曇天 -extra round- 【フォア・ザ・ブルースカイ】(再放送)#5

カロリーが高すぎたので戦闘描写ライト版 4:https://togetter.com/li/1792457 6:https://togetter.com/li/1794369
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劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss をお使いいただけると大変ありがたいです。忙しい方はtogetterまとめ版をどうぞ。それでは暫くの間、お付き合い下さい)

2021-10-25 21:02:50
劉度 @arther456

曇天 -extra round- 【フォア・ザ・ブルースカイ】(再放送)#5

2021-10-25 21:03:58
劉度 @arther456

「被害報告!」「7名負傷、内3名は重体です!……あの、隊長は?」「まだ動ける」焦げた髪を指でいじりながら、ガングートは答えた。火柱を受けたが、すぐに外に飛び出したのでそれほどのダメージは受けなかった。《報告、こちらА班!》ガングートの耳に通信が入る。「どうした?」1

2021-10-25 21:07:16
劉度 @arther456

《ヴァシリ・ドロフェイの死亡を確認!》「……間違いないな?」《はい!》「よくやった。報告は後で聞こう。撤収しろ」《了解!》通信を終えたガングートは、瓦礫に隠れる隊員たちに向き直った。「作戦目標は達成した。撤収するぞ」「……いいんですか?」隊員の1人が瓦礫の向こうに視線を向ける。2

2021-10-25 21:07:30
劉度 @arther456

鉄の暴風が吹き荒れていた。絶え間なく吐き出される銃弾が、床を、壁を、柱を抉る。その中心にいるのは2人の人間。くすんだ金髪の男と、明るい金髪の艦娘。互いが互いに銃を向けているのに、1発たりとも当たらない。「あれはどうにもならんし、我々には関係ない。だから撤収だ、撤収!」3

2021-10-25 21:09:00
劉度 @arther456

嵐が私ひとりを狙ってきたらこんな感じかな。次々と突き出される銃口を捌きながら、舞風はそんな事を考えていた。彼女が相対するのは、黒いコートを羽織った金髪の男。自分と同じ『クグツ』使い。ひたすら繰り出される拳銃を舞風は避ける。捌く。鉛の弾頭に貫かれないように動き続ける。5

2021-10-25 21:12:00
劉度 @arther456

『クグツ』同士の戦いは常に攻防一体だ。相手が攻撃してくればそれを防ぐ。防いだ動作がそのまま自分の攻撃になる。それを相手が防げば、同時に次の攻撃となる。互いに裏を掻き続けながら最適解を押し付け合う。一瞬でも判断を誤るか、スピードについていけなければ、死ぬ。6

2021-10-25 21:15:00
劉度 @arther456

あの時と同じだ。舞風の意識はここではなく、遠く暗い海へ埋没する。1944年2月17日、トラック空襲。米軍からの空襲と砲撃。乗組員は全員死亡。火薬の嵐により乗組員たちがなすすべもなく肉片になっていくビジョン。少女ではない。駆逐艦『舞風』が抱えるトラウマだ。7

2021-10-25 21:18:00
劉度 @arther456

舞風は普通の少女だ。変わった所といえば、ダンスを習っている程度だ。不知火や熊野のように、命のやりとりをする覚悟など持ち合わせていない。そんな少女に憑いたのは、トラウマの面が強く出た分霊だった。本来であれば降霊は中止され、彼女は普通の少女として家に送り返されていただろう。8

2021-10-25 21:21:00
劉度 @arther456

偶然があった。舞風がダンスを習っていたのは亡命リブリア人のルシュナ・テンドーだった。彼女が教えたダンスにはクグツが組み込まれていた。互いの記憶を照らし合わせる中で、舞風と『舞風』は思った。もしも、あの時、攻撃を全て避けられていたら?『舞風』がクグツを習得していたら?9

2021-10-25 21:24:00
劉度 @arther456

意識が海から陸へ引き戻される。相対するのは黒い暴風。提督の命を狙う暗殺者。舞風の攻撃を捌き続ける凄腕だ。怖い。舞風の額を冷や汗が流れ落ちる。戦いを怖いと思わなかった事はない。いつ自分が『舞風』の運命を辿るかどうかわからない。ましてや、こんな嵐が相手では。10

2021-10-25 21:27:00
劉度 @arther456

「怖いか」嵐の右手の拳銃からマガジンが落ちた。リロード。大きな隙だ。「とーぜんっ!」舞風は攻め込む。男は左手の拳銃だけで攻撃をいなす。「……怖いなら逃げればいい。お前のような子どもが戦うことはない」舞風を殺そうとしながらも、その男は本心から心配しているようであった。11

2021-10-25 21:30:00
劉度 @arther456

しかし、わかってない。「逃げないよ!」嵐の腕を絡め取る。拳銃を弾き飛ばせるかと思ったが、するりと抜けられた。嵐の右腕の袖から新しいマガジンが現れ、装填される。「逃げられないか」今度は嵐が攻め寄せてくる。「足を撃ち抜けば除隊で済むだろう。不自由は残るが、どうする?」12

2021-10-25 21:33:00
劉度 @arther456

「そうじゃない!」的確に繰り出される銃口を舞風は見切り続ける。その視界の端に提督が映った。「逃げたく、ない!」加速する。嵐の読みよりも疾く動く。「提督は!何も言ってないのに私が怖がってるってわかってくれた!私を戦場から逃せないことを、本気で謝ってくれた!」13

2021-10-25 21:36:00
劉度 @arther456

「だから!提督だけは別!」嵐を掻い潜る。銃口が嵐を捉えた。「あの人の役に立ちたい!」撃つ。肩に突き刺さるはずの弾丸はコートに弾かれた。防弾仕様。しかし、嵐の顔が人の苦痛に歪む。「それは……騙されて、いるだけだっ!」男は叫び、なおも銃を繰り出してくる。14

2021-10-25 21:39:00
劉度 @arther456

「良いように利用して、甘い言葉で希望を持たせて!」撃発音が立て続けに鳴り響く。「そんなものは手駒にするだけの嘘に過ぎんッ!」「提督は本物だもん!」舞風の頬を銃弾が掠めた。「子供に判別がつくかぁッ!」「子供じゃない!」舞風は銃口を弾き、男に肉薄する。15

2021-10-25 21:42:00
劉度 @arther456

「私は、『舞風』だっ!」舞風は繰り出された銃口を屈んで避ける。同時に体を回転させ、男の脇腹に回し蹴りを放った!「ぐうっ!?」男は苦痛に顔を歪めながらも、舞風に銃を向ける。彼女は今、片足立ち。避けられないはずだった。だが、舞風は素早く足を戻すと、ブリッジ姿勢で銃弾を避けた。16

2021-10-25 21:45:00
劉度 @arther456

銃声は虚しく虚空を穿つ。「それっ!」更に舞風は足を跳ね上げ、バク転しながら男の拳銃を蹴り飛ばした。クグツのセオリーから外れた攻撃を避けられず、男の左手の銃は弾き飛ばされた。男は素早く右手の銃を繰り出すが、舞風は既に立ち上がっており、射線から逃れた。17

2021-10-25 21:48:00
劉度 @arther456

銃撃戦が再開される。だが、今度は互角ではない。舞風の拳銃は二丁、男は一丁。クグツによる銃撃戦では、素手は無力だ。文字通り戦力が半減した男を、瞬く間に追い込む。銃弾が男の右胸を叩いた。防弾生地は貫けないが、その衝撃は肋骨を砕いた。「カハッ……!」男の動きが大きく鈍る。18

2021-10-25 21:51:00
劉度 @arther456

「華麗に舞うわよ!」舞風は一気呵成に攻め立てた。腕、足、胴体、拳銃だけでなく足も使ってダメージを与える。男の膝が落ちた。「チャンス!」舞風は左手の拳銃を相手の眉間へ向ける。銃声。「……えっ!?」男が寸前で体を捻り、銃弾は虚空を穿った。そして、舞風の手を拳銃ごと掴んだ。19

2021-10-25 21:54:00
劉度 @arther456

骨が砕ける鈍い音がした。「あぐッ!?」男は拳銃をひねり上げ、引き金にかけられていた舞風の人差し指をへし折った。舞風の手から銃が落ちる。激痛で左手が握れない。それでも右手の銃は残っている。三度目の交錯が始まる。あれだけの攻撃を受けてなお、黒い嵐は吹き荒れている。20

2021-10-25 21:57:00
劉度 @arther456

『舞風』は心の底から恐怖していた。艤装さえ身に着けていれば、こんなちっぽけな銃弾など恐るに足りない。砲弾の一発で、肉片も残らず消し飛ばせる。なのに、目の前の男がもたらす殺意は、艦霊に刻みつけられたトラウマ、自身を沈めたあの艦隊よりも恐ろしい!21

2021-10-25 22:00:02
劉度 @arther456

だからこそ舞風は笑う。全身全霊を賭け、持てる技術を全てつぎ込んでも勝てるかどうか分からない強大な存在。それでこそ、自分がここに立つに相応しい。そういうものと戦うために、提督にお願いされたのだから。「行っくよーっ!」左手の痛みを忘れて、舞風は更に疾く動く。22

2021-10-25 22:03:00