曇天 -extra round- 【フォア・ザ・ブルースカイ】(再放送)#4
「喰らえぇぇぇっ!」そこにガングートが重機関銃を連射する。ロシェは防ぎ、舞風は避ける。巻き添えを食ったロシアンマフィアが何人か吹っ飛ぶ。「カカッ、威勢がいい神が2人、よいではないか!」ロシェの魔力が濃密になる。肌に文様が浮かぶ。「纏めて喰らってくれようぞ!」23
2021-10-23 22:06:00エレベーターのドアが閉まった。ダルスは大きく息を吐く。「コリウス。状況は」《所属不明部隊がドロフェイ・ファミリーと交戦中。装備からしてロシア系ね。リーダーは重機関銃を持った艦娘。ドロフェイ・ファミリーのキタキュウビキツネと戦っているわ》ダルスは思わず天を仰いだ。25
2021-10-23 22:09:00《現実逃避している場合じゃないわよ。ターゲットの柚木も1階にいる。今は動けないみたいだけど、出口のすぐ側まで来てる》「わかってる。敵は何人だ?」《マフィアが20人、特殊部隊が7人、艦娘が2人、キタキュウビキツネが1人。それにマフィアの増援が20人、そっちに向かってる》「47と3か」26
2021-10-23 22:12:00対魔術戦になる。ダルスは懐から黒いバンダナを取り出し、額に巻きつけた。「通信を切る。危なくなったら撤退しろ」《ええ。気をつけてね、ダルス》コリウスの声が消える。下るエレベーターの中で、ダルスは精神を集中させる。「我は我が成すことを知っている」そして、聖句を呟く。27
2021-10-23 22:15:00暗示。雑踏では精神を苛む鋭敏な五感、日常には溶け込めない倫理のタガを外した判断力を、場面に応じてスイッチのようにオンオフする技術。「我は王位の簒奪者。神の忠実なる下僕にして、神の怒りを代行する者」日常では決して口にしない聖句を呟くことで、精神構造を切り替える。28
2021-10-23 22:18:00鍛えた身体と研ぎ澄ました技を100%発揮できるよう訓練した、戦闘機械の精神に上書きする。「我が名はハザエル。嵐神ハダドの名の下に、天を、地を、人を焼き尽くさん」両手に拳銃を握る。エレベーターが開く。激戦上の真っ只中にダルスは踏み入った。29
2021-10-23 22:21:00Resident Evil 6 Extended Music - The Mercenaries Theme youtu.be/a95wnUKAt4k @YouTubeより
2021-10-23 22:23:00ダルスは両手の拳銃を操り、マフィアを、隊員を、次々と撃っていく。「何だ!?」「新手だチクショウ!」「撃て撃てぇ!」横槍を受けた兵士たちは一瞬狼狽したものの、すぐにダルスへと反撃する。弾丸はダルスの体をかすめるが、致命傷には至らない。そうなるように計算している。30
2021-10-23 22:24:00『クグツ』。正式名称『Close-Up GUn TacticS / 極接近銃闘術』。AIによってあらゆる戦闘局面において最適な動作をパターン化し、敵の攻撃が当たりにくい位置を常に保ち続け、最も効率的な反撃を行う武術。革命によって失われたこの技の数少ない使い手の1人が彼であった。31
2021-10-23 22:27:00時折、物陰や別の敵を盾として利用しつつ、ダルスは効率よく敵を排除する。途中で拳銃の弾が切れるが、それも計算済みだ。腕を捻るとコートの自動給弾機構が作動し、握った拳銃に新たなマガジンが装填される。そして射撃は絶え間なく続く。既にロビーの戦力の半分が失われてた。32
2021-10-23 22:30:00ロビーの奥の柚木が見えた。ドアごと腕が凍っていて動けないようだ。拳銃で狙うにはまだ遠い。更に接近する。不意に、降り注ぐ弾幕の質が変わる。「貴様ァ!何者だ!?」頬に傷のある銀髪の艦娘、ガングートが重機関銃をダルスに向けていた。ダルスは駆け出し、機銃弾の雨から逃れる。33
2021-10-23 22:33:00柱の間を駆け抜ける。その先には羽衣を纏ったキタキュウビキツネ、ロシェ。「寄るでないわ」ダルスの眼前に氷壁が出現する。ダルスは柱を蹴って方向転換。懐から発煙手榴弾を引き抜き、氷壁の向こう側に投げ入れる。「ぬおっ!?」白い煙がロシェの視界を塞ぐ。34
2021-10-23 22:36:00ダルスは氷壁を回り込む。柱の陰から金髪の艦娘が現れる。舞風。「おっとお!?」舞風は驚きながらも両手の拳銃を向けてきた。柱を蹴って方向転換、銃撃を避ける。地面を転がりながら発砲するが、流石に狙いがつけられず、舞風の周りに火花を散らすだけに留まった。35
2021-10-23 22:39:00再び、ガングートの機銃が撃ち込まれる。ダルスと舞風は揃って弾幕を避けた。舞風の動きにダルスは目を見張った。踊りのように奔放だが、その動きは確かに計算されたものだ。まさか。疑問を浮かべながらも体を動かす。特殊部隊の間を駆け抜け、ガングートに肉薄する。36
2021-10-23 22:42:00「来るかっ!」ガングートは重機関銃をハンマーのごとく振り回す。ダルスはそれを掻い潜る。艦娘の魔力障壁にぶつかると思ったが、抵抗はない。訝しみながらも発砲。コートに弾かれる。防弾仕様か。頭を狙おうとするが、ガングートが拳を振りかぶっていた。「オラァッ!」37
2021-10-23 22:45:00風切り音が耳を打つ。当たれば頭が砕けていただろう。ダルスは銃を向けようとして、額に焦燥感を感じた。攻撃を中断、その場を飛び退く。「何だ、逃げ……」ガングートの言葉は、足元から吹き上がった火柱に呑みこまれた。「うおおおおっ!?」悲鳴が上がる。38
2021-10-23 22:48:00「チョロチョロと……目障りじゃあ」白い煙が吹き飛ばされる。体の魔力紋を赤く光らせたロシェがダルスを睨みつけた。「灰となれぃ!」ダルスはその場を飛び退いた。一瞬前まで居た場所が火球に包まれる。離れていても、髪が焦げるほどの高温。飲み込まれれば消し炭になるだろう。39
2021-10-23 22:51:00次々と火球が生み出されるが、ダルスはそれらを避け続ける。ロシェの視線、呼吸、魔力紋の発光。僅かな兆候を読み取り、攻撃の瞬間に移動することで魔法を避ける。そして、避けながらロシェに接近する。「目障りだと言っておる!」苛立ちを顕にして、ロシェが吠えた。40
2021-10-23 22:54:00ダルスの周囲に無数の氷の槍が出現した。その様相は針山の如し。避ける、という概念が通じるものではない。だが、ダルスは止まらない。正面の氷の槍を銃撃する。一射一壊。槍の壁に僅かな穴が開く。そこへ飛び込む。何本かが体を抉るが、暗示で痛みは堪えている。41
2021-10-23 22:57:00槍の壁を抜け、ダルスはロシェとの間合いを詰める。ロシェは更に魔法を放とうとしたが、横合いから銃撃された。「何ッ!?」舞風が氷壁の陰から狙っていた。魔法障壁が銃弾を弾いたためロシェは無傷。だが、ダルスの接近を許した。42
2021-10-23 23:00:01「近付いたから何になる!」ロシェは更に障壁を展開する。確かにロシェの言う通りだ。近付いた所で拳銃では突破できない。近付いたのは別の理由だ。ダルスの額が疼いた。正確には、額に巻きつけたバンダナが。「な……に……?」ロシェが目を見開いた。43
2021-10-23 23:03:00ロシェの目には視えていた。ダルスの黒いバンダナ、その裏地の獣の革にこびりついたものが。怨念の炎を纏った巨獣。ネオヒグマ。その中でも観測史上最大最強、かつてサッポロを火の海に飲み込んだ『赤い嵐』。かの災厄の獣の革は、未だに"暴"を宿していた。44
2021-10-23 23:06:00ネオヒグマの怨念が、縄張りに入った獲物に爪を振るう。「ひっ……!」ロシェの魔力障壁はあっさりと引き裂かれた。ダルスが持つ端切れ程度では、至近距離の障壁を破壊するぐらいしかできない。だが、ダルスにはそれで十分だ。ロシェの眉間に銃口を突きつけ、引き金を引いた。45
2021-10-23 23:09:00乾いた火薬音と共に、眉間に穴を開けたロシェが吹き飛ぶ。それを見届けることなく、ダルスは次の行動に移る。浴びせられる弾幕を掻い潜りつつ突進。その先にいるのは金髪の少女、舞風。彼女も銃口をダルスに向ける。互いの銃口が重なり、弾き合い、交錯する。46
2021-10-23 23:12:00