繊維系断熱材(石綿を含む)のお話

毎度お騒がせします。 何度目かになる、工業系下手の横好き的解説話です。 今回は世に多用される繊維系断熱材の事を少々お話しさせて頂きました。 古くは石綿が知られていますが、それに対して様々な代替材が登場しています。(完全に置き換え可能なものは登場していません) しかし、それも可也の段階まで進んでおります。アスベストを使用した建築物の解体による問題が今後も続く事を考えると、まずそうした諸々の物質への基礎知識があるに越した事も無いかと思います。(たてまえ) 続きを読む
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M-鈴木 甲28 @kapitan_black

某所(TL外)で話が上がったので、解説的意味も含めてちょっぴり断熱材の話をします。

2011-09-05 21:09:59
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

その昔、高温を含んだ環境に対する断熱材等に石綿(アスベスト)が広く使用されていた事は皆様ご存じの通りですが、そもそも石綿とは何であるかはご存知でしょうか?

2011-09-05 21:10:14
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

実は単元素物質では無くある種の鉱石であり、石綿は繊維状の変性体ではあるものの飽く迄も天然の鉱石(それも主要な構成物質がケイ素(Si)と酸素(O)であるケイ酸塩と言うありふれた)です。

2011-09-05 21:10:24
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

特徴はその繊維の性状であり、驚くほど細かい繊維を形成しています。髪の毛の僅かに1/1000~1/10000の太さしかありません。その結果、断熱・防火・防音・潤滑受け等の用途に適し、高温高圧の配管接続時のシール材としては替わるものが無い程です。

2011-09-05 21:10:35
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

※断熱材は基本的に空気(又は真空層)を含有すると同時に流動を阻害する事で熱の伝導を遅くするものです。 その為、魔法瓶や断熱鋼板の様に真空層を持つ場合や空気層を持つ場合以外では、繊維状の素材が多孔質・多細胞状(発泡系成型材)と並んで断熱材のほぼ全てを占めます。

2011-09-05 21:10:55
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

特に、断熱以外でも耐火性と耐久性の高さは建材として好まれるに充分な理由であり、布状にした際の柔軟性も含めて人類の火の使用の拡大と共に広く用いられ、伝説や神話に語られる幾つかの「燃えない布」は石綿では無いかとも言われています。

2011-09-05 21:11:06
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

しかし、こうした優れた機械的特性を持つ石綿ですが、健康への問題を指摘され、現在では使用範囲を厳しく限定されています。(前述の通り、完全に代替が効かない用途もあり、現在でも細々と使用されています)

2011-09-05 21:11:17
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

原因は繊維が極めて細く、同時に強靭だからです。細かい繊維の短い破片は空気に乗って飛散しますが、これが肺から(皮膚からも)体内に侵入すると消化もされず変性もせず、しかし自然に出て行く事も無く細胞に侵入し刺激し続けます。

2011-09-05 21:11:31
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

体内の抗体反応等も鉱物を処理する事が出来ず、石綿周辺で反応は継続し、その際の抗体物質までも含めて人体に有害となり、結果として肺癌や中皮腫となっているとされています。

2011-09-05 21:11:42
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

代替断熱材にはグラスウール・ロックウール等が良く知られています、それらが完全に石綿と交代する事が出来てはいません。

2011-09-05 21:12:08
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

グラスウールは(安価ではあるが)結局のところ耐熱温度が低すぎる(400℃前後)と言う点が付き纏いますし、強度の点でも石綿には遠く及びません。何よりも吸湿性が高く、壁の中でも水分で偏り易い等の建材として用いる場合の問題を抱えています。

2011-09-05 21:12:33

変な表現になりますが、ガラスは水に弱い物質です。
本来の強度に比して水原子が欠陥部分に取り付く事で簡単に破壊を進行させてしまうのは有名な処です。
加えて濡れ性が意外なほど高く、ましてや表面積が過大な繊維状となれば素材レベルで考えた時に「吸湿性が高い」ものとなります。
その結果、建材としてのグラスウールが湿気で重くなって壁の中でずり下がり、断熱/防音材としての機能を喪失する事態が多発するのです。薬剤(ホルモアルデヒド類)は事態のわずかなりとの改善の為(撥水性と成型の為)に使用されますが、これが加熱時には黒煙を上げる有毒ガスとなるのです。

M-鈴木 甲28 @kapitan_black

そこで登場するのがロックウールと呼ばれる素材です。これは石綿同様に主成分は鉱石である人造鉱物繊維です。耐熱温度が700℃にも達します。殆どの高温環境用途はこの素材で代替可能な理由です。

2011-09-05 21:12:45
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

しかし溶融状態から繊維状に加工しているものの繊維自体の耐久性が低く、圧縮や擂り潰しで容易に細かい屑に変わりますし、繊維自体が石綿より太い為、発癌性も大幅に低下しています。(0ではない)

2011-09-05 21:12:57
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

そしてグラスウールでもロックウールでも共通の問題として抱える物が、成型剤・撥水剤としてある一定量以上のホルモアルデヒド系列の薬品を含有する事で、火災の折は建材から生じる事が知られています。つまりは有毒ガスですね。

2011-09-05 21:13:07
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

そして前述の通り、700℃を越える環境での用途、圧縮環境(フランジシール材など)の用途ではロックウールは不適であり、そうした場合には更に高価な「セラミック繊維」が登場します。

2011-09-05 21:13:17
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

セラミック繊維は、ものに拠っては1200℃にも耐えるものがあり、断熱材状態・縫製用の糸状態・織物(布)状態が用意されており、ガスタービン発電機の断熱やロケットエンジンのノズル上部の精密機器保護、航空機の断熱部品など

2011-09-05 21:13:25
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

様々な箇所に採用されています。特に布状に形成可能な点は電子部品を後付け保護する部品として作成可能な点も含めて軍民問わずに航空機の重要部品に使用されているのです。

2011-09-05 21:13:35
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

大雑把にセラミック繊維と言いますが、シリカ系・アルミナ系など、主要なものでも複数種類があり、断熱特性と耐熱特性の差から非常に多くの商品が出回っています。

2011-09-05 21:14:57
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

この他に面白いものではステンレスを繊維状にして編み上げたステンレスウールシート/ロープがあり、様々な代替用途に用いられています。

2011-09-05 21:15:13

補足します
ステンレスは大別して組織の状態からオーステナイト・フェライト・マルテンサイトの3種があります。中でも耐食性が高いのはマルテンサイト系ですが、実は加工や加熱で容易に錆びやすい状態に遷移してしまいます。加えて例え高品位のものやインコネル等耐高温タイプを使用しても、岩石の持つ耐熱性に比べてしまえば、所詮は金属でしか無く、限界温度や耐薬品性の観点でも完全に石綿を代替するには至りません。

M-鈴木 甲28 @kapitan_black

しかし、これらの断熱材も健康への問題が「低い」だけで、体内に侵入した際の発癌性を完全否定出来ている訳ではないそうです。(不明=事実上なしと指定されている物もあります)

2011-09-05 21:15:24
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

そこで10年程前から着目されているのが、ある程度の耐環境性耐熱性を有しながら、体内に取り込まれた場合「分解される」繊維の存在です。生体溶解性繊維製品と呼称されるものです。

2011-09-05 21:15:33
M-鈴木 甲28 @kapitan_black

当初は機械的特性が低すぎるとして敬遠されていましたが、バクテリア分解/紫外線分解樹脂と同様に少しづつ素材としての性能を向上させてきました。現在では1200℃に耐える物も登場しています。

2011-09-05 21:15:42

但し、これも物理的耐久性や経時劣化(生体腐食を含む)も含めて考えた場合、石綿のそれに完全に代替するに至らないのが実情です。