『タルト』2021.6.21(夏至)

多崎礼『煌夜祭』の世界観で描いた短編です。
0
多崎礼 @ray_tasaki

今日は夏至ということで宣伝をします! 『煌夜祭』の外伝『 夜半を過ぎて〜煌夜祭前夜』は冬至の前夜に語られる夏至の夜の物語です。短編ですのでさっくり読めます。ほんの少しだけ世界の秘密にも触れています。電書版で110円(税込)です。未読の方はこの機会にぜひ! amazon.co.jp/dp/B00AQY9F6A/…

2021-06-21 09:09:02
とおる7th @windcreator

──冬至の夜に『煌夜祭』、夏至の日には『夜半を過ぎて 煌夜祭前夜』こうですね、わかります。 そして、2013年の、Amazonレビュー、これは、もしかしなくても、わたし

2021-06-21 09:53:09
とおる7th @windcreator

はるか遠い日の自分の文章が急に現れた時、不思議な、タイムカプセルを開けた感慨を得る。

2021-06-21 16:39:55
とおる7th @windcreator

煌夜祭が冬至の夜なら、たぶんきっと、ちょうど半年前の夏至の日あたりから、領主は誰を煌夜祭に呼ぶのか、あーでもないこーでもないと悩むのではないか。そもそも、招待したところで本当に来るのかも知れぬ正体不明の語り部ばかり。するとやはり領主がよく知る、信頼する常連の語り部がいるわけで、→

2021-06-21 21:01:21
とおる7th @windcreator

→そんな常連に対して今年もよろしくとささやかな会食をしてお土産を持たせ、頼むから他所に行かないでくださいね、しっかり語れる語り部がいないと煌夜祭の体裁が保てないですし、面目丸つぶれなわけですから、という場面は往々にしてあるのではないでしょうか。

2021-06-21 21:04:04
とおる7th @windcreator

今年は幾つのタルトを用意するべきか。この島で採れる新鮮な果実を惜しみなく使ったタルト。他の島では到底味わえない甘味。領主の屋敷で料理長が全魂を込めて作ればなおさら、その味は口にすれば二度と忘れる事のない美味である。“また味わえる”それだけで、誰もが二度三度とこの島を訪れたくなる。

2021-06-21 21:10:18
とおる7th @windcreator

しかし、有象無象ばかり寄せ集めても、領主は喜ばない。領主は味にうるさいが、趣味はと聞かれれば、食べることよりも面白い話を聞く方が好きなお人なのだ。お忍びで酒場に入り浸り(バレバレだが)、旅人と聞けば屋敷に何日も留めて飽きるまで話させる。そうするうちに舌よりも更に耳が肥え、

2021-06-21 21:14:14
とおる7th @windcreator

領主の知らぬモノは数えるほどしか無いのではないかと思われてきた。次に振るサイコロの目であったり、百日も先の天気であったり、語り部を騙るニセモノの拙い物語の行く末であったり、そういうものだ。だからもう半年しか残されていない今も、屋敷からは何人も優れた語り部を探しに旅に出ている。

2021-06-21 21:19:17
とおる7th @windcreator

私はというと、何日も掛けて厳選した素材と、採れたての最高の果実を用いて、語り部たちの胃袋を掴むタルト作りに余念がない。語り部とは、不思議な存在だ。私のタルトの出来が彼らの足をこの屋敷へと向かわせられるなら、それはこの上ない名誉である。この島に定住する老練、酒場で人気の新顔、

2021-06-21 21:25:18
とおる7th @windcreator

まだ見ぬ、あっと驚くべき物語を語る、語り部たちよ。今からもう、煌夜祭が待ち遠しい。 「タルトはどう?」 没頭しているうちに一番長いはずの日が落ちていた。作りたてのタルトは屋敷の皆総動員であちらこちらへと飛ぶように運ばれていく。最後に残ったのは、領主に捧げるとっておきのタルト。

2021-06-21 22:34:23
とおる7th @windcreator

「ちょうど、今日の中でも最高のが、出来上がったところです」自信がある。舌の肥えた領主でも、満面の笑みで頬張るはずだ。 「ふ〜ん」機嫌が悪い。「まぁ、りょ〜ちゃんのお菓子、何でも美味しいし」領主、ちゃんと料理長と呼ぶ約束です。「別に、領主が幼馴染みをなんと呼ぼうが、自由だから」

2021-06-21 22:40:52
とおる7th @windcreator

風向きがおかしい。「今、この屋敷には、私とりょ〜ちゃんの、二人きり、です」雲行きが怪しい。「さて、何でも知っていると噂される領主が知りたくてたまらない事はなんでしょうか」助けを求めて窓の外に目をやれば、半月が煌々と夜を照らしている。「一つ、今年のタルトの味」近い近い近い。

2021-06-21 22:45:17
とおる7th @windcreator

「二つ、半年後の煌夜祭」幼い頃と変わらないきらきらと輝く瞳と、全く変わってしまった美しいその顔に見蕩れる。 月明かりに、どこかいつもより赤らんだその顔が、大きく息を吸う。

2021-06-21 22:51:26
とおる7th @windcreator

「三つ、どんだけあからさまにアプローチしても全く通じないし領主になった勢いで幼馴染みのよしみで雇ってみたら料理の道に目覚めて私の事全然構ってくれないし私よりタルトの方が好きなのなんなの私ばっかりドキドキさせられてばかりでムカつくしこの唐変木の料理馬鹿の落とし方はなんなの!」

2021-06-21 22:55:05
とおる7th @windcreator

…………と、とりあえず、お茶を淹れるので、今日の最高傑作のタルトを食べながら、これからの事でも話しませんか。言いながら、長年染みこんだ動きで身体がお茶を淹れる始める。頭が働かなくても、手足は動く。息を荒げている領主に自慢のタルトとお茶を出しながら、これはもしかして、と思う。→

2021-06-21 23:00:32
とおる7th @windcreator

ただ、美味しいものを作り続けただけだったつもりが、思い掛けず誰かに想われていた不思議。仮面を思い浮かべる。“これは、とある領主が恋い焦がれ、ついにはタルトに嫉妬した物語”。幻聴が、愛しい彼女の声で聞こえてきた。 「何をニヤニヤしてるのよ〜!」 真っ赤なままの彼女に何と応えよう。

2021-06-21 23:09:30
とおる7th @windcreator

自分でも言われるまで気付いていなかった想いだ。彼女が納得するまで拙い言葉を並べ、伝えるしかない。そうだたしか、語り部たちの伝説には、夜明けまで言葉を尽くして語り続ける恋人たちの話もあったのではないか。彼女にもそれなら伝わるはずだ。口下手な自分には千載一遇のチャンスに違いない。

2021-06-21 23:17:18
とおる7th @windcreator

今夜は、夜が最も短いのだから。

2021-06-21 23:17:37
とおる7th @windcreator

我ながら、「そこで急転直下するの? 領主ちゃん伏線足りなくない?」「夏至タルトって書こう書こうとして差し込めなかった感が漂っているけれど、夏至タルトはさすがに自然に差し込めないと思うよ」と、思った。

2021-06-21 23:22:13
とおる7th @windcreator

半分の月が、雲を照らしてきれいだなぁ、みたいな帰路だった。

2021-06-21 23:26:59
とおる7th @windcreator

タルト、買いそびれたんですよね。 これもまた、夏至タルト(計画)崩壊、ははは。

2021-06-21 23:34:15