白蛇の戯れ

寺生まれの毛利さんシリーズの番外です。少し女性向け? 神社生まれの鶴姫の前で、試練の堂の前提のような話になってきますが、読まなくても全く問題はないです。
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種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 口ぶりからてっきり追いかけてくるつもりなのかと思ったが、一度声が聞こえたきり、車の傍に戻ってくるまで何も起きはしなかった。それが拍子抜けと言うより、何か裏があるんじゃないかと思わせる。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 01:58:50
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「ハーッ、ハーッ……ッく、おい、早くこんなとこから離れるぞ!」「………」政宗は、何も答えない。ただジッとトンネルを睨みつけていた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 01:59:57
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「何してんだよ…!もうわかっただろ、ガチだったんだよ噂は!!あれがカップルを破局させるだけで終わるような生易しいもんに見えんのか!?」肩を掴んでこちらを向かせた政宗の瞳を見て、ヒュッと息を飲む。これは、本当に俺の知ってる独眼竜か? #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:01:10
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 怒り。その瞳には強い憎悪が宿っていた。俺に向けられたもんじゃねぇとわかっているのに、足が震える。押さえる力が抜けたからか、政宗は逆に俺の腕を引っ掴み、もう片方の手を、俺の首に向かって伸ばしてきた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:02:47
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「ガッ……!」片手で首を締め上げられる。いくら大の男とはいえ、俺の方が体格も筋肉量も勝っている。それなのに、振り払えない、逃げられない。ギチギチと締め上げる強さは、何故か蛇の締め付けを連想させた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:04:20
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「退いてろ……邪魔だ」政宗の口調は静かで、その分、身に宿る怒りがよく伝わってくる。気道が塞がれ意識が飛びかけ、ここで倒れてしまえば楽になれるんじゃないかという考えがふと過ぎったが、思い直し、倒れかけた足をグッと踏み込んで政宗との距離を詰めた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:06:06
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「なっ……」政宗の驚いた顔が目に入り、そのまま黒い眼帯だけが視界を占めた。首に絡んでいた指の力が緩み、終いにはずるりと滑って落ちる。そりゃまぁそうだろう。いきなり同性相手にキスの一つもされたら呆然とするってもんだ。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:07:58
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 口を解放して政宗の見開かれた目を覗き込めば、困惑こそ窺えたものの、先程垣間見た怒りは露と消え去っていた。「……っし、戻ったか!」「な、何しやが…」「うっせぇ!とにかく今は逃げんぞ!」 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:09:28
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null あからさまにうろたえている政宗からは、先程感じた違和感は欠片も読み取れない。抵抗を忘れた身体を助手席に蹴り込み、代わりに俺が運転席に座った。こっちでは電車移動が主でペーパー状態だが、この際仕方がない。今の政宗にはなんの期待も出来ねぇ。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:10:55
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「お、い…さっきより寒気が……」ポツリと囁いた政宗の言葉が、途中で切れる。俺はシフトレバーやサイドブレーキの位置を確認していたので視線を落としていたが、バッと顔を上げれば、今一番見たくなかったもんが視界いっぱいに映り込んだ。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:12:15
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 『もう少し、遊んで行ったらいかがです……?御代は、貴方達の叫びと恐怖に染まった御尊顔で結構ですよ……』ニタァ…と、誇張ではなく口端を吊り上げて笑う大蛇が、その巨体をいつの間にやら車に巻き付け、フロントガラスの正面からこちらを覗き込んでいる―― #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:13:37
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「そこまでよ」聞き覚えのある、声。大蛇の背後に、あの寺生まれの毛利元就が立っていた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:15:29
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「還れ、ここは貴様の土地ではなかろう」『おやおや……貴方がいらっしゃいましたか……クククッ、今宵は珍客ばかりですね……』シューシューと掠れる音は実に愉快そうで、だというのに大蛇の表情は爬虫類らしい無表情なものへと戻っていた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:16:32
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「繰り返す。還れ」『そうですねぇ、贄が二匹に貴方様と蒼穹が居ては……跡形も残らないでしょうね』「わかっておるならば、手間を取らせるな」『お優しい事で……見逃していただけるのでしょうか』「当然貸しぞ」『でしょうね…ククク……アーハッハッハ!』 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:18:03
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 頭の中に響く笑い声を残して、大蛇は跡形もなく消え去った。成り行きを見守っていた俺たちは、ポカンと口を開いて見ている事しか出来なかった。なんなんだ、今の会話は。というか、なんであんなのと話がつけられる。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:19:46
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「そこの救いようのない馬鹿共。己が無能さを実感しておる所であろうが、その無能な脳など捨て置いてさっさとドアを開けよ、この愚図が」車の傍に近付いてきた元就の顔はいつもどおりの無表情だったが、言葉の棘がいつもより数段鋭い気がする。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:21:01
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 大人しくドアを開ければ、胸倉を引っ掴まれてパァンッと右頬を叩かれた。呆然とする俺に更にもう一撃、左頬も同じように盛大な音を立てて叩かれる。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:22:26
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「ふん、これで少しは立ち直ったか。飲まれかけおってこの阿呆が」「………な、」「おい右眼帯」「…そりゃ俺の事か」「貴様以外に誰が居る。さっさと降りて来るがよい」俺が口を開いたのはあっさりスルーされた。興味は別に移ったらしい。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:23:37
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「……む?」ヴヴヴ…と小さなバイブ音が聞こえてくる。政宗の方からだ。俺と毛利の視線を投げられた政宗自身もそれに気がついたのか、ポケットから携帯を取り出す。そしてサブ画面を見て、ゲッと声を上げて顔をしかめた。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:24:52
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「小十郎からだ……Shi!なんで毎度毎度こう勘が鋭いんだアイツは!」「あぁン?」「前の子供ん時も、オメェがいなくなってすぐかけてきやがったんだ!その後は説教の嵐で携帯の充電なくなったんだよ畜生!」 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:26:12
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「ふむ……我が手を下さずとも、留め金はおるようだな」毛利の呟きは、政宗には届かなかったようだ。唸り続ける携帯を前に出るかどうか悩んでいるようで、あーとかうーなどと意味のない声を出して頭を掻き毟っている。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:27:47
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「徳川、戻るぞ。いつまでそうしておるつもりだ」「へ、家康も来てんのか?」俺から手を離し、後ろを向いて毛利が声を張り上げる。その中に混ざる名に、思わず素っ頓狂な声が出た。この二人が一緒に行動するなんて珍しい…。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:29:15
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「当然よ。あの阿呆が偶数で訪れぬ限り姿を現さぬように場を作りおったからな。こればかりは我一人ではどうにもならん」「そういや、結局あれはなんなんだ…?言葉の割にゃあ殺気がなかったが」「ふむ…そこに気がついたか」 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:30:31
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null あの大蛇からは愉悦こそは感じられたが、今までああいった類から向けられるような殺意は一切感じなかった。寒気は確かにあったが、それも毛利の言葉を借りるならば”場に入った”のだと考えれば、納得はいく。相手の領分に入った居心地の悪さってとこだろう。 #kai_bsr_fu

2011-09-10 02:31:01