- MonokuroMsk
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猛暑や台風とは無縁な海の底。 いつの間にか8月のカレンダーの殆どがバツ印で埋まっており、夏の終わりが近づいていた。
2022-09-03 21:08:13海に来て何度目かの公演日だが、最終日である今日は特別な客人が来るというので、朝からサーカス中がソワソワしていた。 座長はいつにも増して張り切っており、イダも早朝から忙しそうに泳ぎ回っている。
2022-09-03 21:08:39ニット帽を目深に被った彼───ヴォルフガングは口の中で飴玉を転がしながらぼんやりと前方を見つめていた。 海流に流されないよう、尾っぽで近くのポールにしっかりと掴まって。
2022-09-03 21:11:04その横にはからくりと星凛が、同じように遥か遠くをじっと見つめている。 三人並んだまま、かれこれ30分はこうして立っていた。
2022-09-03 21:11:48「……お前ら、誰か待ってんのか?」 ボソリと、ヴォルフガングが沈黙を破り2人に尋ねる。 「うん」 「洞窟で出会ったお友達を招待したの」 視線は真っ直ぐ前方を向いたまま、小さな2人が答える。
2022-09-03 21:12:12「にいちゃんも誰か呼んだのか?」 「いや……別に呼んだ訳じゃねぇけど……」 ヴォルフガングはからくりの問いかけに少々歯切れ悪く答えながら、ポリポリと後頭部を掻く。
2022-09-03 21:13:02「……でもよ、開演って17時からだろ?いくらなんでも早すぎるんじゃねぇか…?」 今は無人のチケットブースを覗き、中に設置されている時計を見ると、まだ14時になったばかりであった。
2022-09-03 21:13:24ずっと前方を見ていた星凛が漸くヴォルフガングに視線を移す。 「そうだけど、待ち切れないんだもの!今日の為にお客さんを迎える練習をからくりくんとずっとしていたのよ!」
2022-09-03 21:14:11からくりの肩に手を置いて、興奮気味に話す彼女の動きに合わせて、頭の電球が楽しげに揺れる。 からくりは自らの手を組み、少し赤くなりながらもコクコクと頷いて彼女の言葉に賛同する。
2022-09-03 21:14:35「イカのにいちゃん、迷子になってないといいんだけど…」 「大丈夫よ!サーカスの虹はとっても大きいんだもの!遠くからでもちゃんと目印になるわ!」
2022-09-03 21:15:192人のやり取りを聞きながら、ヴォルフガングは親指でニット帽を少し捲り上げると頭上の虹を見上げる。 「……確かに、あの森からでも見えたもんな…」
2022-09-03 21:15:44