誤解釈を避けるには、日本語の能力と文脈があればなんとかなるかもしれない(レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」の、とある描写)

今回もあまり自信ないんだよなー。
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砂手紙 @sandletter1

誤解釈を避けるには、日本語の能力と文脈があればなんとかなるかもしれません。ただし、1950年代のミステリーとか、遠い未来の宇宙・異世界の話とかは、いくらなんでも無理なところがあるので、そういうのはすっきりあきらめるしかない。

2021-12-19 20:53:46
砂手紙 @sandletter1

文脈というのは「ここでこの人物がこういうことすんの?」とか「こんなもんがここで出てくるの?」という勘みたいなもので、大事なものを保管してあるところの警備の軍人が不審人物を見つけたときにするchallengeは「誰何」以外の解釈が難しい。

2021-12-19 20:54:06
砂手紙 @sandletter1

危険地帯に降下しようとしている軍人が「I love a challenge.」って言ってたら、腕が鳴るぜ、と普通はなる。誰何が楽しみだ、ということにはならないでしょう。あ、「誰何」は「だれか」じゃなくて「すいか」って読みます。

2021-12-19 20:54:24
砂手紙 @sandletter1

ではここでこんなのを、レイモンド・チャンドラーによるハードボイルド小説の代表作とも言える『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』冒頭の部分。主人公が金持ちの出入りするナイトクラブに入ろうとしている男を見る場面ね。

2021-12-19 20:54:51
砂手紙 @sandletter1

「A low-swung foreign speedster with no top drifted into the parking lot and a man got out of it and used the dash lighter on a long cigarette.」基本的に難しい語はないと思うけど、日本語を添付します

2021-12-19 20:55:25
砂手紙 @sandletter1

「天蓋がなく、車高が低い外国製の二人乗り自動車が駐車場になだれ込んできだ。ひとりの男が降り、車載点火器でa long cigaretteに火をつけた」で、この「a long cigarette」なんだけど、みなさん、何のこっちゃわかりますか。何も考えずに訳せば長いたばこ(紙巻たばこ)だよね。

2021-12-19 20:55:57
砂手紙 @sandletter1

長いたばこに火をつけるということは、わずかのあいだ死ぬことだ、じゃなくってえ。以下に、この男の風体を、清水俊二の訳から引用します。「格子縞の丸くびシャツ、黄いろいスラックス、乗馬靴といういでたち」で、たばこの煙をあとに残して、店の入口で片眼鏡をつけます。

2021-12-19 20:56:31
砂手紙 @sandletter1

これらの一連の描写で読者にわかることは、この男、金はあるけどうさんくさい、キザな人物だ、ですね。でもってそういう男が持っているのにふさわしいのは「長いたばこ」ではなく、むしろ「長いシガレット・ホルダー」なのでは、というふうに想像が及びます。

2021-12-19 20:56:52
砂手紙 @sandletter1

昔のハリウッド映画女優が使ってたのとか写真に残ってるね。口紅がたばこに直接つくのを避けるのと、たばこの煙が直接顔に当たるのを避けるのに使う。もちろんこの想像が正しいかどうかは不明です。なにしろ挿絵がある小説じゃないし。

2021-12-19 20:57:24
砂手紙 @sandletter1

一応1950年代の紙巻たばこ、とくにフィルターつきのものの状況、およびシガレット・ホルダーの歴史などを雑に調べてみたけどねえ。単に既存の日本語化されてるテキストより、自分の考えたテキストのほうが、こんな男のイメージが個人的には湧きやすい、ってだけのことです。

2021-12-19 20:57:42