- motikinako_kuzu
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ずっと交わっていたのだ。石工の魔女とあの真珠像は、自分が気を失う前から今までずっと。少女はその事実に思い至った。そして白濁まみれの真珠像のあまりの倒錯的なうつくしさに、少女は恍惚に我を失った。それが絶頂であると分かるような知識や経験は彼女にはなかった。
2022-04-29 09:37:38ぞくりとした快楽が背筋をはい登り、ため息があふれ、石机に突っ伏して、真珠像と魔女の交わりから眼を離せず、そのまま軽く痙攣した。魔女はそれを横目で見て、満足そうに、また真珠像の屹立を自分の中に受け入れながら少女に話しかけた。
2022-04-29 09:39:11「きれい、でしょ?」 その一言だけで全て理解した。それ以外関心がないのだと、そしてそれだけが世界で一番大事なのだと。 少女は必死に首を縦に振った。 「きれいっ、きれいですっ、みんなかわいくてっ、すごっ♡」 少女には美を称える語彙はなかったが、美しさに絶頂する感性は魔女に気に入られた。
2022-04-29 09:40:54魔女は多くを少女に話すことはなく、少女は度々古城を訪れたが、専ら石像が話し相手であった。魔女は石や土を撫でて物思いに耽るか、石像達と愛し合うことに忙しいようであった。
2022-04-29 09:41:58ある時、川の底の岩を磨いて作られたのだと言う黒いつややかな肌の小柄な石像が少女に言った。ついこの間、末の妹を作ったばかりだから、今は次の魂を見定めているのだと。
2022-04-29 09:43:06石工の魔女は、素材にふさわしい美しい魂を、その魂にふさわしい姿に彫り抜くのであって、その御業はむしろ自然現象とでも言うべきものなのだと。だから何かを表現しようとして考えたり、練習したり、彫ったりするのではないそうだ。
2022-04-29 09:44:15石工の魔女の居城には不思議なものがたくさんあった。樽になみなみと入った様々な薬品、ただの水、巨大な岩塩。レンガの山。いつまでも新鮮な藁の束。白い岩。様々な宝石、金銀。地下にはもっと危険なものがあり、そこには水と化合すれば発火する素材などもあるから、客人は立ち寄れないと言う。
2022-04-29 09:46:05そのどれもが、魂を得る日を待っているのだと。ふさわしい姿が分かったら石工の魔女は、素材を掘り抜き、時には合わせ、美しい魂の、美しい姿をそのままに像にし、自らの伴侶にするのだと言う。
2022-04-29 09:47:04ふさわしい姿が分かる迄の間、魔女は伴侶と愛し合い、素材を集め、また伴侶達と語らい、次に降り来るべき魂の形についての理解を深める。少女には到底理解の及ばない領域であったので、少女はその話を自らの知識ではなく、自らの信仰とした。
2022-04-29 09:48:11少女は石像の全てに憧憬を抱き、石工の魔女には盲目的な信仰にも近い感情を抱いた。世界で最も美しい石像と、その制作者。その認識は魔女と石像達自身の自認とも噛み合っていた。
2022-04-29 09:49:17なんと幸せで尊いことだろう。羨ましいと思う感情すら芽生えないほどに魔女と石像の美しさに心奪われ、石像と交わる魔女を見て忘我する事がしばしばあった。
2022-04-29 09:50:08魔女は気まぐれだった。気まぐれに、少女に美しい陶器を授けることがあった。手慰みに作った、何の魔法もない、ただの陶器であったが、魔女が手掛けたそれは取引には金貨が必要になるほどに高価な芸術品でもあった。
2022-04-29 09:51:03少女はその陶器の美しさも、価値は分からないけれど理解できた。ある種の才能だったのだろう。少女はそれを金銭にかえることなく、村の皆に秘密で大事にしまっておいた。
2022-04-29 09:51:51少女は古城にて茶の淹れ方も、陶器の手入れのしかたも学んだ。魔女からの授かり物を美しく保ちたい、美しく使いたいの一心だった。美しいものを見るだけでも幸せなのに、美しいものを正しく使えると言うことは更なる幸せだった。石像達は喜んで少女に知識を授けた。
2022-04-29 09:53:06美しさについての知識と技術は、少女自身をもまた、より美しいものにしていった。所作は洗練され、良家の子女にも劣らないほどの作法の知識を身に付けた。相も変わらず石像に心を奪われるばかりだったが、石像達と茶会を楽しめる程度の振る舞いを得た。
2022-04-29 09:56:05少女はある日、母親につれられて村の外れの小屋の裏に、その他の村娘と共に居た。小屋の中を順番に覗くようにと言われる。
2022-04-29 12:42:01小屋のなかは薄暗かったが、男と女が交わっているのが見えた。少女達はこう言ったものを直接見るのは、本来始めてであるべき頃合いであった。
2022-04-29 12:44:08母親が言うには、年頃の女は男と結ばれ、交わり、子を残すものだと。そうしてこそ幸せと言うものがあるのだと語り聞かせられた。
2022-04-29 12:44:52男と女の交わりを見ても少女は何一つ心が動じることはなかった。あまり美しくないな、と感じたばかりで、他の年頃の近い村娘達と不安や期待について話をすることさえなかった。
2022-04-29 12:45:32魔に魅入られた瞳に魔が宿る。もはや少女の審美眼は、ただの感性ではなくなりつつあった。少女は小屋で見た夫婦の間に愛も美も無いことを、見ただけで理解してしまっていた。ただの野性的な本能と打算による交わり。全く美しいとは思えなかった。
2022-04-29 12:47:10少女の所作はますます洗練されていった。自身の瞳に宿る魔を、少女が自覚していたかも分からない。しかし少女はますます時間が空けば魔女の居城に入り浸るようになった。村でも誰もが少女の洗練された所作に見とれた。年を問わずに男が少女を口説こうとしたが常に少女はそれを避けた。
2022-04-29 12:48:44無理矢理にでも手込めにしようと言う手合いがなかったでもない。しかしある思惑のある少女の両親によって、されは厳重に守られていた。
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