【ある冒険者の料理】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理23】これはまた随分と野菜が安いじゃないか。見た目が歪だから誰も買わないって? ははあ、いるんだよな歪んだ野菜を見て毒の汚染だの呪いがかかってるだの迷信を真に受ける奴。こんなのただの個性だってのにな。どれ、僕が有効活用しようじゃないか。 剥きにくい! 切りにくい!

2021-04-28 21:25:28
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理24】船を調達するために漁村へ立ち寄った冒険者たち。天候の都合と路銀稼ぎも兼ね害魚駆除、遭難者救助、密猟者排除など依頼をこなしていった二人だが―― 「生の魚がこんなに旨かったなんて……」 「塩と酒で延々と食える……」 ある地方の漁村に、新たな漁師が二人増えたという。

2021-05-02 09:19:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理25】 「おや、香りに釣られてお目覚めかい?」 「これだけ甘い匂いさせたら眠気も飛ぶよ」 「それは丁度良かった、そろそろ焼けるところさ」 「野外でもパンケーキなんて作れるもんなんだね。なんだか薄い気がするけど」 「ふわふわしたのがいいなら、町に帰ってからにするんだね」

2021-05-04 18:40:35
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理26】 「こんな荒野で美味に巡り会えるとは思わなかった。素晴らしい」 「お褒めいただき光栄だね」 「これほどの腕なら大都市で店を開いても賑わうだろう。失礼だが、役が不足していると言わざるを得ない」 「旅の中でも食を楽しむために鍛えた技だからね。都会では受けが悪いのさ」

2021-05-05 16:07:51
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理27】 「その骨、捨てるなら譲ってくれないか」 「肉は全部削いだぞ?」 「スープ用さ。ダシが取れるからね」 「ウチじゃ使わんし引き取ってくれるなら助かるよ。何なら他の店にも声をかけておこう」 「それはありがたい」 「キミ、骨を集めてるそうだが死霊術に興味が?」 「え?」

2021-05-07 01:30:51
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理28】食わねば死ぬという状況も往々にして起こり得るため冒険者の食物に対する好き嫌いは少ない傾向だが、それでも皆無ではない。そんな彼ら自身も生存能力に直結する問題であることは理解しているため、せめて特定の調理法なら我慢できるようにと料理の腕を磨くことがある。

2021-05-11 21:45:07
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理29】 「そうそう、これだけ刻んで肉に混ぜれば僕も野菜はイケるんだよ」 「刻む身にもなってくれ……」 「この粉を舐めてみろ」 「なんか覚えのある味だな」 「問題ないな。これは肉と野菜の粉末に塩を混ぜたものだ。これからお前の飯は粉だ。荷物が減って良かったな」 「えー!」

2021-05-12 08:09:03
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理30】野営での調理時における匂いの拡散は多くの冒険者の懸念事項であった。しかしここに目を付けた商人が虫除けの薬草を品種改良し調理に用いることを提案。賛否ありつつも、少なくない数の冒険者が恩恵を受けた。弊害として、虫除けの香りに空腹が刺激される者も増えてしまったが。

2021-05-13 08:27:25

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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理31】 「僕を調査員に選んだのは君だ。結果を疑うのかい」 「そんなつもりは……しかし……」 「認めたらどうだ。君が欲しかったのは、事実ではなく自分に都合の良い答えだと」 「……」 「何度でも言おう。肉料理やサラダに果物を入れる文化は一定数存在すると!」 「ぐわあああ!」

2021-05-17 21:06:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理32】 「食事の時間です」 「うむ、頂こう」 「血液しか受け付けないというのは偏食の極みですね」 「嗜好の変化か、従来の食事は口に合わなくなったのだよ。もっとも、偏食のないお前の血なら養分も問題ないだろう」 「まるで好みの料理でないと食べられない子供です」 「違いない」

2021-05-17 21:06:07
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理33】鶏肉と野菜のスープ、溶けたチーズで覆った焼き立てのパン、川で冷やした薄い酒。食事と呼ぶには些か簡素だが、野営中に作るには十分。そして男にとっては幸せを見出だすに値するものだった。今日も生きて腹を満たせることに感謝しながら、男は微かに塩気のあるパンを頬張った。

2021-05-19 20:01:10
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理34】指摘の声を耳にして、口角が上向いていたことを自覚する。大熊を切り裂く剣や戦鬼の投石を防ぐ盾を手にしたときには、ここまでの高揚感は得られなかった。新調したこの鍋が、これから我々の命を繋ぐ手助けをしてくれる。とても気分が良いから、今夜は相棒の好物でも作ろうか。

2021-05-23 15:41:49
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理35】旅の楽師が酒場を訪れた。「飲食のお供に曲を演奏したい。好評なら雇ってくれないか」奏でられた曲に誰もが聞き入り拍手喝采、大量のおひねりも飛び交った。しかし店主は楽師を雇うことはなかった。 「みんな食わずに聞いてばかりだから、飯は冷めるし回転は悪くなるし……」

2021-05-30 08:35:19
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理36】その旅人を、ある者は『流浪の料理人』と呼ぶ。道具箱に納められた数々の刃物は二つと同じ物がない特注品で、いずれもが高額の報酬を支払う依頼人を満足させるために振るわれる。その仕事振りに不満を抱いた者はいないと言われ、旅人の手によって料理された要人は数知れず。

2021-06-02 21:18:49
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理37】その旅人を、ある者は『流離の料理人』と呼ぶ。道具箱に納められた数々の刃物は二つと同じ物がない特注品で、いずれもが高額の報酬を支払う依頼人を満足させるために振るわれる。旅人の手によって料理された食材は極上の美味を誇り、その仕事振りに不満を抱く者はいないと言う。

2021-06-02 21:18:49
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理38】仲間が集めてきた山盛りの野草や果実、茸の類を見て、彼は頭を切り替え目を細めた。植物の知識があるのは自分だけという自負と責任感が集中力をもたらす。これから始まる有毒無毒の選別作業が、自分たちの命運を握っているのだから。 「で、全部毒だったと」 「はい」

2021-06-03 21:11:05
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理39】 「君の判断力、冒険者として十分かな?」 「即決即断が俺の信条ですよ」 「それはいい。さて、ここに溶けたチーズを乗せた焼き立てパンがある。噛めば肉汁溢れる厚切り肉と、新鮮で水気たっぷりの野菜、君はどちらを挟む?」 「く……!」 「早くしないと冷めて不味くなるよ」

2021-06-04 23:26:21
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理40】経験を積んだ冒険者は医師に従順である。治療のために身につけた知識と冒険の中で結果的に身についた知識では雲泥の差だと認識しているからだ。例外があるとすれば―― 「こんな飯やだー!」 「言ってる場合か!」 「肉食って治す!」 「それで治れば医者はいらねーんだよ!」

2021-06-05 18:14:43

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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理41】君がこの国を訪れたら、広く親しまれている魔物食に驚くだろう。ここには犯罪者更生施設があるのだが、彼らの食事を税金で賄うことに反発する者がいた。そこで防衛も兼ねた魔物狩りによる自給自足が始まり、それが徐々に普及……というわけだ。君の料理と、どちらが旨いだろう?

2021-06-07 23:07:49
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理42】『リバイアサンのヒレスープ』リバイアサンのヒレを煮込んだと銘打って供されるスープ。共通点は色と形だけだが地域の名産となるほど美味で、リバイアサンの名はあくまで料理名であるとして受け入れられている。なお、本物を獲りに行った冒険者は例外なく行方不明となっている。

2021-06-13 19:41:45
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理43】ランタンの炎が小さく揺れた。就寝前の読書習慣は冒険の途中でも変わらず続く。体と頭の疲れは別物と言わんばかりに頁を捲る手は止まらない。疲労に備え作った甘い焼き菓子と苦いお茶は全て読書のために消費されそうだ。今日はどこまで読もうか――無意識に焼き菓子を口にした。

2021-06-14 22:18:08
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理44】習慣とは大したもので、空が白む頃には目が覚めた。不寝番の仲間に礼をしつつ、頭の中で狩りの計画が組み上がる。好きな獲物を選べるのは朝食係の特権だ。肉の焼ける音と香りで寝坊助どもを叩き起こしてやろう。微かに口角が上がるのを自覚しつつ、私はクロスボウを手に取った。

2021-06-19 10:16:10
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理45】 「な、飯にしないか?」 「こんなときに何を」 「コイツを見つけてな。そこに群生してた」 「それは……でかした! ここにきて最高の飯が食えるとは」 『ネムリダケ』 口にすると眠るように死ぬ。窮地に陥った者が自害に用いることもある。極上の美味と言われている。

2021-06-22 22:17:18
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