スレイト・オブ・ニンジャ(2022年5月Twitter掲載分)
実家ほど広くはないが、自宅のワーキングルームは全面ガラス張りの窓を持つ洋間で、ブラインドの向こうには混沌のネオサイタマを一望できた。だが今は仕事に集中するため、照明をほとんど落とし、ここには灰色の四角い空間があるだけ。部屋の隅のオーガニック・カドマツも、薄ぼんやりとしか見えない。
2022-05-12 12:02:26その下に並んだ外付けファイアウォールの微かなLED光が、ホタルめいてチカチカと瞬いている。「うーん……」ワークフロムホームのために仕事用スーツを着てキモン腕章をつけたノボセ・ムギコは、難しい顔でUNIXデスクに向かっていた。机の上にはハンコ待ちの書類がいくつも積み重なっている。
2022-05-12 12:05:32ムギコは数時間根を詰めて働いたが、思うように進まず、こうしてセルフ残業をしているのだ。理由は解っている。完璧を求めすぎるのだ。この仕事に完璧など無いとはわかっているが、性格上、どうしてもやめ時が掴めない。食事は半日近く、オイシイ・タブレットしか摂っていなかった。
2022-05-12 12:09:19若干肌寒い。流石に何か食べないとダメか。ふと気がつくと、後ろのフスマが開いていた。「モウン」と机の下から声が聞こえた。ミニバイオ水牛だった。「モウタロウ」「モウン」モウタロウはタイツを履いたムギコの足元にすり寄った。ムギコは溜息をついた。「ごめん、今ちょっと忙……」
2022-05-12 12:12:00言いかけて首を振り、彼女はエルゴ椅子から立ち上がった。そしてモウタロウを小脇に抱えて廊下を歩き、冷蔵庫に向かい、ヨロシサン印のバイオインゴット・クリスピーの箱を取り出した。それをガサガサと、黒漆塗りのサンポ型トレイに入れる。
2022-05-12 12:15:00「ごめんねモウタロウ。お腹すいたでしょ」「モウン」モウタロウはムギコに頭を撫でられながら、嬉しそうに餌を食べ始めた。それを見ているムギコもグウと腹が鳴った。彼女は少し思案した。ピザの出前でもとろうかと。
2022-05-12 12:18:005月13日
【南米、アマゾン流域、深夜】
初出:2019年3月13日
南米、アマゾン流域、深夜。マグライトの明かりに羽虫がたかってくるが、ニンジャ装束完全装備のフォレスト・サワタリは少しも気にする事がない。彼はK-2、K-3と共に、ずんぐりとした円錐形の植物を囲んで、しゃがみ込んでいる。 1
2022-05-13 12:02:00K-2がフォレストに細長いトーチを渡す。フォレストは手甲を擦りつけ、摩擦で着火すると、K-3は羨ましそうに見る。「やりたかったな」「シッ、ダメにきまってんだろ」「……」フォレストは二人を目視で黙らせると、発火したトーチを円錐形の植物の根元に設置した。 2
2022-05-13 12:05:00バチバチと爆ぜる炎の明かりで、この円錐物の詳細がわかった。タケノコである。否、タケノコではない!「アバーッ!」炎に耐えかね、恐ろしい咆哮をはなって地中から飛び出したのは、タケノコじみた頭部を持った邪悪なモグラ種の生物、バンブーモドキだ! 3
2022-05-13 12:08:00「イヤーッ!」「アバーッ!」フォレストが竹槍を素早く掴み、心臓をあやまたず貫いて絶命させる! K-2が麻袋に死体を詰め込み、K-3が地図にチェックをつける。フォレストは額の汗を拭う。「これがあと11匹だ」……夜は長い。 4
2022-05-13 12:11:00🌟マッポーの一側面たるスレイト・オブ・ニンジャを大量摂取したい人は、まずニンジャスレイヤーPLUSのここからアクセスだ。AoM世界の俯瞰入門にも最適!: 【スレイト・アーカイブ】2018~2020|ニンジャスレイヤー公式/ダイハードテイルズ @dhtls #note diehardtales.com/n/nc817530347c2
2022-05-13 12:17:005月17日
【キョート城 経済区:パーガトリー】
初出:2020年6月13日
「ヘイオマチ」イタマエのオタルがスシゲタに乗せたのは黒一色のスシ四つ。パーガトリーはしばしそのスシを眺めた後、奥ゆかしい手付きで右端を取り、ショーユにつけて口に運んだ。「フム……」彼は眉根を寄せた。スシの握り具合に乱れがある。彼はイタマエを一瞥した。イタマエの目には畏れがある。
2022-05-17 12:07:39無理もなし。パーガトリーは諦めた。左将軍たる己が、かようにして身分にそぐわぬ店を訪れれば、いかに隠そうとも、自然とその威光は漏れ伝わり、店主は震え上がり、スシ握りの技巧にも狂いが生じようものだ。つまりパーガトリーの実力ゆえの悲しい帰結……悪い気はしなかった。
2022-05-17 12:10:00「カカカカカ……!」その時、店の奥の個室から荒々しい笑い声が聞こえてきた。笑い声の主は他のニンジャ数名を相手にサケでも振る舞っているようだ。パーガトリーは口元を覆い、席を立った。「ア……よろしいので?」「構わぬ。勘定せい」パーガトリーは首を振った。
2022-05-17 12:13:00「味、よくなかったですか」「否、急用を思い出したゆえ。私は暇ではないのだ。ハゲミナサイヨ」「ではベントーにお包みしますね」「ベントー?」「ドーゾ」イタマエはスシを黒い笹の葉に包んで差し出した。パーガトリーは顔をしかめ、受け取った。
2022-05-17 12:16:00店をしめやかに退出し、彼は行き交うニンジャ達に紛れた。新たにキョート城に招かれたというイタマエのスシ屋、いやに評判が良いゆえ、いかほどかと忍び行ったが、やはり慣れぬ事はするものではない。あの者と同じレベルの浅ましい愚行になってしまったではないか。彼は己の気まぐれの行動を後悔した。
2022-05-17 12:19:00