北斗の拳における目の描き方から読み取れる「眼力」

写実的であると見做される北斗の拳の絵における漫画的な部分についてメモ ※人間の認知と他作品における例について追記
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「目」はデフォルメされている

ΝΑΠΠΑ @nappasan

基本的にはとても写実的な北斗の拳の絵ですが、目には漫画らしいデフォルメが入っているのでアオリの構図でも目だけは正面と変わらない形で描かれます。 pic.twitter.com/ps4uAlR2Dv

2020-05-30 22:04:25
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人間の脳は整合性を無視して「顔のパーツ」を捉える

孤狐 @foxtroharmonix

自分の絵を左右反転して絶望してる絵描きの皆様は、この美女を見て元気出して。 (画像の意味がわからない人はスマホを逆さまにしてみてね) 絵を左右反転しておかしく見えるのは、目が勝手にディテールを補完してしまうという錯覚も含まれているので、本人の画力の無さだけのせいではないよと pic.twitter.com/TfgQjsREcr

2019-10-14 17:50:16
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人間の脳には単純な視覚とは別に顔貌や表情の認識に纏わる「顔領域」が存在していて、ここを損傷すると相貌失認と呼ばれる状態に陥り、顔貌や表情の見分けができなくなります。また、逆に視覚野を損傷していても顔領域さえ機能していれば、視覚が全くの暗闇でも人間の顔だけは認知できるという例があります。

顔のパーツが視覚的な整合性を無視していても人間の脳は相貌認知のために辻褄合わせを行うし、あえてそこだけ整合性の壁を超えることで強くキャラクターの顔のインパクトを読者に与えることに繋がると考えられます。リアルと虚構の線上を上手く渡ることで「眼力」をキャラに与えられるのでしょう。

リンク Wikipedia 相貌失認 相貌失認(そうぼうしつにん、Prosopagnosia)とは、脳障害による失認の一種で、特に「顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」を指す。 俗に失顔症とも呼ばれる。 頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などが後天的に相貌失認を誘発する要因となる。 親しい知人の顔が突然認識できなくなるという、典型的な症状は古くから確認されており、トゥキディデスの『歴史』にはペロポネソス戦争に参加し、頭部を負傷した兵士の症例が記述されており、その後も同様の症例が数多く報告されてきた。1 58 users 280

一方で悪党は写実的

ΝΑΠΠΑ @nappasan

ケンシロウをはじめとした「美形」タイプの目は角度を無視して描かれる一方、主に敵に多い写実的なタイプの目ではアオリを意識して描かれているようなので、デッサン力の問題ではなく意図的な描き分けだと思われます。 pic.twitter.com/uwKvHIMzZQ

2020-05-30 22:29:31
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ΝΑΠΠΑ @nappasan

かなり角度がつくと多少のつじつま合わせは入りますが、ケンシロウの目は作品最末期でもほぼ一貫して角度に依らず正面から見た形で描かれています。 pic.twitter.com/V6NYLhNBME

2020-05-30 22:32:53
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「眼力」の有無によって感情移入すべき対象を描き分けて、読者の心理を巧みに誘導していると考えられます。

アニメの方が目の描き方はリアル志向

ΝΑΠΠΑ @nappasan

その点、アニメの作画は動かすうえでより辻褄を合わせる必要性があるためか、原作よりもアオリの目を正確に描く傾向があります。加えて眉間から顎にかけて独特の強調されたパースが入るのが須田さんの絵の特徴です。 pic.twitter.com/uBYwUYE6wq

2020-05-30 22:52:18
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余談:鳥山明も使っている目の不整合

ΝΑΠΠΑ @nappasan

よく立体的な正確性の高さについて語られる鳥山絵ですが、実際は見栄えのためについている「嘘」が絵に潜んでいます。斜め顔の時に手前側の目だけが正面から見た角度になるのが一例です。アオリ顔では正確に描かれています。 pic.twitter.com/zNwLs8g6KD

2019-01-13 18:24:38
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ΝΑΠΠΑ @nappasan

アニメの作画もこれに准じて「嘘」をついているわけですが、この嘘を取り払うと2枚目のようになってしまいます。デッサンのことだけを考えると、この絵がいかに見栄えせず成り立たないかよく判ります。ぱっと見の「尤もらしさ」の方が大切なこともあるのです。 pic.twitter.com/wt9EsfEmwa

2019-01-13 18:30:52
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