【ある冒険者の料理】

小話のまとめ
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サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理1】夜の町に喧騒が響く。冒険者が各々好物を持ち寄り、その料理を肴に宴会を開いていた。食事に貪欲な冒険者は何故多いのか。ある者は言う。明日も知れぬ命だから最後の飯は旨いものでありたいと。ある者は言う。食欲に理由なしと。この酒場の灯は夜明けまで消えることはなかった。

2021-03-16 22:32:29
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理2】火力を2倍にすれば調理時間が半分で済むと考え失敗する冒険者は後を絶たない。そこで冒険者ギルドから、いかなる強火も自動で適度に加減する調理術具が発売された。これは本来耐火炎用防具として開発を目指していたものだが、完全に炎を防ぐことができず欠陥品とされていた。

2021-03-20 13:07:29
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理3】その石人形は、決してそこから動こうとしなかった。悪天候にも負けず、心無い人間の悪意にも負けず、文字通り身を削りながら主の命令を守り続けた。町外れの屋敷に佇むそれは、いつしか忠臣の象徴として町の名物となった。 「で、何を守らせてた?」「漬物。良い重しになった」

2021-03-21 17:31:26
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理4】仕掛けられた罠は危険であり有用である。噴き出す炎、切り裂く刃、落下する天井など、安全を確保した上で獲物の加工や食材の調理に利用される罠は少なくない。その罠で誰かが命を落とした可能性について多くの利用者は気にせず、ただ食事のための便利な設備としか認識されない。

2021-03-24 22:12:30
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理5】雪山でヒト、竜人、魔族の一行が遭難した。食料は乏しく全滅は時間の問題。そこでヒトは自らが食料となり二人を生存させる道を選択した。 「その料理を忠実に再現したのが君の食べてる『フリオおじさんのクリームシチュー』さ」「ええええ」「デタラメ教えるんじゃありません!」

2021-03-27 11:39:33
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理6】携帯保存食でも品質保持には限度がある。ゆえにギルドでは期限を設けているが、それには多少の猶予がある。その猶予期間は食材によるのだが。 「まだいける! 銅貨二枚賭けてもいい!」「やめときなよ……」「十分に加熱を……よし、スープにするか」 「どう?」「不味い……」

2021-03-28 12:55:33
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理7】準備や始末に労力を要し油を多く使う揚げ料理は野外で気軽に作るものではなく、町へ帰還後の楽しみとする冒険者も少なくない。 「揚がったよー」「よし、じゃあタレで煮て卵でとじて……」「くっ」「ん?」「折角サクサクのカリカリに揚げたのに……」「諦めろ」「無慈悲な!」

2021-03-31 22:17:46
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理8】『注意喚起』冒険者が処分した食べ残し等を野生動物が口にして死亡する事例が発生している。人体に無害でも動物には毒となることがあるため、各冒険者はギルド配布の手引書を―― 「これ害獣駆除に応用できないかな。安全な毒餌」「君が思い付く程度なら誰かがやってるでしょ」

2021-04-03 15:57:52
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理9】 「今日もパンに干し肉と携帯食料か」 「何日目だ? 厚い焼き肉が食いてえ」 「贅沢言わない。飽きないよう工夫してるでしょ」 「湯に干し肉入れただけのスープが料理ねえ」 「あんたたち、またご飯食べられなくなるんだから程々にしなよ!」 「「「はーい」」」 ※冒険者ごっこ

2021-04-07 20:34:07
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理10】 「吸血鬼と言っても、血液以外に料理を味わう楽しみも持ち合わせているものさ」 そう語る彼が食している料理は、豚の血を使った腸詰め、スープ、プディング、心臓と肝臓の野菜炒め等々。 「山豚を捕まえれば野営中でも味わえるのがいいね」「それを作るのは僕なんだけどな!」

2021-04-10 08:50:03

11~20

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理11】冒険者の鉄則、食えるときに食う。常に安定した食料の確保ができるとは限らない冒険者の間では、多少の差異はあれども概ね共通認識とされている。 「まさかそれをつまみ食いの言い訳にはしねえよなあ? だったら今後はお前の飯も全部食ってやるよ!」「ああああごめんなさい」

2021-04-11 08:18:27
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理12】食通で名の知れた冒険者と出会った。彼は大陸中の食材をあらゆる調理法で食したという。かつて両親に振る舞われた料理をまた味わいたいそうだが、大金と引き換えに食べた希少動物や魔物でさえも彼の記憶とは違っていたらしい。彼が過去に何を食べたのか、興味深いものである。

2021-04-11 21:15:06
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理13】 「携帯食! 保存食! いくら嵩張らず日持ちするからって、こればかりじゃ舌が変になる。将来はもっと旨いものが食える世の中になってほしいなあ」 「宇宙食! 完全食! 積載の都合があるからって、こんなのばかりじゃ味覚が衰える。昔は皆まともな飯を食ってたんだろうなあ」

2021-04-13 20:33:29
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理14】長期航海での食糧問題、特に栄養不足の解決は急務だった。国王自ら陣頭指揮を執り、冒険者ギルドと連携し、学者たちが研究を重ね、料理人は試行錯誤を繰り返し、多額の費用を掛け、ついに栄養価・保存性・運搬性・味に優れた小型携行食を開発した! 一方隣国は船を大きくした。

2021-04-14 21:55:23
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理15】世にも珍しい発光する茸。鮮度が落ちる、加熱する等により発光しなくなる。味は一般的な茸と変わらず極めて平凡、十分な下拵えを要する。食べた者は口を揃えて期待外れと―― 「この図鑑、ここだけ内容が偏ってない?」「物珍しさに食おうとする奴が後を絶たないんだとよ」

2021-04-15 20:23:22
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理16】 「煮込み料理は豚肉!」「いや牛肉だろ?」 「まあまあ。ここは大物を捕まえてきたほうの意見を採用ってことで」 「いいね」「面白そう!」「わたしもやるー」 「肉、肉が入ってないなんて……」 「『虫はイヤ』っていうんだからしょうがない」 「みんな狩りの練習しようね」

2021-04-16 22:21:39
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理17】日が沈み、暗闇に包まれた森に匂いが漂う。その源であるスープを煮込む男は、周囲を警戒するでもなく無防備な姿を晒している。案の定と言うべきか、匂いに誘われ音もなく忍び寄る複数の影。これで食い物に困ることはなさそうだ――果たして、その思考はどちらのものだろうか。

2021-04-20 21:11:02
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理18】 「鳥を捕まえた。大物だし適当に揚げよう」 「賛成!」 「味付けは塩で、ソースは甘口と辛口を作っておくか」 「賢明な判断ですね」 「貰ったワイン、開けるぞ」 「わかってるじゃねえか」 「仕上げに果汁をかけて……」 「やめて!」「人死にが出ますよ!」「考え直せ!」

2021-04-22 20:55:05
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理19】とても強い酒を貰ったから合うツマミを作ってくれと言われた。どうしたものかと考えていたら聞こえてくる笑い声。奴らが勝手に飲み始めたことが頭にきたので岩塩を雑に砕いて出してみたら、うまいうまいと食べ始めた。やはり度数が高ければなんでもいいとか言ってる奴は違うな。

2021-04-24 08:00:48
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理20】――これらの食物は咀嚼や消化に大きく体力を消耗するため、非常時を除き摂取は推奨されず―― 「つまり食えば食うほど痩せるわけだ!」「は? いやまあ止めないけど……それで痩せたら飯奢るよ」 「確かに痩せたね……天国で存分に食えよ」 その墓には毎日食事が供えられていた。

2021-04-24 08:03:24

21~30

サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理21】何もない部屋。しかし腕利きの冒険者は壁や天井の煤に気付く。仕掛けにより炎が吹き出し骨も残らぬほどに焼き尽くされるのだろうと見当をつけ、彼は部屋を後にした。 「何でお前が飯を作ると爆発するんだ」 「でも旨いよな」 「知ってる! だから特製の料理場を用意しただろ」

2021-04-25 19:50:11
サザンクロス @Mizuho_K

【ある冒険者の料理22】どんな食材も美味なる料理へと仕上げてしまう男がいた。彼の前では誰であろうと、好き嫌いなんて言葉は意味を成さなくなる。そんな奴がとうとう捕まっちまった。腐ったものを食わせて食中毒事件を起こしたからだとさ。もちろん食った奴らは口を揃えて旨いと言っていたがね。

2021-04-26 20:36:08
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