま自身とやらせえ」 いぞーの腕は確かだ。 今、目の前にいる男達に襲われても逆に始末できるだけの腕はある。 「安心せえ、あいたあを、わしとやる時だけでえい、薬で頭溶かしゃえいきに、ほいたら夢の中でえ～きになって、わしの腹ん中にぶちまけてしまいじゃ」

かむい @sunyaxxx

にぃっと笑みを浮かべる。 これは取引だ。別にりょーまとの子を無事に孕み産んだとしても本人に言う気は一切ないし、それにもう終わったものだ。 ここ数年、りょーまの足元をうろちょろと走り回る雑魚の露払いで本人にもあってはいないし。

かむい @sunyaxxx

それでいいだろうと。 女もどうせ承知していぞーに頼みに来ているだろうと。 それで十分、これも良い想い出にして終わる。 それくらい赦せよと意味を込めてやると男達は舌打ちし了承した。 そして、あの隠し撮りだ。

かむい @sunyaxxx

二人は数年会っていないのだ時間差がそこで生まれて撮された。 だから、りょーまはあの時隠し撮りされていることもいぞーと寝たことも知らないのだ。 その瞬間だけ、どれだけ薬で溶かされようともいぞーと認識し抱き潰したことも多幸感を覚えてこと全て薬で忘れているのだから。

かむい @sunyaxxx

りょーまは、自分自身に嫉妬している。 いぞーを抱いたのはりょーまだ。 だから顔だけは撮されていない。 そして、いぞーはその一度の契りで懐妊し出産し、死産したのではない、りょーまのパイロンの後継者として取り上げられたのだ。

かむい @sunyaxxx

それでも生まれるまでの間、幸せだった。 りょーまと自分の分身が腹に一時でもいたのだから。 それを大事に大事に護った。 産むまでの間、何度となく声をかけ泣きながら腹の中で育てた護った。 生きるには険しい道になるだろうことはわかっていた。

かむい @sunyaxxx

泣いてあやまって、それでも一縷の望みをかけて願った。 幸せになれ、いつか幸せに…と。 自分は望まれなかったけれども、お前はみんなに祝福され望まれてくるのだ。 命をかけて護ってやる。 だから幸せに…。

かむい @sunyaxxx

心だけが空虚になっていくのがわかる。 そして見も知らぬアルファに嫉妬する、小さな種火は一気に燃え上がり空虚な心を駆け巡る。 あの初々しく恥じらう顔見たの誰だ、初めてだっただろうに乱暴であろうととも七日七晩抱き続け、あの体の奥に刻み込み、あまつさえ子供を産ませた憎いアルファ。

かむい @sunyaxxx

物腰優しく柔らかな笑みの下は恐ろしい嫉妬の炎が全身を駆け巡り支配している。 自分といぞーの間に生まれた子供と知らない、りょーまは子供が成長するにつれ遠ざけた。 ほぼ同時期にできて自分の伴侶となった女が産んだ子供は周りからの祝福と喝采を受け幸せに育てられている。

かむい @sunyaxxx

だがいぞーの子供は死産したのだ、いぞーは普段の言動や粗野な態度とは裏腹に子供に優しいことを自分はよく知っている、痛いことが嫌いないぞーがよっぽど好いて産んだ子供だろうに死産させてしまったのだ、きっと心の傷は深かろう、それを思うと我が子に罪がないとわかっていても、

かむい @sunyaxxx

どうしても遠ざけてしまう。 どれだけ祝福されようともこの稼業は人の恨みしか買わないのだ、子供の行く末を考えればなんと残酷な立場で生まれてきたのだろう。 同情と憐れみと…そして、『なぜか』いぞーによく似てきている子供を見るのは辛い。

かむい @sunyaxxx

だから遠ざける、できれば、この子供だけでも幸せになってほしくて遠ざけ続ける、年に数回顔を見ればいい方だ。 「りょーま」 長い黒髪の紅の瞳が特徴的な誰もが一目見れば妖艶でだが冷たさを含み一歩を踏み出すことができない女性が入ってくる。