曇天 -extra round- 【フォア・ザ・ブルースカイ】（再放送）＃２

劉度 @arther456

その監視カメラの映像を確認する人物が、ホテルの外にもいた。「接続完了。ダルス、聞こえる？」《ああ》「予定通り、柚木がレストランに入ったわ。その階には10人いる。シフト通りよ」コリウスはワゴン車の中でノートパソコンを操り、ホテルの内部を探っていた。23

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カメラをハッキングできたのはキリシマのお陰である。彼女の部下が4日前にホテルの警備室に侵入し、パソコンに細工をしたのだ。《柚木の護衛は何人だ？》「女の子が2人」《……艦娘か》ダルスの声に険しいものが混じる。「艤装は身に付けていないけど、気をつけて」24

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艦娘は艤装が無くても平均的な成人男性以上の身体能力を発揮する。無視できない脅威だ。《どの道、予定に変わりはない。引き続きモニターを頼む》「任せて」25

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テーブルの上に並ぶのは、ネオホッカイドウ産マダイのポワレ。本日の魚料理だ。提督は身を切り分け、口に運ぶ。「んー、素晴らしい。さすがネオホッカイドウ。美味い。ウチでも取り扱いたいぐらいです」「わかるかね。私もそれがお気に入りだ」向かいに座る初老のロシア人が答える。27

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ヴァシリ・ドロフェイ。ネオホッカイドウ最大の麻薬シンジゲート『ドロフェイ・ファミリー』の頭目だ。「だが中々獲れなくてな。深海棲艦がいなければ、もっと安定して漁ができるだろうに」「そうですねえ。早い所、何とかしてくれませんかね」「"会長"に頼めば、何とかならないかね」28

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"会長"とは提督のことである。柚木律のバックには、提督がついているという設定になっている。実際には提督本人なのだが。「いやあ、流石に戦争そのものをどうこうする力は会長にはありませんよ」「それもそうだな。……では、"会長"はどのような用件で、君をここに遣わせたのかね？」29

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ドロフェイの瞳に鋭い光が宿った。いよいよ本題か。気を引き締めて提督は話し出した。「日本で出回っているネオアヘンについてです。単刀直入に申し上げましょう。我々にも卸していただけませんか？」「……冗談はよしたまえ。仮にも軍人だろう？　麻薬の密売に手を染めるなど、リスクが高すぎる」30

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「ですが関東の販路が開けるとなれば、悪い話では無いと思いますが」「……む」ネオアヘンの密売事情を、提督はある程度知っている。世界各地に出回っているが、日本最大の市場である関東には流れていない。ヴァジュダラ・ニオー・ヤクザクランが妨害しているからだ。31

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「軍の力を持ってすれば、チンピラ如きに邪魔はできません。関東と中部の1000万人規模の市場を有効活用できるのは我々だけです。いかがでしょう？」「そこまでして金を稼ぎたいのかね、会長殿は？」「もちろんです！」提督は胸を張って答える。「だって金はいくらあっても足りませんから！」32

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「ほう」「軍だって金で動いてるんですよ。立案した作戦を通すためにも金は必要ですし、各艦隊との意見のすり合わせをスムーズにするためにも、先立つものが必要なんです」「お、おう……」ドロフェイはちょっと引いている。背後に控える不知火と舞風も、白い目で提督を見ている。33

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「というわけで！人類の未来のために、ご協力をお願いいたします！」「いや……しかしだな」まだドロフェイは迷っている。もう一押しか。やむを得ず、提督は鬼札を切ることにした。「それとも何ですか。先に契約している鎮守府の方が大事ですか？」ドロフェイの顔に微かな動揺が走った。34

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「……どういう意味かね？」「そのままの意味です。他の鎮守府にはもうネオアヘンを卸しているんでしょう？」「何を馬鹿な……」「軍の機密なんですけどね。ネオアヘン中毒になって不名誉除隊する艦娘、そこそこいるらしいんですよ。特に多いのが佐世保と大湊。いるんでしょう、協力者が？」35

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半分ハッタリである。軍の機密は提督の権限を持ってしても暴けない。だが、その2つの鎮守府での不名誉除隊者の中に、薬物治療を受けている艦娘が多いのも事実だった。誰がネオアヘンを流しているのか、ドロフェイに喋らせる。それが提督の本当の狙いだった。36

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「……残念だよ、東郷君」ドロフェイは溜息をついた。「え？」すると、提督の首筋に冷たいものが当てられた。「やっぱりテメェが提督だったか」「え？え？」マカロフが提督の首筋に刀を押し当てていた。「あの、私は提督ではありませんが？」しらばっくれる。バレるような事は言っていないはずだ。37

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「残念だが、ある人物が君のことを教えてくれてね。日本海軍と我々の関係を探っている提督がいると」「デタラメですよ」「そうかね？よく似ていると思うが」ドロフェイは写真を取り出した。提督が映っている。「最初からお見通しだったと」「その通りだ」「なら、これも？」38

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提督が掲げた腕には、リボルバー拳銃が握られていた。「何っ！？」「動くな」ドロフェイが動く前に照準を合わせる。「不知火！」そして提督は自動拳銃を不知火に投げ渡す。「了解」不知火は受け取った拳銃を素早くマカロフに突きつけた。護衛たちが銃を向けるが、不知火は動じない。39

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「バカなっ！ボディチェックしたのに……！？」「労働環境、見直した方が良いと思いますよ？」提督はテーブルの裏から更に拳銃を取り出し、舞風に投げ渡す。決して無策で敵陣に乗り込んだわけではない。あらかじめスタッフを買収し、武器を仕込むよう頼んでいたのだ。40

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「さて、バレてしまってはしょうがないので、大人しく帰していただけると助かるのですが」「嫌だと言ったら？」「……五十鈴、迎えを頼む」提督はスーツに仕込んだマイクに呼びかけた。「10分でヘリが到着します。艦娘を連れてね。さて、どうします？ホテルと一緒に心中するか、我々を解放するか」41

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「フン。恐るるに足らんわ」「何ですって？」提督は訝しんだ。ドロフェイの態度は虚勢ではない。自身に満ちている。艦娘に対抗できる手段を持っている。それは何だ、と推測する前に、部屋の外から銃声が響いてきた。迎えが来た？いや、早すぎる。「何だ？」ドロフェイも困惑していた。42

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次の瞬間、ドアにいくつもの穴が空いた。銃撃だ。「うわぁっ！？」提督はとっさに床に身を投げ出す。第二射。提督が座っていた席を銃弾が通り抜け、対面に座るドロフェイの胸に突き刺さった。ドロフェイの体が痙攣し、口から血が溢れる。そして、ドアを蹴破って男が入ってきた。43

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黒いコートに身を包んだ金髪の男だ。手には軍用のアサルトライフルを構えている。マカロフも、護衛たちも、提督も、舞風も知らない人間だった。だが、ハッキリしていることが一つだけある。「――敵だっ！」44

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曇天　-extra round- 【フォア・ザ・ブルースカイ】（再放送）＃２おわり＃３へ続く