石工の魔女と骨滋の剥製のガーゴイルさん

自分用のまとめ。えっちなやつです。
8
前へ 1 2 3 ・・ 6 次へ
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は畑仕事をよくこなすわけではなかったが、尋常ならざる目利きがしばしば街より来た商人との取引に役立った。種の選別にも役立った。彼女はもはや美しいものを見分ける魔をその瞳に宿していた。

2022-04-29 12:50:10
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

美しさには、それぞれ異なる美しさがある。土には土の、石には石の。それは魔女の居城で、飽和せんばかりの様々な美しさに囲まれたからこそ培った彼女の魔であった。彼女が拾う土は必ず質のよい粘土となり、レンガや陶器になった。

2022-04-29 12:51:30
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

彼女が選別した豆は必ずよく実を為した。食事のために選別をすればふくよかでつややかな恵みが食卓に並んだ。彼女自身が何かを生むことはなかったが、素直で、しかし優雅な振る舞いと、真実を見いだすその瞳の価値を、両親はよく分かっていた。

2022-04-29 12:52:25
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

村の愚か者たちはそれを幼い身体に対する情欲でしか理解しなかったが、その価値はそんなものにとどまらないのだと彼女の両親は理解していた。

2022-04-29 12:52:59
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

秋、実りを捧げたあとの視察がこの地域のならいだった。村に騎士が巡り、町に各村の代表が集められ、領主がそれぞれの町を巡って確かに実りを受けとる。そういった手順がこの地方の慣例であった。

2022-04-29 12:54:36
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

騎士が巡る時、少女の両親は村長に無理を言って、騎士の接待を少女に任せることにした。村長も少女の美しさと価値を理解していたのでそれを承諾した。

2022-04-29 12:55:20
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

村の長の元を騎士が訪れ、畑の様子を確認し、納めるべき供物を確認し、日取りを確認する。少女は若き騎士に、自らが焼いた茶器で、自らが選別した茶葉で、茶を振る舞った。

2022-04-29 12:56:33
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

普通ならば村で淹れた、どこの雑草とも知れない茶等口をつけることはないが、その日ばかりは出された茶器の、侘しいながらも明白な美しさと、芳しい茶の香りに、騎士は一口、口をつけてしまったのだった。

2022-04-29 12:57:37
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は騎士に認識された。騎士は供物を町に持参する際、少女も帯同するようにと村の長に命じた。

2022-04-29 12:58:10
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

両親と村の長が図った通りに少女は領主の眼に止まる。田舎者にしては洗練された所作が周囲の眼を引いた。この地域ではあまりにも異質であったから。町につれられた少女は、領主より自身の手元で働くようにと命じられた。迎えの日取りを聞かされて、別れのためにと村にひとまず帰された。

2022-04-29 12:59:46
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女が別れを告げに行ったのは魔女の居城であった。本当は毎日でもここに通いたいのだが、働く場所が変わってしまうのでなかなかこれなくなるかもしれない、と魔女と石像達に告げる。

2022-04-29 13:00:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

魔女は、 「そう」 とだけ言った。 少女は、はい、とだけ答えた。 「勿体無いわね」 と呟いた魔女に、ありがとうございます、と答えた。

2022-04-29 13:01:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

石像達は少女を撫でて、いつでもおいで、と言ってくれた。それだけで少女はその石像達のあまりの美しさに脳髄が痺れて、ここから離れたくないな、と思うのだった。

2022-04-29 13:02:11
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

けれども少女の産みの親を裏切ることも出来ない。村においてあまりに異質であった少女を、打算とは言え守ってくれたのも彼らだった。少女は領主の館に奉公に出ることとなった。

2022-04-29 13:03:00
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

領主付きの使用人見習いとして、領主はすぐに手を出すほどの無分別ではなかったが、傍目から見ればそれも時間の問題であろうとは思われていた。

2022-04-29 13:03:35
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

だが少女の瞳は魔に魅入られている。すぐに違和が現れた。

2022-04-29 13:04:07
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

領主の部屋に少女はある日、招かれた。茶を淹れるように、と命じられたが、少女は壁にかけられた剣から眼を離すことがない。

2022-04-29 13:05:06
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

魔に魅入られた瞳にはやはり、魔が宿る。 領主が、その剣はこの地域を開拓した先祖の、故あるものなのだと説明すると、少女は首をかしげた。 「なぜ、偽物を飾っているのですか?」

2022-04-29 13:06:03
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は牢に繋がれた。何を言われてもその剣が偽物であると言うことを撤回しなかったからだ。

2022-04-29 13:07:28
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

本物の剣には金銀や玉がちりばめられ、魔力が込められていた。未開の地であった妖魔はびこるこの地に平定をもたらした魔剣は、しかし、いつしか失われていた。それでも剣は領主の正当性の根元であった。武力による平和と平定こそが彼らが領民を統べる根拠であったからだ。

2022-04-29 18:19:10
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

いつからか領主は代々剣を偽ることが普通となった。もはや平和な世にあってもやはりそれは正当性の源であったから、辺境の地で人を統べると言うのは、正当性と言うのはどうしても大事だったのだ。

2022-04-29 18:21:22
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女は地下牢で、剣を偽りと言ったことを撤回するように求められた。それでも少女は首を縦に振ることはなかった。なぜならばその贋作は、あまりにも美しくなかったから。

2022-04-29 18:22:09
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

少女にとって美しさ、というのは、もはや一つの信仰であった。その剣が単に贋作としての役割しか持っていないことを完全に見抜いてしまった彼女は、その醜さに我慢がならなかった。

2022-04-29 18:22:49
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

しかし少女は領主そのものを憎悪したのでもなかった。あくまで善意から警告したのだ。

2022-04-29 18:23:48
屑望喜納子 @motikinako_kuzu

あのような醜い剣を飾っていてはなりません、新たに作るのでも構わない、本当に美しいものを手におかなくてはなりません、と。領主に届くように、本人にも、見張りにも、ただの食事係にも、真摯に訴え続けた。

2022-04-29 18:24:35
前へ 1 2 3 ・・ 6 次へ