- MonokuroMsk
- 939
- 0
- 0
- 0
「どうやって……、」 王子と目が合った時、イダは言葉を詰まらせた。 彼の青い瞳に座長と同じような七色の光がチカリと瞬いたのだ。 「…!」
2022-09-04 21:26:42「アイーダが言ってた!王子様の鱗にはなんでも治す力があるんでしょ?!」 「それだけやない」 「…というと?」 無意識にエリを追う形でのそのそ近付いたゾロが、怪訝そうに続きを促す。 「……歌や。」
2022-09-04 21:28:06「人魚の歌声には、元々人間の心臓を止める力がある」 「!?」 衝撃の発言に一同がざわめく中、アリスが何かを思い出した様子でハッと息を呑む。
2022-09-04 21:28:44「聞いた事があります…! その昔、人間の乱獲から逃れる為に得た人魚だけが使える異能…。 子どもの頃に祖母が話してくれました」
2022-09-04 21:29:32「あぁ。けど俺の声だけは違うんよ。 俺の歌にはソイツの虹とおんなじ力がある。彼女が…俺にこの力を分けてくれた人が言うとった。 "願いを歌に乗せれば、なんだって叶う。 できない事は無い"って」 そう話しながら自らの喉元に手を添える王子を、イダはじっと見つめていた。
2022-09-04 21:30:24「要するに…今座長を助けられるのは王子様だけってことですか?」 ゾロの問いかけに王子は再度頷く。 「そういう事になる」
2022-09-04 21:31:00「俺からも頼むよ!このまま座長さんだけお陀仏とか洒落になんねぇだろ!」 いつに無く真剣な表情で、ナルも妹に続く。
2022-09-04 21:32:51「俺もハナからそのつもりや。 せやけど、俺からもアンタらに頼みがある」 目の前のナルとネルを交互に見た後、王子は全員の顔を見渡し、一度結んだ唇を再び開いた。
2022-09-04 21:33:23「初めは正直、アンタらの事よそ者や思うて警戒しとった。妙な真似したら最悪追い返すつもりやった…。 けど、アンタらが来てからの2ヶ月、民達はみんなえらい楽しそうでなぁ…そんで今日を迎えて、誰も彼もワクワクしとった。 俺も例外やない。アンタらのショーが心ん底から楽しかったわ…!」
2022-09-04 21:34:32両手を広げて笑顔で告げる王子の瞳は、僅かに揺れていた。 本音を伝えるのに慣れなくて、後から後から感情が溢れ出す。 手を下ろすとぎゅっと握り拳を震わせ、泣きそうな顔を見せたくないのか下を向く。
2022-09-04 21:35:11「…ここで中断したまま終わりなんて残念でならん。 せやから最後まで、なんとか続けてほしい…!この通りや!!」 震えそうな声を張り上げて、一国の王子が深々と頭を下げた。
2022-09-04 21:35:55そして勢いよく顔を上げると、少し赤くなった目元で座長を一瞥し、イダに向き直る。 「コイツは俺が必ず助ける。 海のみんなを……"観に来たみんな"を、 終わりまで楽しませてやってくれ…!」
2022-09-04 21:36:26「……、」 イダが何かを言う前に沈黙を破ったのは、ライカの声だ。 「イダさん!!やろうよ!座長さんだって、絶対おんなじ事言うよ!」
2022-09-04 21:37:13「そうだよ…!座長さんはきっと、僕たちに託してくれたんだよ。 今日来てくれたお客さんを、最後まで楽しませられるように!」 イダの腕に飛び付いて大きく訴えたライカに、シエラも賛同して反対側の手を握る。
2022-09-04 21:37:36「俺も、やりたいです…!」 声のする方を見れば、ブローズが自らの手をぎゅっと握って決意に満ちた眼差しを向ける。
2022-09-04 21:38:17「今日の為に練習したし、このサーカスの演者として、出来る事を精一杯やりたい…!!」 「ブローズ兄さん…!」 キラキラとした視線を送るライカにブローズは力強く頷く。
2022-09-04 21:38:35「盛り上げるのは得意だYO!ね!ソリッドちゃん!」 「ええ!演出ならボクたちにお任せください!」 自信満々に親指を立てるビートのスマホの中で、ソリッドが自らの胸元をポンっと叩く。
2022-09-04 21:39:20「やりましょうよイダさん。俺達も協力します。」 「座長の頑張りをしっかり引き継がねェとなぁ。だろ?」 既に出入り口のドアを開けているキュリオと、そこに腕を組んでもたれているルージュが頼もしく笑う。
2022-09-04 21:39:45イダがグルリと見渡せば、この空間にいる皆が、目をチカチカと輝かせて彼を見つめ返した。 疑いようの無い満場一致であった。 「……そうだな。やろう…! みんな、持ち場についてくれ!」
2022-09-04 21:40:41