- SakrelBahr
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中興の祖、ヴァイオレット・ウィンズピア
「シークもの&ヒロイン略奪ものロマンス小史 Part 2 (中興の祖出現!シークもの、50年後の再評価の巻)」
ブームというのは遠からず終わりが来るもので
あんなに盛り上がってた「砂漠ものロマンス」人気もやがて下火になっていき、第二次大戦後にもなると、ほぼ消滅状態
ぶっちゃけ、アラブ反乱を焚きつける裏で仏露と密約を交わしてたりと真っ黒くろすけな英国で、無邪気にエキゾチックなアラビア趣味♥とかウットリしてるのもどうよ?ですし… #だいたいブリカスのせい
2020-11-09 21:52:51※アン・ゴロン女史の大河ヒストリカル小説『アンジェリク』シリーズでヒロインが奴隷市にかけられてスルタンのハレムに入れられる展開の「Indomptable Angélique 金髪の女奴隷」は1960年刊行。うっとり後宮ロマンスではなく野蛮で恐ろしい異教徒の世界という描かれ方。
そんな風にレガシージャンルとなりはてた「シークものロマンス」を再生させる中興の祖が出現したのは1969年、ハルの「シーク」が刊行された1919年から数えて50年後のこと
2020-11-09 21:56:07英国のMills & Boon社が出していたロマンス小説ラインの人気作家ヴァイオレット・ウィンズピアが"The Sheik"の「現代的再話」である『Blue Jasmine ブルー・ジャスミン』を世に出したのであーる pic.twitter.com/I96FGoGSw1
2020-11-09 21:57:39『ブルー・ジャスミン』のプロットはハルの『シーク』と「ほぼ同じ」 ただし1969年現在の英国女性がロマンティックな夢を見られる「大人の女性のための現代のおとぎばなし」として再話したものだった
2020-11-09 21:59:49ハルの『シーク』は1928年生まれのウィンズピアにとっては母親世代に流行った古臭い物語であり、世間では既に半笑いでネタにされるようなポジションに落ち着いていた作品だが、それを己の美意識と技巧で再生してみせたのだ パクリなどという安易な言葉で片づけるようなもんじゃない
2020-11-09 22:06:05リアリティとか社会的な適切さとか、そんなのどうでもいいの!私はこの物語にどうしようもなく惹かれるの!ロマンティックって、ドラマティックって、こういうものよッ!!…とウィンズピアがガチな情熱をこめて書いた『ブルー・ジャスミン』は読者の高評を得た
2020-11-09 22:08:02ウィンズピアは以後も「砂漠ものロマンス」を何作も書き、70年代末くらいになると後続作家もボチボチ出てきて、カテゴリーロマンス内に「シークもの」というサブジャンルが形成される
2020-11-09 22:13:43ミルズ&ブーンと提携していたカナダのハーレクイン社が全米の雑誌スタンドやドラッグストアでM&Bのロマンスペーパーバック小説を販売 「砂漠ものロマンス」は米加、そして英語圏以外の読者にも翻訳版が普及していく pic.twitter.com/nMQouNTy3G
2020-11-09 22:20:21ハーレクイン社の日本進出は1979年だが初年度のラインナップにはウィンズピアの砂漠もの『The Burning Sands 燃える砂丘』が入っており、翌年には『ブルー・ジャスミン』も翻訳刊行され、これが1983年に宝塚で舞台化される
2020-11-09 22:22:03純粋に作品内容で原作に選ばれたのかハーレクイン社がプロモーションの一環で売り込んできたのかはわからないが、当時絶大な人気を誇った雪組の麻実れい&遥くららのゴールデンコンビによる舞台化だ 『ブルー・ジャスミン-砂漠の愛-(’83年雪組・宝塚)』 tca-pictures.net/skystage/Prgm/…
2020-11-09 22:23:11一方その頃、バーバラ・カートランドは…
ところで、1901年生まれのバーバラ・カートランドは77年に自分が娘時代に読んだロマンス小説のアブリッジ版ペーパーバック全集Library of Loveを編纂し、その第一巻にハルの"The Sheik"を選んでいるのでもわかる通り「直撃世代」なんですが、この人の書いた「シークもの」がすごく変な作品でして pic.twitter.com/LH9PxOu6o8
2020-11-09 22:43:501976年刊行の『Passions in the Sand 砂漠に花ひらく恋 』 作中時代設定は1870年でヒロインの英国貴族令嬢がシリアでシークに攫われる話ではあるのですが… 邦訳版167ページのうち、相手役のシークが本格的に登場するのは91ページ目 pic.twitter.com/hAtCy1Ojwb
2020-11-09 22:47:02それまではひたすらジェーン・ディグビー&ベドウィン生活文化ウンチクが続く(面白いんだけど) 暴力を使わずスマートに拉致、紳士的に軟禁され、特に説得力のあるエピソードもないまま主役の二人は運命的な恋に落ちて、アクシデントの後でシークの出自が明かされスゲー御都合主義に問題解決してEND
2020-11-09 22:48:42「まともに考証したらハルの『シーク』みたいな話は成り立たないわよぉ~」とでも言いたげな描写を重ねた末、オチであるシークの出自だけは妙に原典オマージュなあたり、パロディとして書いているのか…?
2020-11-09 22:50:561977年の『Punishment of a Vixen 罰せられた女』では高慢ちきなアメリカの富豪娘を懲らしめる為に英国人外交官が「ヒロインをさらうシーク」を演じる話で、やっぱりパロディ要素が強い 今どき真面目に書けるようなネタじゃないわよ~って感じなんだろうか pic.twitter.com/WhTiMIulaF
2020-11-09 22:53:24しかしウィンズピアが拾い上げた「大人の女の為のおとぎばなし」としてのシークものは80年代に入ってから更にジャンル内ジャンルとして盤石となるのであった…あと70年代末の過激化するボディスリッパー小説では「さらわれヒロイン」物語パターンが擦り切れるほど使いまわされるのであった…(続く)
2020-11-09 22:58:27オマケ:ジェーン・ディグビーの女道
オマケ:『砂漠に花ひらく恋 』 のヒロインはジェーン・ディグビーの従妹に設定されていて、結構なページ数が本筋そっちのけでジェーンの秘話紹介に費やされております ジェーン・エリザベス・ディグビー(1807年4月3日 - 1881年8月11日) ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8…
2020-11-09 23:01:05