- MonokuroMsk
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「座長っ、座長…!起きてくれ、目を開けてくれ…っ!」 呼びかけるイダの声が悲痛になっていく。 突然の事態に舞台袖で控えていた団員たちも次々と集まり、口々に声を上げる。
2022-09-04 21:12:38「何があったの?一体どうしたのよ座長ちゃん…」 「ざちょさん…すぐ起きますよね?ノワール…」 「それは…、俺にも分からないよ…」
2022-09-04 21:13:07よく考えればこの2ヶ月、座長は虹を使い通しであった。 「能力の配分に慣れたから大丈夫だ」と本人が豪語していたものの、優しすぎる彼の事だ。 イダが知らない所でも虹を使っていたのだろう。
2022-09-04 21:14:43もっと注意しておくべきだった、自分は何年彼の隣に居るんだと奥歯を噛み締める。 しかし、自分を責めている暇など無かった。
2022-09-04 21:15:31「っ!…みんな!体に異常は無いか!?息が苦しかったり尾鰭の感覚がおかしい者は!?」 イダはすぐさま団員たちに声をかけた。 皆は顔を見合わせたり、互いの尾鰭や触手を確認し合う。
2022-09-04 21:15:58その反応からして今のところ異常は無いようだが、夏の始めにかけた虹の力が弱まっているとすれば、いつ誰が座長と同じ状態になってもおかしくない。
2022-09-04 21:16:40此処は海の底。取り返しのつかないことになってしまう。 イダは不安げにどよめく彼らを見回すと、未だ目を覚さない座長に視線を移す。 考えている余地なんて無い。
2022-09-04 21:17:04「……、…すぐに海から上がらないと…」 苦し紛れに告げられたイダの言葉に皆が絶句する。 か細い声で唇を震わせながらヴェールが尋ねる。 「そ、そんな…ショーは、どうなっちゃうんですか…?」 「中止するしかない……このままでは全員の命に関わる。」
2022-09-04 21:18:04その答えを聞くと、ヴェールはその場に崩れ落ち、顔を覆って啜り泣いた。 色々とショックな出来事が続いて堪え切れなくなったのだろう。
2022-09-04 21:18:30王子は神妙な面持ちでゆっくりと近づくと、座長を一瞥して尋ねた。 「なぁ。ソイツ、虹使いなんやろ」 「!何故それを…」
2022-09-04 21:20:55「俺見たんよ。 ソイツが倒れる直前、うっすら開いてた目が虹色になって…」 彼がオペラグラス越しで見たのは、七色にチカチカと煌めく座長の瞳であった。
2022-09-04 21:21:20イダは検査用の小さなライトを取り出すと、座長の瞼を開けさせ光を当てた。 瞳孔に反応は無いが、チカチカと七色の光が瞬いている。 呼吸が止まっても尚、無意識下で力を使い続けているというのか。
2022-09-04 21:21:57「一体どうして……」 こんな事は今までに無かった為、イダは困惑する。 ……不意に、膝をついていた彼の尾鰭が明るい光を放つ。 白銀の鱗が淡い虹色に煌めいていた。 「これは…!」
2022-09-04 21:23:04イダが顔を上げると、皆の尾鰭も同じように淡い七色に輝いていた。 驚くのも束の間、七色の光は徐々に薄くなっていき、彼らの体へ溶け込むように消えていく。 座長から虹の魔法を施された者には、見覚えのある現象だろう。
2022-09-04 21:24:07座長は意識を手放す直前、自分の状態を悟り、咄嗟に虹の力をサーカスの団員たちに分散させたのだ。 自分に何かあったとしても、皆にかけた人魚化の魔法だけは解けないように。
2022-09-04 21:25:15「でも座長さんは?このままじゃ危ないんでしょ…?」 シエラがイダの服の袖を掴んで不安げに尋ねる。 彼の言う通り、座長の下半身は既に膝あたりにまで分かれてしまっていた。
2022-09-04 21:25:42