世を継ぐ男 EX 9話 EPISODE OF 龍星『意馬心猿』
- mocharn3rd
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丸刈りにした頭を撫でながら、長岡龍星は言った。 「宮沢熹一。俺に火を点けた責任を、取ってもらう」 半身に構えながら、パーカーの肩にある「龍出没注意」のマークを威圧的に見せる。
2022-04-24 12:32:20熹一は鬼龍から受けついだコートを翻し、あきらかにダラッとした上半身を晒す。 「灘神影流"超鞭打ち"」 龍星は頭に血を上らせながら向かう。 「馬鹿にしてるのかあっ」
2022-04-24 12:32:29龍星の拳を熹一は払う。龍星の脚を熹一は払う。龍星の拳を熹一は払う。龍星の脚を熹一は払う。 ここでようやく龍星は、熹一が冗談やシャレでこの構えをやっているのではないとわかった。 「くっ、この、ああああああああああああ!!!」
2022-04-24 12:32:42攻撃的防御。 龍星は、師である宮沢静虎から教わったことがある。 ただ自分を守るだけの防御ではなく、攻撃してきた相手にダメージを与える防御だと。 「痛っ」 龍星は自分の口から、そんな言葉が出ることが信じられなかった。
2022-04-24 12:32:54「誰であろうと痛いと思う点を突いた。静虎から少しは聞いとるやろ。いろんなツボや痛点は」 熹一は言う。 「龍星、今からどんどんお前を痛くする」 少し熹一は言いよどんだ。 「退くなら今のうちや、って言おうとしたけど、お前は退かんのやろ」
2022-04-24 12:33:09「当たり前だ!」 龍星は顔を赤くしながら打撃を行う。だが、前腕は熹一の受けによってパンパンに脹れて重たくなっていた。 龍星はジャブからフェイントを入れてからの蹴りの打ち下ろしをする―― 「シン・コブラ!!」
2022-04-24 12:33:25熹一は息をついた。 「そんな使い方するな。技が腐る」 龍星の脚を払うと、跳びあがり龍星の頭を蹴り払う。 「ギャルアッドのコブラ・ソードのほうがマシや。お前がギャルアッドに勝ったからといって、技の冴えはそうとは限らん」
2022-04-24 12:33:39「がはっ」 龍星は床でうごめいている。 「静虎や尊鷹に鍛えられろ。なんだかんだ言うたけど、お前は素質がある」 「おっ、お前に……お前に味わわされた屈辱を晴らさずに、何が強さだ」 「はー……そういうところは鬼龍の息子なんやな」
2022-04-24 12:33:58熹一は龍星に近寄る。 「お前はまだまだ強くなるから、その調子で静虎の元で修業せえ。あとは尊鷹に師事するとかな。鬼龍の元にいくとロクでもないから行くな」 龍星の意識が刈られた。
2022-04-24 12:34:14熹一はスーツで身を固めた養父の静虎と話す。そこには叔父の尊鷹もいた。 静虎はうろたえながら尊鷹に問う。 「あの、鷹兄(たかにい)、テラっていう異世界は本当にあるんですか」 作務衣のような服を着た尊鷹は、自分の白髪を撫でる。
2022-04-24 12:35:03「私が鬼龍に橋から落とされた後に、しばらく行方不明だったろう。あの時期に、私はテラにいた」 熹一が苦笑する。 「ワシ、あんまり信用されてへんのかな」
2022-04-24 12:35:18静虎は否定する。 「いや、お前がどうこうじゃなくて、異世界って話は……最近? の流行りの小説みたいな話やと思ってな」 尊鷹が熹一の話を補佐する。 「そういわれても仕方ないかもしれないが、ガルシアが米軍の手から逃れるには、この手しかないと考えられる」
2022-04-24 12:35:40静虎は悲し気な表情をした。 「本当に、そうしなければ、ガルシアは救えないのですか」 尊鷹は即座に頷いた。 「あの世界は厳しいが、ガルシアが死ぬ可能性が高い地球よりはマシだ。熹一……ガルシアをよろしく頼む」
2022-04-24 12:36:08「おとん、早くて数年、下手したら何十年かの別れになる。だから言っておく。 おとんに育てられて良かった」 静虎は、自分が涙を流していることを知った。 「灘神影流には"見殺し"という殺し技はない。 お前がガルシアを見殺しにしないことを、誇りに思うで」
2022-04-24 12:36:38「鬼龍と龍星の心臓に関しては、こういう医療があるから……」 熹一は使い捨てスマホを尊鷹に渡した。尊鷹は鷹揚に答える。 「ああ、前に教わったやつだな」 「なにっ」 静虎は驚いた。熹一は説明を続ける。
2022-04-24 12:36:54「おとんよりは尊鷹のほうが通じる話もあるんで……あんまりショック受けないで欲しい」 「そ、そうか……」 尊鷹は静虎の肩を撫でた。 「お前がテラに行っていたら私より先に相談しただろうよ」 「そ、そうか……」
2022-04-24 12:37:15熹一は、最後に、伝えた。 「龍星のことはよろしく頼む。あいつは危うい。ジェットや姫次みたいな健気な感じや、ガルシアみたいな冷静さとは別の性格を持っとる」 「わかった」 静虎と尊鷹は頷いた。
2022-04-24 12:37:27「怒らないでくださいね。誰があいつを信頼するんや。プラスに評価してるのってお前くらいしかおらへんやろ」 「別に私もプラスにしか評価してるわけではないよ。プラスとマイナスを合わせて、それから鬼龍が好きなだけだ」 「そ、そう……」
2022-04-24 12:37:58「ゴア博士とは協力関係を取り付けられたんだな」 スプラトは熹一を見つめてくる。 「ああ。異世界転移施設の整備とか、あとはロープもびっくりするくらいの鍵縄とか作ってもろたで」
2022-04-24 12:38:14「あー、あいつがテラに来ればロドスももっと戦力が増すのに、惜しいなあ」 熹一は肩をすくめた。 「米軍で既にいい立場におるのに、異世界に行くメリットなんてほとんどないんやと」 「そっかあ……」 スプラトは窓の外を見る。
2022-04-24 12:38:31数分してから、熹一はスプラトに声をかけた。 「お前はゴアにコンプレックスを抱いとるようやけど、ゴアはお前の、いろんな分野で飛び込むようなスタイルを評価しとったで」 「そうか……」 スプラトから出た涙から、熹一は目を逸らした。
2022-04-24 12:38:48地球で、龍星はロードワークをしていた。 宮沢熹一は、遠い世界に行ったと聞いた。 静虎よりもその話はすんなり受け入れられたが、胸に欠落を感じる。
2022-04-24 12:39:00