轆轤

社長の学生の頃の思い出話を、かなり脚色して twnovel にしてみました。タグ合わせて140文字簡潔のついのべを繋げたら1つの物語に。400字の原稿用紙にしたら40枚足らずの短編です。 登場人物:僕(若かりし頃の社長がモデル)お嬢(僕の女友達)彼女(サークル仲間)先輩(サークルの先輩)坊主(サークル仲間) 陶芸サークルに入部した僕。元祖草食男子の4年間の青春。 続きを読む
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轆轤101 #twnovel お嬢と一緒にいると楽しかった。それだけが全てだった。あのとき…先輩と僕の間で泣きじゃくったお嬢を見て胸が痛んだ。お嬢には笑ってて欲しい…僕以外の誰かを思っていたとしても。将来のことなんて、頼りない僕には何も解らないけれど、それだけを思って土に触った。

2011-11-02 12:03:53
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轆轤102 #twnovel 「不細工やな」焼き上がった、たった1つの湯呑を見て思わず呟く。「そう?私は好きだけどな。素朴な感じで」彼女が笑う。手作りの白木の箱に湯呑を仕舞って蓋をした。手紙の返事を書けないままだったお嬢へ…短い文を添えて郵送する。「お嬢へ 僕も嘘偽りなかったよ」

2011-11-03 11:44:14
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轆轤103 #twnovel 仲間内で一番に坊主の出版社への就職が決まった。いつのまにかサークルの後輩の可愛い彼女まで出来ていた。「お前はまともだよ」僕は感心してビールグラスを坊主のそれにカチンと当てる。「お前は異常だよ。就職活動もせずに何やってんのよ」坊主にまで言われる始末だ。

2011-11-03 11:44:23
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轆轤104 #twnovel 「僕は就職決まってるから活動しなくていいんだ。実家帰るよ」親父の後を継ぐと決めていた。長男だし、大学で学んだ経営学もちょっとは役に立つだろうし…他にやりたいことも見つからないし。「へぇ。次期社長だ!」坊主がちゃかす。「陶芸は役に立たないだろうけどね」

2011-11-04 11:10:21
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轆轤105 #twnovel 最後の夏合宿は、彼女のコンクール優勝祝賀会も兼ねて派手にやろう!と、ろくに製作もしてなかった坊主が「俺、幹事やる!辞めたヤツも呼ぼうぜ!」と言い出す。彼女の作品は漸く小さな光を浴びた。それでも彼女は、一部の審査員から出た酷評に気を緩めない様子だった。

2011-11-04 11:10:30
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轆轤106 #twnovel 「原動力が違えば見えて来る目的地も違って来る」いつか先生が言ってた言葉を思い出した。彼女はきっと、目的地へ向かう途中なのだろう。工房で長い時間を共有した同士のことを、僕は誇らしく思った。「おめでとう」心を込めて。「ありがとう」彼女はハニカんで笑った。

2011-11-05 01:00:12
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轆轤107 #twnovel 最後の夏合宿。工房に出した店の反響で部員がかなり増えていた。「夜は外でBBQと花火やるからな!」坊主が張り切っている。僕の様子を察してか坊主が先手を打った。「お嬢なら来ないよ。アイツ、退学届出したらしいぜ。結婚が決まったんだって。いい気なもんだよな」

2011-11-05 01:10:49
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轆轤108 #twnovel 「…え?」今、何て言った?「…なんだよ。お前にも連絡なしかよ。なんだアイツ!最後まで勝手なヤツだな」坊主は、大した話でもないように切り捨てた。結婚…なんで…血の気が引いた。あの夏合宿の夜のお嬢が「彼女のこと好きなんでしょ?」目の前で微笑んだ気がした。

2011-11-06 01:00:30
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轆轤109 #twnovel 「私、解らないの…」「付き合ってないらしいな」「アイツは簡単でいいよ」「ゴメンなさい…」「君の気持ちが大切なのよ」「随分上達したね」やめろ…止めてくれ…もういい…もういいんだ。僕は、轆轤の真ん中に立って回ってる。回りながら黒い渦の中に飲み込まれてく。

2011-11-06 01:10:06
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轆轤110 #twnovel 白無垢を着て幸せそうに笑うお嬢と、笑顔が爽やかな男の写真が印刷された葉書が届いた。全部が印刷された文章の下に小さく「湯呑ありがとう。大切にします」と手書きで書かれている。止めていたタバコに火を付けて布団に横になった。坊主の口走ったことは…事実だった。

2011-11-07 01:00:39
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轆轤111 #twnovel お嬢は正真正銘、誰もが知る大手製薬会社のご令嬢で、大手クレパス会社の御曹司との盛大な結婚式には、大学の友人などの席はなかった。僕はとにかく脱力した。後から知った親父は「親の仕事、薬局て言う規模ちゃうやんか!」僕の不甲斐なさを相当悔しそうに嘆いていた。

2011-11-07 01:10:09
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轆轤112 #twnovel 僕の4年間はあっけなく過ぎた。残ったものと言えば、掛け替えのない数少ない友人と愚作ばかりの作品だった。お嬢ともそれ以来逢うことも話すこともない。住む世界が違い過ぎる。僕は、4年間対峙し続けた轆轤を引越しのダンボールの中に入れたまま2度と開けなかった。

2011-11-08 11:17:06
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轆轤113 #twnovel 「あなた〜お仏壇にお水〜!」言われなくても解っている。肉厚の鉛色の湯呑に水を注ぎ、親父の眠る仏壇に供える。妻の出掛ける準備を待ちながら、ポケットに仕舞った個展の案内を確認した。あれから30年…僕は、見合いで出逢った妻と結婚して2人の子供にも恵まれた。

2011-11-08 11:18:17
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轆轤114 #twnovel 子供達が成人して独立した今、少々口うるさいが僕には勿体ないくらいの妻と2人で出掛けることが多くなった。「おばあちゃん!夕飯までには帰りますから」年老いた母に妻が声をかけた。母は縁側でニッコリと頷いて猫と何やら話し込んでいる。秋晴れの気持ちの良い日だ。

2011-11-09 01:00:24
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轆轤115 #twnovel 「わぁ!素敵」会場に入ると妻の目が輝いた。奥の方で客に応対していた彼女がこちらに気付いて寄って来る。「来てくれてありがとう」相変わらず美しい。「今や、全国行脚の大先生やな」「とんでもない!」彼女は謙遜しながら妻に目をやり「奥様?初めまして」挨拶した。

2011-11-09 01:05:59
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轆轤116 #twnovel 彼女は「ごゆっくり」妻に微笑み「後でね」僕に目配せをして忙しそうに、呼ばれたスタッフの方に立ち去った。「奇麗な人ね」妻がすかさず耳元で囁く。結婚もせずにひたすら陶芸の道を突き進んだ彼女の個展は大盛況のようだった。僕は懐かしくなって、妻に質問を投げた。

2011-11-10 01:00:30
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轆轤117 #twnovel 「君は今この器に見惚れている。その瞬間に何を思う?」妻は、目の前の器に目を戻し首を捻る。「君は作品が焼き上がったときまず何を思う?」かつて彼女が僕にした質問を思い出していた。「どんなお料理を乗せようかしら?」妻の答えに僕は「ご名答!」感心して笑った。

2011-11-10 01:05:53
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轆轤118 #twnovel 熱心に作品に見入る妻から離れてソファに腰掛けると「本当にお久しぶりね。おかげさまでこうして何とかやってるわ」彼女が改めて声をかけて来た。「すごいとは思ってたけどほんまに大したもんやな」僕も改めて絶賛すると「…君のおかげなのよ」彼女が真顔で話し出した。

2011-11-11 01:00:36
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轆轤119 #twnovel 「君があのとき…陶芸サークルに入るって言ったから私もやってみようと思ったの。君に話しかけられたとき胸が踊ったわ…タイプだったの。動機が不純よね。だけど始めてよかった。君が導いてくれたのよ!君と一緒に製作した時間は幸せだったわ…私にとっての宝物なの。」

2011-11-11 01:05:35
min @37a_

轆轤120 #twnovel 「あの頃、君のことが好きだったのよ。けど…作品が焼き上がったときまず何を思う?って聞いたとき…憶えてる?」僕は面食らって頷く。彼女は大きな溜息をついてからニッコリ笑って言った。「君の顔にお嬢って書いてあるんだもん!あぁもうこれは叶わないって思ったの」

2011-11-12 01:00:59
min @37a_

轆轤121 #twnovel 「私あの頃本当は…いつも!まず君に見せたいって思ってたのよ。けど言えなかった…」妻がお気に入りを見つけたらしく僕に手招きしている。「あの…つまり…」思わず生唾を飲み込む。目の前で微笑む彼女の背後に、あの始まりの日の桜吹雪が舞ってるように見えた。(完)

2011-11-12 01:05:27
min @37a_

轆轤 あとがき1 #twnovel ダラダラと垂れ流しておりました「轆轤」終了致します。「轆轤」の如く定期的に勝手に廻って来るようにタイマー仕込んで排出しておりました。140文字完結の掟を破ったようにも思いますが、自分としては121コの物語を数珠つなぎにして1つにしたつもりです。

2011-11-12 01:06:32
min @37a_

轆轤 あとがき2 #twnovel ついのべのおもろいところは、短い物語の前後や背景を自由に想像させるところで、読み方によっても変わって来るとこだと思っていて、121コの物語を別々の物語だと思って読み返してみるとまた違った背景が浮かんで発見だったり、自己満足で楽しんで参りました。

2011-11-12 01:07:36
min @37a_

轆轤 あとがき3 #twnovel この「轆轤」は、社長の学生時代の話を聞いて唐突に妄想が膨らみ、数日で(寝る間を惜しんでまで w)綴ったものです。社長が美人目当てに陶芸サークルに入部したのと、某製薬会社のご令嬢とお友達になったことは事実ですが、実際は色恋沙汰はなかったそうです。

2011-11-12 01:08:40
min @37a_

轆轤 あとがき4 #twnovel というわけでこの物語は多大な妄想によるフィクションです。ちなみに社長は老後、趣味としてまた轆轤を回したいらしい。社長、勝手に妄想してごめんなさい!w「轆轤」全121話。まとめました。→ http://t.co/ewpZMkBR

2011-11-12 01:09:42
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