「30年以上漫画編集者をしていて、村生さんほど担当編集に『愛された』漫画家はいない」村生ミオ先生の担当編集者が思い出を語る

岩井好典 @iwai_beam

漫画雑誌の凋落が言われ始めた時も、電子書籍の最初期、ガラケーのコマ送り漫画のランキングで不動の人気を取るなど、本当に、ずっと「流行作家」だったかたなのです。 2019年、重い病に罹り、プロダクションを一時解散する状況になりましたが、快方に向かうとすぐに仕事を再開なさり、

岩井好典 @iwai_beam

今年、致命となる再発をして、緩和ケアに罹りながらも、最後まで「仕事がしたいんだ」とおっしゃっていたとご遺族からお聞きしました。 報道されている通り、七十歳になろうというまさに現在も、ネット配信用の原作連載を続けながら、週刊実話の連載用に書き溜めを20話以上していた、漫画家です。

岩井好典 @iwai_beam

読者とともに歩んだ途轍もないキャリアが、村生ミオという漫画家の圧倒的な作家性です。 これほどの仕事をいったい何人の漫画家ができたというのでしょう。 自分は、村生さんとの想い出を、ここに書き切ることなどとてもできません。 最後にひとつだけ、そのお人柄と仕事への姿勢を表すエピソードを。

岩井好典 @iwai_beam

村生さんは、いつも 「ぼくは出版社とか雑誌のバリューで仕事を選ばない。編集者で選ぶんです」 と言っていました。 そして、その言葉通りの人でした。 以前、秋田書店と双葉社と集英社の隔週3誌の連載で人気だった時、週刊漫画ゴラクが依頼に来ました。 当然、週刊連載ができる状況ではありません。

岩井好典 @iwai_beam

「無理だよ。5年くらいしたら受けられると思うから、その時にね」 と村生さんは軽くお断りになりました。 それから、ゴラクの編集者は定期的に仕事場に顔を出すようになりました。 そして、ある日、いつものように村生さんを訪れたその編集は、 「…先生、あれから5年経ちました」 と言ったのでした。

岩井好典 @iwai_beam

その時も上記3誌の隔週連載は続いていたのですが、編集の意気に感じた村生さんは、スッパリと他の連載を整理し、ゴラクで週刊連載を始めたのです。 それが、キャリア最長のヒット作となった『SとM』です。 自分は当時、担当をさせていただいてはいませんでしたが、その決断にとても驚きました。

岩井好典 @iwai_beam

週刊漫画ゴラクは、長い歴史を持った雑誌ですが、業界的に見れば、例えば集英社のビジネス・ジャンプと比べるなら、漫画家にとってそれほど「魅力的」な媒体ではないように感じられたからです。 そのことを問うと、村生さんはいつものように柔らかい笑顔で、

岩井好典 @iwai_beam

「いや、ぼくは出版社とか雑誌は関係ないから。編集者で仕事を選ぶし、それだけ熱意がある人の依頼を無碍にはできないよね」 と、おっしゃいました。 自分は、そのセリフを言ったゴラクの編集もエライと感じましたが、それに応えて、他の連載をやめた村生さんを、本当にすごいなあと思ったのです。

岩井好典 @iwai_beam

村生ミオさんはそういう漫画家でした。 だからこそ、自分は村生さんを、誰よりも担当編集に「愛された」漫画家だと思うのです。 漫画家は亡くなっても、作品は遺る…とよく言われます。 それは確かにある意味で真実なのですが、でも、村生ミオは違うんです。 所謂「作家性」とか未来のためではなく、

岩井好典 @iwai_beam

今、その瞬間の読者を楽しませるために、村生さんは漫画を描いてきたのです。 村生ミオは、本当に美事な「流行作家」でした。 自分は、方向性の違うコミックビームに移ってからも、村生さんにお願いしてコミックス『愛死』を作らせていただきました。

岩井好典 @iwai_beam

ちなみに『愛死』では、ロング･インタビューをさせていただき、それをコラムとして収録しています。村生さんの「漫画テクニック」について、かなり細かく記しました。 もちろん村生さんは、ものすごくテクニックのある漫画家なのです。 そのすべてを書くことは、とてもできませんでしたが、

岩井好典 @iwai_beam

編集者として村生さんとお付き合いさせていただき、いろいろ勉強させていただいたことについて、少しでも文字として残したかったのです。 他ではあまりない読み物だと思いますので、興味のあるかたは、古本を捜してみてください。 自分にとっても、とても想い出深い短篇集なのです。 pic.twitter.com/SUhRh6YRyq

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岩井好典 @iwai_beam

@sekine301 ちなみに、この『愛死』のカバー絵、タッチが全然違いますが、村生さんがご自身で描かれています。 「この本なら、このくらいの絵を描いても大丈夫だよね」と笑いながら原稿をくださいました。 実はこうした絵も、描こうと思えば普通に描けるくらい、ちゃんと「技術」が高かった漫画家さんなんです。

岩井好典 @iwai_beam

長くなりすぎました。 村生さんについて忘れがたい記憶はいくらでもありますが、このへんにしておきます。 自分にとって、村生ミオは、生涯の恩人です。 二十代の中頃、生意気なだけの若造だった自分は、村生さんに出遭い、それ以来、とても大切なことをたくさん教えていただきました。

岩井好典 @iwai_beam

でも、村生さん。 逝ってしまうなんて、やっぱり早すぎですよ。 ぼくは、また村生さんの打合せ部屋で、映画や小説や漫画の話をしたいです。 午前3時とかまでダラダラ長っ尻で話す自分に、村生さんはニコニコと、面白そうなネタを手元のノートに書き付けながら、ずっと付き合ってくださいましたね。

岩井好典 @iwai_beam

村生さん、あの時間は、編集としての、ぼくの青春でした。 村生さんのおかげで、ぼくは漫画の編集者になることができたんです。 どんなに感謝しても、感謝しきれません。 もうお会いすることができないなんて、心が張り裂けそうです。 ツラすぎますよ。 こんなに号泣したことは、なかったですよ。

岩井好典 @iwai_beam

村生ミオさん。 本当に、本当に、お世話になりました。 村生さんのおかげで、今日も、ぼくは漫画の編集者として生きていけています。 ありがとうございました。 ご恩は、一生忘れません。 どうか、安らかに。

岩井好典 @iwai_beam

長いツイートをしてしまった。 棺の中の村生さんにお別れして、ブレまくる感情のまま書いたので、ガタガタした文章で、すいません。 村生ミオさんについては、『サークルゲーム』を担当し、キャリア後半に爆発するエロティック･サスペンス路線を確立するお手伝いをできたことが、編集的な誇りです。

岩井好典 @iwai_beam

不遜なもの言いで申し訳ないですが、『サークルゲーム』、マジでおれが担当したところは良いっスよ。いろいろしくじってるけど、自信ある。『愛死』収録の担当した短篇も面白いですよ。 今は読まれることも少ない作品でしょうが、評価して下さるかたもいるので、ありがたい。 note.com/keysta1970/n/n…

岩井好典 @iwai_beam

若輩なりにノリノリで担当してたんですよ。 広告も、かなりノリノリ。 当時、秋田はADは全部担当編集の手作りでした。 DTP以前で、コピーも全部自分で考え写植を切り貼りし、版下で作ってた。 カラー原画を小さくハイライト製版したものを超拡大コピーして、ドットの粗い絵にしてるね。ノリノリだね。 pic.twitter.com/uVkF0Gxyyo

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三崎尚人 @nmisaki

村生ミオさんの訃報。小学館/講談社/集英社/秋田書店/双葉社/日本文芸社/少年画報社と活躍。画報社以外の全てで10巻以上続く作品を出している希有な作家（画報社でも9巻）。師匠の柳沢きみおさんともに、男子の恋と愛と性を揺さぶり続けた作家の一人。ご冥福を。asahi.com/articles/ASQ4P…

三崎尚人 @nmisaki

先だって亡くなったBL小説家の南原兼さんもそうなのですが、ある種の「プログラムピクチャー」的なヒット作家は、なかなか歴史的に評価されにくいのですが、村生ミオさんの訃報が朝日新聞朝刊に載るのはすばらしいなと思います。 twitter.com/botacou/status…

小原篤／アニマゲ丼 @botacou

同僚が記事を出しました。明日の朝刊にも載ります。69歳でした。／漫画家村生ミオ氏死去　「胸騒ぎの放課後」「微熱　MY　LOVE」：朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASQ4P…

2022-04-21 09:07:36