【マスクしていると】福間健二 #k2fact307
昼の仕事が終わったら、一杯やりながらの、だまし屋。何を失っても、下にはだれのものでもない未来が鳴る。富士山、よくできている歌だ。ときどきピアノで弾いて、やっぱりだましやすい。紙飛行機を上手に飛ばす日本人って。夜の快速、抱きしめる腕が最初からない。(マスクしていると1)#k2fact307
2021-09-21 09:50:52向いてくれない世界。でも、満月。改造というよりも改良でいいのだが、終わりたがっている事情の葉ひとつむしっていかない。曇ったままの十字路の、だれの通過も。鬼に。なるのでも、されるのでも、逃げていくチャンスへの円錐曲線。楽しめってこと。いやだってこと。(マスクしていると2)#k2fact307
2021-09-22 11:28:46風のやむ秋分の日だが。夜と昼、どちら向きか知らないある種の肉体には誘惑される。恋に落ちたことにする古いジャズのかわりにわざと足音。見た。温暖地帯でつつましく暮らすという夢は。もうないかもしれないし、どんな天地も移動中はマスクしていると息苦しくなる。(マスクしていると3)#k2fact307
2021-09-23 10:29:52小指ができることは小指にさせる。そうしなかったために首輪も目隠しも自分で外せない老人たちを踏みつけていくピカレスク。きのうまでは。きょうからは夜が長くなる。四番と五番の悪党競争。人間は全部、曲線だ。そのどこかを直線にするというピカレスクも廃棄する。(マスクしていると4)#k2fact307
2021-09-24 10:34:37生きたい。死が怖いのとは別なことか。洗濯機、掃除機、火を使わない忘却装置など、うるさい。でも、言ってくれない。閉じた内部から遠ざかる。高慢な親指マシーンを打ち砕く。同じことだとしても、二階の窓辺のマスクしていない顔は素材と力をひとつにして美しい。(マスクしていると5)#k2fact307
2021-09-25 11:18:41階段を降りるだけのトリップ。段ごとに別の風景が見えて揺れて入れかわる影からバラが生まれる。簡単にわかることに負けない中性の子ども時代を通ってどこまでも降りてしまう。バラ、枝が折れたがって踏みとどまれない。この症状を売った。売ってもすぐに帰ってくる。(マスクしていると6)#k2fact307
2021-09-26 16:16:54人気のない鳩にやらないでくださいというエサをやる人はいる。生きづらいとか言わないその手のシミ、意外ときれいなブルーで、どこから嘘なのかわからなくなる分解の雑音。やだなあ。朝、不機嫌な人たち。失敗を見逃さない計器。でも、拾われたクーちゃん。よかった。(マスクしていると7)#k2fact307
2021-09-27 13:28:39ぼくの体のなかの、定義を拒むものをはりつけた空が晴れている。この秋も、自分を守るために人を責める言葉がいくらでも浮かぶ。ブドウを食べて、タバコはコルツのナチュラルとフランドリアの黒を適当に混ぜた手巻き。先に行かせる音楽。きょうは曖昧さを残させない。(マスクしていると8)#k2fact307
2021-09-28 11:19:16行方不明のヴァイオリン。戻ったとしてもネックがちがう。マスクした顔。きれいに見える人のほうが多い。その程度のだまし方。子音の不明瞭な声で、滑りやすい階段と症状を、日が暮れるのが早くなったせいにする。だれなのか。なんなのか。夜、いつまでも笑うのは。(マスクしていると9)#k2fact307
2021-09-29 12:17:07大きいスプーン、小さなスプーン。どちらも踊らせてくれる手が喉にあてられたまま。少年ドストエフスキーは計画に酔う。だれをだましたいのだ。マスクしていると表情の演技はミスしても気づかれない。でも、広場がない。座って知らない人の夢を判断するベンチがない。(マスクしていると10)#k2fact307
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