ひねくれ者の距離感

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嶺上律菜 @ritsuna_mine

思い出すのは、一番古い記憶。小さな自分と小さな彼が手を繋いで歩いている。向かうのか、帰るのかは分からない。確かなのは一つ。二人とも、笑顔で歩いている事だけだ。今見えるのは、一番新しい記憶。今の自分と大きくなった彼は、少し離れて歩いていた。開いた距離は、何を示しているのだろうか。

2011-09-18 01:53:24
嶺上律菜 @ritsuna_mine

二人の距離は付かず離れず。いくら歩いても変わる事は無い。学校まであと十分。この距離感が続くのだろう。一緒に登校するのは癖のようなもので、何も感じてはいないだろう。少なくとも、彼は。でも、私はこの時間にある種の煩わしさを感じている。

2011-09-18 01:53:30
嶺上律菜 @ritsuna_mine

彼は異性にもてる。先輩にもよくいい意味で絡まれているし、後輩からの尊敬交じりの視線も受けている。それに比べ、私は嫌われ者という自覚がある。ただ幼馴染というだけで彼の傍にいる邪魔者、というわけだ。アドバンテージとは思えない。

2011-09-18 01:53:37
嶺上律菜 @ritsuna_mine

そもそも、私は彼の事をどう思っているのか。嫌い、ではない。普通、というわけでもない。興味がない、などとは口が裂けても言えない。つまりは、だ。私は彼の事が好きなのだろう。何処がと聞かれても正直困る。なんとなく、という感覚が一番近い。しかし、確かな感情だ。

2011-09-18 01:53:42
嶺上律菜 @ritsuna_mine

もてあました感情は、生活をよくも悪くも掻き乱す。朝の何気ない挨拶と、昼下がりの食事も、夕暮れの別れも。全てが私の心を掻き乱す。正直、辛い。どうすればいいかなんて、百人に聞けば百人が同じ答えを返してくるだろう。「告白しろ」、だ。とんでもない、無理だ。

2011-09-18 02:14:09
嶺上律菜 @ritsuna_mine

自分には何一つ秀でた所は無い。先輩のような気遣いも、後輩のような純真さも無い。すれた心と、小賢しい頭。ついでにひがみっぽい。ああ嫌だ。こんな面倒臭い女、誰が好きになるものか。自覚しているが、治しようがない。三つ子の魂百まで、なのだ。

2011-09-18 02:14:13
嶺上律菜 @ritsuna_mine

陰鬱な思考を繰り広げながら歩けば、不意に視線が陰る。顔をあげれば、いつもの距離感を無視して彼が立ち止まっていた。随分、近い。「どうしたの」「こっちの台詞なんだが」どういう意味だろうか。「いつもより辛気臭い顔をしてる」余計なお世話だ。誰のせいだと思っている。

2011-09-18 02:14:21
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「気のせい、気にしないで」言って手を振っても、彼はそのままだ。「……何?」「なんか無理してるツラだな、と思って」出ました、無駄なお気遣い。そういうあたりが先輩を落とした秘密ですか、それとも後輩の方でしょうか。誰にでも優しい彼は、私にだって優しいのだ。

2011-09-18 02:14:27
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「気のせい」「じゃない、な」見透かした言い方をされるとイラっとする。「すまん、気を悪くしたな」だから「勝手に見透かさないで」「すまん」彼の横を抜けて歩き出す。私の後ろを彼が歩く。聞こえる足音は、いつもの距離感より少し近い。これは、いつもの距離を勝手に私が決めていたっていう事だ。

2011-09-18 02:14:35
嶺上律菜 @ritsuna_mine

勝手に距離を離していたのは自分、だ。私が望めばもしかして、昔のように笑顔で、手を繋いで歩けるのだろうか。しかし、試してみるのは怖い。失敗すれば、いつもの距離感はもっと開くに違いない。でも、このまま感情を持て余すのも、辛い。駄目で元々、だ。

2011-09-18 02:14:47
嶺上律菜 @ritsuna_mine

振り返って、彼を見る。久しぶりに視線があった気がした。少し、恥ずかしい。

2011-09-18 02:14:53
嶺上律菜 @ritsuna_mine

「ねぇ、手。繋いでみようか」

2011-09-18 02:15:01