京都府立植物園の野鳥の種多様性を島の生物地理学の考えを適用して評価する

京都府立植物園は開園100年を間もなく迎えるが、それに合わせて「北山エリア再開発計画」の計画地に含められ、存続の危機に見舞われている。このまとめでは、京都府立植物園における野鳥の多様性を評価し、植物園の存続から真っ当な発展を望む立場から情報提供を行う。
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今井長兵衛 @medanjin

評価には、チョウ類の評価に用いたのと同じく、島の生物地理学の手法を用いた。この評価手法は、今井長兵衛(1996)大阪市とその周辺の緑地のチョウ相の比較と島の生物地理学の適用,環動昆 8: 23-34, jstage.jst.go.jp/article/jjeez/… を参照されたい。

2022-05-30 17:11:44
今井長兵衛 @medanjin

一部の解析には、山野の鳥と水辺の鳥にわけて種数を記録したデータを用いた。これらは、それぞれ、日本野鳥の会(1991)「野外観察ハンドブック①山野の鳥」と日本野鳥の会(1994)「野外観察ハンドブック②水辺の鳥」に掲載されている種である。

2022-05-30 17:13:07


評 価 結 果

今井長兵衛 @medanjin

下図は大阪市内27緑地における面積―種数関係を示す図に京都府立植物園のデータを加えたものである。面積(対数)―種数関係は傾きが正の回帰直線で表現でき、京都府立植物園のデータは回帰直線のはるか上にプロットされ、植物園の野鳥種多様性が高いことが分かる。 pic.twitter.com/z1Br4IXUBn

2022-05-30 17:15:34
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今井長兵衛 @medanjin

大阪市内緑地で野鳥の種数が多かったのは、大阪城公園(面積108ha)と大阪南港野鳥園(19ha)であり、野鳥のためだけの南港野鳥園と主に植物のためだけの京都府立植物園の面積と種数がほぼ同等なのは、面積はたまたまだろうけど、興味深い。

2022-05-30 17:19:20
今井長兵衛 @medanjin

下図は大阪市内27緑地における最も近い山からの距離―種数関係を示す図に京都府立植物園のデータを加えたものである。距離と種数との間には特定の関連が認められない。大阪市内27緑地は山からの距離が5~22kmの範囲におさまるが、この程度の距離は鳥の移動の障壁にはならないのだろう。 pic.twitter.com/zaTFQEVPKm

2022-05-30 17:21:09
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今井長兵衛 @medanjin

下図は大阪市内27緑地における最も近い山からの距離―山野の鳥種数関係を示す図に京都府立植物園のデータを加えたものである。距離と種数との間には明確な関連が認められないものの、南港野鳥園の山野の鳥の種数は30種であり、京都植物園の59種の半数に過ぎない。 pic.twitter.com/1C0npts3py

2022-05-30 17:22:51
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今井長兵衛 @medanjin

余談ながら、大阪南港野鳥園(写真)は海鳥や淡水性水鳥のために造成された施設で、人工干潟や淡水池が敷地の大部分を占め、その間に樹林が配置されている。そのことと山からの距離が遠いことがあいまって山野の鳥の種数が京都植物園より少ないのだろう。 pic.twitter.com/snLExJV8dF

2022-05-30 17:27:56
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バラ園を守ろう

今井長兵衛 @medanjin

#京都府立植物園 #バラ園 #生物多様性 バラ園には300品種、2000本のバラが栽培されている。バラ属は北半球温帯域に広く自生、品種改良に用いられた原種は、日本のノイバラ、テルハノイバラを含む10種ていど。野生種の交雑から品種が作り出され、現在は地球規模の品種間交雑で新品種が作出されている。 pic.twitter.com/Fsr7xTRrgI

2022-05-29 15:01:10
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今井長兵衛 @medanjin

#京都府立植物園 #バラ園 #生物多様性 在来品種と外来品種の人為的交雑により、バラ園芸品種の多様性が創造されてきたわけだ。これはヒトとバラの協働による遺伝的多様性の創造と言えよう。バラ園の多様な品種を愛でることは、遺伝的多様性の恵みを享受していることに他ならない。生物多様性を守れ!

2022-05-29 15:15:37

バラ園にはかなり頻繁に薬剤が散布されていると推測している。薬剤を散布しない我が家のバラの葉っぱはバラハバチに食われ、バラハキリバチに穴をあけられているから。園芸植物としてのバラは花と完全な葉っぱが不可欠だろう。バラに限らず植物園の植物を守るために薬剤を散布することはやむを得ないと思う。そのために、小昆虫などの多様性は損なわれるが、植物園の最も大切なものを守ることは当然だろう。ただ、植物園の管理に、減農薬総合防除の理念・手法をできるだけ採用していただければと願う。


「花とみどり」から「花・みどり・生き物」へ

みどりと生き物会議の活動を通じて、当時の大阪市の実態を明らかにするとともに、環境を総合的にとらえる市民を少しでも増やしたいと考えていた。活動の中で、「史跡・街並みには興味があるがそれ以外はダメ」、「環境には興味があるが生き物には興味がない」、「植物は好きだが虫は苦手」など、多様な嗜好・価値観をもつ人々の協働が一定程度実現した。

いま京都府立植物園を訪れ、バラ園や観覧温室の素晴らしさに感動する人は多い。その方々の価値観が生物多様性の保全へと向かうことを願う。「花とみどり」から「花・みどり・生き物」へと! 

チョウ類と野鳥の種多様性で見られた京都府立植物園の生物多様性の高さは京都府民の誇りである。生物多様性をさらに高め、後の世に残していきたいものだ。再開発計画に反対の人も古典的な植物園の理念に凝り固まらず、多様な生物群の多様性を保全する場として京都植物園の未来像を描いてほしい。

アミューズメントパークの要素を大幅に取り入れることは百年の愚策だ。