【春、切断】福間健二 #k2fact326

福間健二 @acasaazul

明るい光。スープとパン。新キャベツのサラダも。感謝して、空っぽにできるものは空っぽにして、見上げると天井の黒い手に生きる理由が巻きとられていく。でも、生きるのだ。午前中とはちがう川が流れ、三月が終わろうとしてやっと存在に気づいた双生児のすることは追撃的だ。（春、切断１）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

闇のなかにタンスのようなものがあり、たぶんその引き出しのひとつがあいて、そこに小さな点でしかない明かりがつき、隠れている二人がいて、ぼくが守らなくてはならなかったのに。過去からの音が通る管。光沢ある布の、決定的な遅さ。生まれてすぐに亡くなった者だけが青い。（春、切断２）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

見知らぬ人。でも、知っている声。なんでも聞いてください。たくさん考えたあとの、拾う生活。古いヴァイオリンは弾かず、破綻しても、願いことの痕跡。その逆を使うってどんな表情をするのか。まず、転ばないようにする。震えていること、眠っていない地面に知られていても。（春、切断３）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

心臓の鼓動。空気と光。合流したいのは生きたいという単純な欲求の川だ。いま、それはどこを流れているのか。車が停まり、その人が降りてきて声をかけてくれた。大丈夫ですか。東郵便局の前。自転車で転んで倒れているぼくに。残るまなざしの役割。何を小さくすることなのか。（春、切断４）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

転ばないようにしていたのに。日本時間、二〇二二年四月三日午後三時半すぎの急流。でも、大丈夫です。内出血はこれからだが、路上の人間学は持っていかれるものがない。隠れる青、消滅はしない青を思いながら、ウクライナの夜空のことを書いてきた弘前の友人に返事を書いた。（春、切断５）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

ひとりの人間、それ以外の形式で透きとおっても。窓の下は熱くならない事実が通るだけだ。わかること、わかっているはずだったことの、乱暴な整理。行って帰ってくる。暴きたい秘密がない。ベルの鳴る世界。吹きちらされる花。いまの自分には合わない動き方だと知りながら。（春、切断６）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

もっと悩め。ひとりの人間の、十四個の冷たい石。並べ方もう考えられないよ、となった春の砂の上の自分が自分に言うのもこれだけだ。十年前に自殺した妹のことを思う男の書いた詩から引きかえした体で何を尾行できるのか。旭通りの食堂で新聞を読み、黙ってタンメンを食べた。（春、切断７）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

サチ、ユキ、コウ、ひとりで三役の文字が歩道橋から落とす黄色は、何に敵対するのか。ぼくは探す。青い流れにも赤い流れにもナイフとして使えるもの。構想の下書きがどこかにあるはずだ。でも、当たり前すぎるのかな。チュンチュン、この世におかれてこの世の光を食べるだけ。（春、切断８）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

マイ、ユイ、コウ、昨夜の新しい名前からの流れにはまだ色がない。羽田に行くバスを見送り、屋根の下、テレビのニュースを見て、乾かない足首を交換し、明かりを消して、絶望、ない。挫折、ない。ゴーストモーション、余計なのだ。風が吹きはじめる。ここに来た。ここからだ。（春、切断９）#k2fact326

福間健二 @acasaazul

雲。何のために。生まれる前からの波動、それを受けとめる体が必要だからだ。静かになったと思ったら、咳き込む音。だれだかわかる気がして、予感的中の、天才的な子どもの叩くドラムソロ。いきなり点を取られたが、痛みを忘れたぼくからの熱い流れもある。手を入れてごらん。（春、切断10）#k2fact326