【目を閉じて九月】福間健二 #k2fact305

福間健二 @acasaazul

おぼえたい動作、目を閉じてもできるようにならなくては。楽器を弾くように。頭のなかのラストナイト、光線がグラスと傷口を追いかける。応急処置で眠らせたもの、もう二度と目覚めないってこともある。日々の裏側からの声にバランスを崩しても、それだという閃きまで。（目を閉じて九月１）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

軸は、いらない。足裏が感じとる星の悲しみも効きすぎないようにして、さまざまな周波数に揺れる。頼まれたこと、ほとんどしてない。きのうの計算はまちがいで、たぶんサルスベリしか咲いてない。何になれとも言わない東京の曇り空。愛嬌、度胸、どちらも少しは必要。（目を閉じて九月２）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

独房の壁の、可愛い娘たちの写真。自殺ノートに滑りこませた、だれにも解けない暗号。ひどいことをする。解決と未解決のどちらに向かっても、そう言った。救いたかったのは遠い昔の生命の記憶。波止場の夜のパフォーマンス。スープにもならない骨と皮が笑っているぜ。（目を閉じて九月３）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

殴られる場所。生きる場所。痛くても、体を硬くしなければいいのだ。スウォンジーで拾った貝殻が踏まない思春期の足を思い出して、静かな平行線のあいだをケースに入ったネジやゴム輪が滑っていく。感情の靴下、在庫あるってこと。降ってなさそうでも降っている。（目を閉じて九月４）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

左手、うまく動かそうとしなくていい。教育は忘れろ。頬を撫でながら、暗い場所でも明るい場所でも女性に会う。その人の子でも親でも兄弟でも性の相手でもなく、その目に見られる者として。北海道のトウモロコシを食べる。おいしそうに。見られていることを忘れない。（目を閉じて九月５）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

ゴミをすてる場所。黄色い森のなかに消える道の説明。わかりにくさ、渋谷駅のような構造になっていると思った瞬間にもっと未来の波が来て、もっとわからなくなる。位置、それよりも嘘のツルクサの絡まり方とその寿命。意外なことに風がほとんどない。死者をすてる場所。（目を閉じて九月６）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

小さな窓からの、地平線。人間として生まれなおすため。そこに何を飛び込ませるのか。迷っているうちにドミンゴの黒を何本か吸い、心臓に突き刺さった針を抜き、思考が届く範囲のつめたい肉にさわった。いつかの娘のように衣装を脱いで自分が飛び込む。明日は晴れる。（目を閉じて九月７）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

ひどい扱いされながら、憎むこと、信じないこと、荒漠の手前の二十歳が倒れている。取り消したい抹消線を自転車で横切るぼくの、きょうの風景論はどうするかというと水に歌わせないし、木には祈らせない。ホンマか、おっさん。二十一世紀の脱落キャプテンが起きあがる。（目を閉じて九月８）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

そんなに痛くないから、大丈夫です。そう言われて彼の胸はじんとした。打つ棒のイメージを紙で巻く。せめてきれいな切れ目を上にして。太陽が沈み、非常階段を降りる影もアウトで、もう輝かせるものがないとしても、自由よ、やさしい秋の雨を降らせることはできるぞ。（目を閉じて九月９）#k2fact305

福間健二 @acasaazul

彼は踏みこえた。ぼくはグズグズしている。渦巻を脱出したり掃除機をかけたりする姿があるのだ。感染など気にせず抱擁を求める人たちとの午前がすぎても、目を閉じると無方向に離れたところで開くドアがある。想像したくないのに想像してしまう。なにかがやってくる。（目を閉じて九月10）#k2fact305