「チ。」で話題の地動説と教会の関係についての解説

とても興味深かったのでまとめました。
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QmQ @gejiqmq

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QmQ @gejiqmq

「チ。」で話題の、地動説と教会の関係なのだけど、知ってる範囲で。。。

2022-07-09 09:28:21
QmQ @gejiqmq

まず、コペルニクスなのですが、彼は教会内に職を得てますし、生前から「コメンタリオルス」と呼ばれる地動説の草稿が回覧されていて、彼の学説は秘密でもなんでもありませんでした。なお、死後直後に出版された『天球の回転について』は、ここからかなり進歩しています

2022-07-09 09:31:48
QmQ @gejiqmq

もちろん、特に迫害などは受けてないです。この空気が変わるのは、コペルニクスの死にころ、改革が激しさを増し、トリエントの公会議などで教会保守的な勢いが増したことがあるとおもいます。反動宗教改革のイエズス会はこの少し前、1530くらいだったとおもいます。

2022-07-09 09:34:59
QmQ @gejiqmq

これ知識人への締め付けは、それまでの比較的緩やかだったのが厳しくなったようです。例えば、ガリレオの望遠鏡の観測を全否定したアリストテレス主義者のクレモニーニも、カトリック教会からの干渉に悩まされました。

2022-07-09 09:37:50
QmQ @gejiqmq

ただ、教会全体が完全に反知性主義に走った。。。というわけではなくて、例えば今用いられているグレゴリオ暦の制定も、このころです。イエズス会にもクラヴィウスのような優れた天文学者がおり、また天文学教育の組織化が進みました。

2022-07-09 09:41:48
QmQ @gejiqmq

ですから、ガリレオの望遠鏡の観測は、イエズス会士の天文学者たちも刺激を受けます。例えば、クリストフ・シャイナーも望遠鏡を作成して観測し、ガリレオと独自に黒点の移動に気が付き、どちらが最初に発見したかで論争になってます。

2022-07-09 09:45:02
QmQ @gejiqmq

彼がローマ大学を訪問したときは、大歓迎をうけました。ですが、このつまらない論争が、ガリレオとイエズス会の天文学者たちの関係をより親密にしなかったことは明らかだとおもいます。

2022-07-09 09:48:07
QmQ @gejiqmq

ガリレオは、非常に能弁でした。彼の著作はコペルニクスの数理天文学書とは違って、より広い聴取に訴えました。また、論調はより論争的で、証拠から淡々と積み上げるというより、敵の欠点をグリグリと突くものでありました。しかも、達筆だからよんで面白い。

2022-07-09 09:50:28
QmQ @gejiqmq

しかし、この議論の立て方が、論争の相手側に良い印象を与えたはずはない。どうも教会の空気がおかしい、ということを聞いたガリレオはローマを訪れるのですが、彼はあらゆるところに出向き、論敵を論破しまくります。

2022-07-09 09:52:46
QmQ @gejiqmq

客観的に見ると、ガリレオ当時の証拠では、地動説は到底良く実証されたとはいえませんでした。それでも論敵をねじ伏せたのだから、これはかなりの能弁だったのでしょうが、同時に負けた方も納得いかんでしょう。だって、客観的にはまだどっちも正しい可能性があったのだから。

2022-07-09 09:54:56
QmQ @gejiqmq

また、素人なのにも関わらず、聖書の字句の解釈にもコメントし、伝統的な解釈に難癖をつけたのは、その筋の専門家に良い印象はなかったでしょう。Lindberg曰く、「もう少し上手くやっていれば、あんなことにならずに、かつ地動説のメリットを宣伝できただろう」

2022-07-09 09:58:12
QmQ @gejiqmq

ガリレオの裁判の結果、コペルニクス説は教義に反するとされてしまいます。デカルトも宇宙論を含む著作を一度取りやめたくらいの影響はありました。しかし、もう1630ですから、ケプラーもバリバリと仕事をだしまくっていましたし、そうそう流れは変わらなかったと思われます。

2022-07-09 10:03:25
QmQ @gejiqmq

ガリレオも、蟄居ではあるけど、非人道的な刑罰などがあったわけでもないです。それから、1650前後に活発に活動したイスマエル・ブリオという、ケプラー流の理論を推進した天文学者がパリにいましたが、教会で職を得ています。

2022-07-09 10:05:41
QmQ @gejiqmq

なので、魔女狩りみたいな地動説狩りのようなことは、まず考えられないですね。。。

2022-07-09 10:06:22
QmQ @gejiqmq

なお、「チ。」に限らずプトレマイオスとアリストテレスとカトリック教会は同じ穴のムジナと扱われて丸ごと叩かれることが多いとおもいますが、アリストテレスを素直に読むと、聖書の奇跡も、天地の創造も、また最後の審判も否定されてしまいますから。

2022-07-09 10:10:18
QmQ @gejiqmq

ですから、12世紀にはアリストテレス自然学は何度も禁令がでてますし、ガリレオ当時もクレモニーニへの圧迫もありました。

2022-07-09 10:11:54
QmQ @gejiqmq

また、コペルニクスには、最後のアリストテレス主義者という側面があります。プトレマイオスは、円運動は用いますが、等速円運動だと具合がわるいので、回転速度を変化させる「エカント」という仕組みを導入します。これはしかし、アリストテレスの自然学からは禁じ手なのですが

2022-07-09 10:14:06
QmQ @gejiqmq

中世に置いて、この両者のギャップはしばしばクローズアップされて、例えばヨーロッパでも広く読まれたアヴェロエスという注釈家は、今の天文学は真の天文学ではない!などと言い、同じ頃、アリストテレスの自然学と合致したモデルの追求が始まります。

2022-07-09 10:16:59
QmQ @gejiqmq

コペルニクスの理論は、まさにこの「エカント」を等速円運動に変えるということを成し遂げた理論で、彼自身もそれを大きなセールスポイントとしていました。コペルニクス理論に基づいた、『プロイセン表』を作成したラインホルトは、地動説には関心がなく、こちらのメリットにひかれたのでした

2022-07-09 10:19:37
QmQ @gejiqmq

コペルニクスの理論は、プトレマイオスの理論の座標変換なのですが、当時は座標の考え方もベクトルもないし、数学の枠組みが今とは全然ちがいました。エカントのままでは、この変換はほとんど無理だったんじゃないでしょうか。

2022-07-09 10:21:59
QmQ @gejiqmq

という具合なので、プトレマイオスとアリストテレスを一緒くたにすると、コペルニクスが何をやったか全然わからなくなるし、またアリストテレス主義とユダヤ教系の宗教のギャップを忘れると、両者の調整の中から生じたあれこれも、全く視野に入らなくなります。

2022-07-09 10:27:22
QmQ @gejiqmq

そして、宗教と科学の関係は、今は残念ながら、わかりやすいストーリーですぱっと説明するのは難しいようで。 「科学」、「宗教」という抽象的な何かが直接相互作用するわけではありませんし。。。

2022-07-09 10:30:11