【ある冒険者の助言】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言】これは、僕が異世界転移に巻き込まれてから元の世界に帰還するまでの間に、多くの冒険者たちから受けた助言をまとめた手記である。助言の時系列や内容の有用性については考慮していない。なお、言語は常時翻訳後の言葉を耳にしていたため、ここでも当時聞こえたまま記述している。

2020-09-26 19:28:30
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言1】何の前触れもなく異世界に送られ右も左も分からない僕を助けてくれたのは、一人の冒険者だった。曰く、行く当てが無いなら冒険者ギルドに相談するといい、とのことだ。後で知ったことだが、寝床も金もない者が最後に行き着く先は冒険者か犯罪者であることがほとんど、らしい。

2020-09-26 19:29:02
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言2】駆け出し冒険者にはギルドからのバックアップが期待できるという話もあり、他に考えもなかった僕は冒険者としてギルドに登録した。住処についてはギルド指定の宿を紹介されたので、当分は雨風を凌ぐことができそうだと思った。金を稼ぐ手段については、また後で相談しよう。

2020-09-27 11:20:15
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言3】食堂で腹ごしらえを済ませる。軽く焼いたパンと、鶏肉らしき肉が煮込まれたクリームシチューのような料理。どちらも記憶にある、食べ慣れた味だった。当分はツケで構わないというからありがたい。好きな食材を持ち込めば調理してくれるという話を聞き、やる気が湧いてくる。

2020-09-28 20:29:20
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言4】冒険者として生きていくにあたり、国王への挨拶を勧められる。ギルドの運営は各国が共同で出資しているから顔を出すのも悪くはないということだった。身支度を整えシャワーを浴びる。シャワーの存在は意外だったが、どうやら子供が穴の空いた革袋で遊ぶ様から着想を得たらしい。

2020-09-30 22:04:24
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言5】ギルドに寄せられた依頼をこなすことが、不安定ながらも収入を得る確実な手段となりそうだ。道具も何もない自分にできそうな仕事があるだろうかと不安だったが、どうやら必要な物はギルドで貸し出してくれるらしい。レンタル料や消耗品の代金は報酬から引かれる。大事に使おう。

2020-10-02 23:05:47
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言6】まだ勝手も分からないだろうからと、ベテラン冒険者の依頼に同行することになった。初仕事ということも考慮されたのか、ありがたいことに報酬は山分けで良いとのことだ。複数人での依頼は、最初に報酬の取り決めを済ませるとトラブルになりにくいということはよく覚えておこう。

2020-10-03 20:17:17
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言7】安全な調査依頼と言えども、当然ながらテリトリーに踏み込んだ冒険者を獣たちは敵と見なし、襲いかかってきた。戦闘要員に勘定されていない僕は物陰に隠れるだけである。仕留めた獣は解体し、価値のあるものは持ち帰ることを教わる。臓物などは食べてしまうこともあるそうだ。

2020-10-04 18:36:10
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言8】罠の有無を見分けるには、罠が発動した痕跡を探すこと、罠を仕掛けるだけのスペースの有無を確認すること、罠を仕掛けた者の性格を読むこと。どれも経験を積まないことには理解できない内容ばかりだ。今の自分に判断できるのは、精々が「なんとなく怪しい」程度だろう。

2020-10-06 01:25:58
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言9】依頼も無事終わり、約束通り報酬の半分を受け取った。ほとんど荷物持ちしかしていなかったので申し訳ない気分だったが、宝物なり獲物の体なりを持ち帰る際には人手が多いほど運べる量も増えるため、どうやら荷物持ちも決して軽視される仕事ではないという認識が一般的のようだ。

2020-10-06 21:36:55
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言10】ベテラン冒険者からの最後のアドバイスは「夜は早く寝ること」だった。疲労困憊だったこともあり、言われるまでもなく足早に宿へと帰ることにした。こうして異世界に迷い込んだ僕の冒険者一日目は、道具の手入れもそこそこに眠りに落ちることで幕を閉じた。床に座ったまま。

2020-10-08 02:35:15

11~20

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言11】「武器や防具は買っても装備しないと意味がない」そんな当たり前のことが重要だと理解したのは、炎から身を守る火竜の護符を買ったまま道具袋に入れっぱなしにしたせいで火だるまになってからのことだった。道具袋が焼けずに済んだことは不幸中の幸いと言うべきだろうか。

2020-10-10 16:52:48
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言12】失せ物探しの依頼を引き受けたものの、場所が毒の沼地だったため捜索は困難を極めた。底なし沼と違い膝程度の深さであることは不幸中の幸いと言えるかもしれない。毒の沼地と底なし沼の見分け方については「沈めばわかる」という本気とも冗談ともつかないアドバイスを貰った。

2020-10-11 15:26:52
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言13】窃盗団の中に魔術師がいるという情報を得たため、万が一に備えて対抗手段が必要ということでこちらも魔術師を雇うことにした。それぞれ火・水・土・風の術が得意な4人の候補から、風の魔術師を選んだ。なぜなら、彼だけ自分は拷問が得意だと主張しなかったからだ。

2020-10-12 23:20:09
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言14】野良翼竜を捕獲した。飼い馴らせば背に乗ることもできると聞いて胸を躍らせたものの、識別票を始めとした装備一式から管理に掛かる費用も含めた一般的な額を知って熱意は呆気なく失せた。それでも未練はあったので、国の然るべき施設に保護を依頼した。またいつか会いに行こう。

2020-10-17 06:57:10
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言15】駆け出し時代の武器選び。自分の手足を切り落としたらかなわんからと棍棒を勧められたときは馬鹿にされたと思ったけれど、丈夫で意外に使い勝手が良く、安価だから壊れても買い替えやすいし、何より致命傷になりにくいから人間同士の喧嘩でも躊躇することなく振りかざせるのだ。

2020-10-18 11:11:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言16】今まで普通に母国語で会話していたが、これはきっと加護か何かによるものだと思うことにした。ふと、異種族間の言語の違いについて質問してみれば「わからない。俺達は雰囲気で話している。お前も気にする必要はないぞ」などと、本気とも冗談ともつかない答えが返ってきた。

2020-10-22 04:42:58
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言17】冒険の書にはこまめに記録しよう、という話だった。いつか自分が死んだとき、少しでも多くの記憶を遺せるように、自分の生きた証を遺せるように。ただし冒険の書はギルドで管理され誰かに読まれることが前提なので、おいそれと迂闊なことは書けないし羞恥心も払拭できない。

2020-10-23 22:13:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言18】同行した冒険者たちが、自分たちが好む焼き菓子について口論を始めた。曰く、甘さを追求した焼き菓子こそ至高、他は食べなくていい。曰く、甘さを控え苦味も味わえる焼き菓子こそ究極、他は引き立て役として見ろ。お菓子の好みで言い争うような文化は、どの世界にもあるようだ。

2020-10-24 10:43:39
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言19】復讐の是非は他人が口を出すものではないけれど、聞くだけ聞いてみた。この復讐に意味はあるのかと。依頼人が言うには、この復讐に意味があってはならない、あいつは意味もなく殺されなければならない、あの人のように、だそうだ。復讐を見届けるだけの仕事とはいえ、疲れる。

2020-10-25 11:39:32

21~30

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言20】シーフギルドに顔を出したついでに、ファンタジー定番な盗賊の七つ道具について話を聞いてみた……が、内容どころか数もバラバラだった。個々人の技能や目的によって必要な道具は変わるという、実に当たり前な回答が返ってきたのだ。確かに言われてみればそのとおりなのだけど。

2020-10-26 21:16:45
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の助言21】久々にシーフギルドを覗くと盗賊の七つ道具なるものが売られていた。どうやら金になる気配があったらしく、素人向けに売り出したのだとか。何が切掛で商売が始まるかわからないことを直に学ばされた気分だ。道具は……なるほど、無くても困らないがあると便利、といった内訳だ。

2020-10-28 02:04:45
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