アフリカのインターネットで起こったドラマと、これからアジアで起こり得るドラマの序章が凄すぎる

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

インターネットガバナンスって分かりにくし、退屈という皆さんの声に答えて、世界中を繋ぐという高邁な思想の下で、どれだけ面白いドラマが繰り広げられているのかを書いてみる。

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予備知識1: インターネットに繋ぐ機械にはIPアドレスというネットワーク上の住所を示す番号がいる。IPアドレスは数に限りがある。あなたの家のルーターにもスマホにも、学校のパソコンにもそれぞれ割り振られている。アドレスがあるから地球の裏側と通信できる。

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予備知識2: インターネットを使う人が増えたので、IPv4アドレスは足りていない。RIRとよばれる組織が、それぞれのルールで配分し、ISP(OCNとかKDDIとか)に貸し出すことになっている。RIRはアジアではAPNIC、アフリカならAfriNICと各地域に存在している。

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予備知識3: 今、IPv4アドレスをまとめて手に入れたい場合方法は2つ。①既に持っている人から譲ってもらう。謎が多い世界だが、1アドレスあたり30ドルくらいと言われている。②まだ貸し出していないアドレスを持っているRIR(AfriNIC)に貸してもらう。

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以上の予備知識を踏まえて、アフリカとアジアでとんでもないことが起きている。まずアフリカ。ルー・ヘンという香港の実業家が、2016年にAfriNICから700万以上のアドレスを年1万ドルで貸り出すことに成功した。

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AfriNICは、アフリカの組織にしかIPアドレスを貸さないという原則がある。ルーは、アフリカに法人を作り、タダ同然でアドレスを借り、それを中国のネット企業に又貸しして差額で儲けるという、画期的としか言いようのないビジネスを始めた。

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AfriNICは、定期的にセクハラ・パワハラ・賄賂・メーリスで放送禁止用語などの事件がおきる激しい組織だ。 幹部も定期的に変わり、方針も移ろう。2019年には古参スタッフが5000万ドル相当のIPアドレスを、データベースを弄って転売していたという事件もあった。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

これを機に、IPアドレスの管理をポリシーに基づいて厳格にしようという動きが起きた。そして、ルーの会社が借りたIPアドレスが、ほぼ中国本土で使われていることが、問題になった。IP使用の実体を問うAfriNICに対して、ルーは開示を拒否。2020年の春、2者の間の緊張が高まった。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

2021年夏、とうとうAfriNICはルーの会社へのIPアドレス貸し出しをやめること、90日以内にアドレスを使えなくすることを一方的に宣言した。RIRに、そこまでの権限があるのか、専門家の間でも意見は分かれる。

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ルーの行動は素早かった。彼はAfriNICがあるモーリシャスの最高裁に駆け込んだ。最高裁は、驚くことに、アドレス貸し出し停止手続きの停止命令と、Afrinicの銀行口座凍結命令を出した。Afrinicはモーリシャスの銀行にある50億円の現金預金を凍結された。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

以来、Afrinicとルーの会社の双方の訴えをモーリシャスの裁判所は聞いた。そしてやっと先週、ルーの会社の訴えは退けられた。Afrinicが勝ったのである。だが、今回の件はAfrinicのポリシーの穴や、組織の一貫性の無さなどの問題を合わせて提起した。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

Afrinicの一件だけ見ても、インターネットの根幹には、技術的な最適と、人や社会にとっての最適のせめぎあいがあるし、理想とする世界像の違いによるバトルがあるし、単純な金と名誉の奪い合いがある。一言で言えばドラマチックなのである。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

マスタリングTCP/IPには、インターネットにドラマがあるなんて書いてなかった。インターネットガバナンスは面白い世界だと思う。

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

ここまで読んでくれた方に、大オチを。「アフリカとアジアでとんでもないことが起きている。」って書いたののアジアの部分。Afrinicとの戦いに破れたルー・ヘン氏。さぞ憔悴しているのかと思ったら、今行われているAPNICの幹部選挙に堂々と立候補してました。当選したら、アジアもやばいぞ!

Koichiro Komiyama 小宮山功一朗 @kchr

最後に私と5000万ドル横領氏の笑顔をば。ダイナミックアフリカ! pic.twitter.com/NUK0iI7Vur

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