岩手医大教授でヒトゲノム計画の生き字引の清水厚志先生のヒトゲノム計画についての振り返りコメント

T2T(ヒトゲノムの、染色体の末端から末端まで完全に解読する)計画の完成によせて、ゼロから始まったヒトゲノム国際コンソーシアムの苦闘について、実際にかかわっていた清水先生による振り返り。ご本人から承諾をいただいています。
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厚志 @atsushi_ngs

2000年5月に21番染色体、そして概要配列の発表をしました。かなり前倒しです。しかも「だいたいわかった」でした。これはセレラ社の発表と競争していたからです。アカデミアはNature誌、ベンターはScience誌で発表しました。このときの配列が「hg1」です。 20/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 17:53:28
厚志 @atsushi_ngs

だいたい、で発表してしまったのですが、しっかり仕上げるために引き続き解析を進めました。2002年には横浜の理研で第12回最終国際戦略会議を行いました。コリンズも来日し、僕も参加しました。コリンズ早口で聞き取るの大変でした。 21/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 17:55:32
厚志 @atsushi_ngs

そして2003年4月にヒトゲノム全染色体配列と論文を発表し、2004年10月にヒトゲノム計画終了宣言を行いました。最後までねばりましたが、当時の技術では限界があり、真正クロマチン領域の95%の解読で幕を閉じました。 22/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 17:57:20

ヒトゲノム解読の技術的な困難な点

厚志 @atsushi_ngs

どうして100%までやらなかったかというと当時はどうやってもできなかったのです。1つはクローニングできない領域。当時シークエンシングするには大腸菌に一度いれたのですが、大腸菌が嫌って切ってしまう配列がありました。 23/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:00:24
厚志 @atsushi_ngs

2つ目がセントロメア。ほぼ100%おんなじ配列がめっちゃ長く続いていて、さらに染色体を超えて同じ配列があるのでどこ読んでるかわからず。 24/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:01:54
厚志 @atsushi_ngs

2つ目がテロメア。こちらもTTAGGGがずっと続く、こちらも長すぎてどうにもならず。あとテロメア周辺も染色体を超えて同じ配列があるのでどこ読んでるかわからず。 25/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:03:52
厚志 @atsushi_ngs

3つ目(あ、4つ目か)がセグメント重複。こちらは数千文字とか同じ配列が何度出てきて、しかも個人ごとに違う。僕らは両親から1つずつ染色体をもらうので各染色体2つずつあるけどそれがかなり違う。なので混じってしまってこちらもどうにもならず。 26/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:06:07
厚志 @atsushi_ngs

ということで2003年のヒトゲノム計画完了宣言は「ヒトゲノム完全解読」宣言ではなく3,000人のヒトゲノム研究者が全力でやったけどこれが限界の宣言。ここから今回の「完全解読」まで20年かかった。 27/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:08:04

ヒトゲノム計画終了後の進展:NGSの出現と完全解読を目指した技術開発の歴史

厚志 @atsushi_ngs

さて、ここまでがヒトゲノム計画の歴史、ここからが「ヒトゲノム完全解読」の歴史。 28/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:09:16
厚志 @atsushi_ngs

2005年に454社が新しいシークエンサーGenome Sequencer System GS20を発売。その前にもMPSS法とかあったけど20塩基とかだったので数百塩基、100万リードも読めるというゲノム研究の世界が変わる技術。さらに翌年にはSolexa社がGenome Analyzerを発売。 29/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:12:01
厚志 @atsushi_ngs

当時日本ではゲノム研究に予算がなかなかつかなくて慶應の清水信義研も苦労していてヒトゲノムから離れていた。僕はメダカ担当になっていたがGS20のデータ解析技術開発とかして信義先生に怒られた。 30/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:14:02
厚志 @atsushi_ngs

それでも世界ではヒトゲノム解読が継続されており、2009年には今も多用されているヒト参照配列 hg19/GRCh37が公開された。 31/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:15:19
厚志 @atsushi_ngs

次世代型シークエンサーが発展し、世界は徐々に完全解読に向けて動き出す。2009年には15番染色体の9個のGapのうちセグメント重複(SD)ではない6個を解読。 32/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:17:35
厚志 @atsushi_ngs

そして2011年5月に今回の完全解読のキーとなる長いDNA配列を決定できるPacific Biosciences社のPacBio RSが発売された。これまでのシークエンサーは短鎖シークエンサーと呼ばれるようになった。 33/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:19:15
厚志 @atsushi_ngs

2012年4月に20番染色体の3個のGapを解読。ヒトゲノム計画完了宣言時に341個あったGapを地道に1つずつ閉じるもなかなか進まず。 34/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:20:54
厚志 @atsushi_ngs

2013年12月には大幅アップデートしたヒト参照配列 GRCh38が公開された。 8年たった今でもいまだにGRCh37が併用されているが今回の完全解読で一気に参照配列の置き換わりが進むかな。 35/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:22:52
厚志 @atsushi_ngs

そして2014年1月に完全解読のもう1つのキーであるOxford Nanopore Technologies社のシークエンサーであるMinIONの Access Programme (MAP)が開始。この後の第2段で僕のバイオインフォの友人達がこぞって申し込んでいました。 36/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:25:03

そもそも参照ゲノム配列のもとになったゲノムとはどういうもの?

厚志 @atsushi_ngs

さて、ヒトゲノム計画ではニューヨークのバッファローでボランティアを募集してゲノム配列決定をしました。主に1名の方のデータですが、この方はアフリカンアメリカンとヨーロピアンを両親にもっているようです。 37/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:27:14
厚志 @atsushi_ngs

ヒトゲノム完全解読では胞状奇胎の検体を用いました。先程僕らは両親から1つずつ染色体をもらうと言いましたが、胞状奇胎は父からの染色体のみ持つので1つの染色体が1つの配列のみ持ちます。 38/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:28:59
厚志 @atsushi_ngs

2015年にPacBioで完全胞状奇胎細胞株(CHM1)の全ゲノム解析がされました。こちらは穴(Gap)だらけですが長鎖シークエンサーで全ゲノム解析が可能であることを証明しました。 39/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:30:11

全ゲノム完全解読プロジェクト(T2T)と長鎖シーケンサーの成果

厚志 @atsushi_ngs

2018年にAdam PhillippyとKaren MigaによりTelomere-to-Telomere (T2T) consortiumが設置されました。ヒトゲノム完全解読を目指すプロジェクトです。 40/n #History_of_HGP_T2

2022-04-05 18:31:05