シールテープの巻き方について

れい(猫耳の専門家)さん( @rei_software )によるねじの歴史から紐解くシールテープのおはなし
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

このシールテープの巻き方について、時間を見つけて語っておこう。 結論からいうと。 この巻き方は「間違い」。 が、こういう巻き方が正しいと思い込んでしまう技術的事情があり、現代でもこれでないと止まらないケースがある。 それは歴史的事情がある。 続く。 twitter.com/drafter_san/st…

2022-09-29 08:35:31
ドラフター@機械設計者 @drafter_san

継手へのシールテープ巻き方の解説だが僕は✕のやり方をしていた。それで全く問題ないと思っているが皆さんどう思いますか? 動画のコメントを見ると、 ・そんなに複雑にする必要ないだろ ・同じ効果なのに仕事時間が長くなるだけ のような批判的コメントが多数 pic.twitter.com/tlQQi23auf

2022-09-25 10:32:14
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

継手の止め方を語るためには、まずパイプの歴史を…と言いたいところだが、これは古すぎて(俺には)わからない。文字を発明するころには木製や石製、あるいは金属製のパイプが存在していた。 これらはただ組み合わせるだけだったり、テーパーにして押し込んだり、あるいは膠など接着剤で接合していた。

2022-09-29 08:40:52
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

これらは当然一品もので、その場で施工していた。 有名なローマの水道もそう。なので敷設は莫大なコストがかかった。 ローマの水道が衰退した一因はコレ。 まともに使える近代的な「パイプ」あるいは「継手」が登場するのは産業革命以降、19世紀にならないといけない。

2022-09-29 08:48:03
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

いまでは差し込むだけの「差込み継手」もあるが。 近代的な継手は「ねじ込み継手」から。 (それ以前にも継手はあったが規格等はなくただのスリーブ的な物) なので、「ネジ」の近代化が大切だった。 ネジの近代化はイギリスのモーズリーさんから始まる。 ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98…

2022-09-29 08:52:21
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

モーズリーさんが1800年に「ねじ切り旋盤」を発明する。 これ以前にもネジはあったが、職人の手作りレベルで、ボルトとナットは一つ一つ噛み合うように作られていた。 ナットを無くすともうボルトは捨てるしかない状態。 この発明のおかげで、一つのボルトにあうナットが二つ以上作れるようになった。

2022-09-29 08:55:31
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

おかげで、イギリス中でどんどん色々な種類のネジが作られた。でも規格はなく、バラバラ。 めっちゃ不便。 そこで、モーズリーさんの弟子、ホイットワース(ウィットワース)さんが1941年に「統一したらいいんじゃね?」って論文を出す。 ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8…

2022-09-29 08:58:17
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

当時はまだどんなネジがいいのかわかってなくて、ネジ山が細かすぎたり、浅かったり、粗かったり、みな手探りだった。 ウィットワースは沢山ネジを集めて、平均的なネジを統一規格にすることを提唱した。 論文はここで読める。 en.wikisource.org/wiki/Miscellan…

2022-09-29 09:00:44
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

ネジ山のピッチと直径の関係を表にして。 ネジ山の角度は55度(なんて中途半端!) ネジ山の山と谷は1/6の高さで丸める。 これが現代でもまだ残ってる「ウィットネジ」の始まり。 というわけでとりあえずここでタイムアップ。 続きはまた後で。

2022-09-29 09:03:04
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

ウィットネジはこんな形をしてる。 ネジの山と谷が丸いのが重要。 で、オネジとメネジの断面図は同じ形。(図で、下がオネジ、上がメネジ) で、これが普及して、イギリスの標準のBritish Standard Whitworth(BSW)となる。 en.wikipedia.org/wiki/British_S… pic.twitter.com/cwIDfjftRg

2022-09-30 08:29:58
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

このネジは優秀だったので、このネジをパイプの接続に使い始めるようになる。 パイプ用なので、ネジ山を低く、でも工具を流用したいので同じネジ山に。 水が漏れないようにテーパーにする工夫もした。 こうしてできたのがBritish Standard Pipeで、 テーパーがついたBSPTとついてないBSPPがある。

2022-09-30 08:37:00
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

で、これが世界に普及し、日本にも広がり、 旧JIS 管用ネジ(PT/PF)→ISO/JIS 管用ネジ(R/Rc/Rp/G) となる。 その間、精度等細かい所は変わったが、形状は変わってない。ウィットネジのまま。 呼び方もネジのピッチも高さもインチ基準だし、ネジ山も丸い。 日本の水道管はみんなウィットネジの子孫。

2022-09-30 08:43:23
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

1枚目が旧JISにあったウィットネジ。 2枚目が今もある管用ネジ。 ぴったり同じ形なのが分かると思う。 旧JISのウィットネジのメネジの頭が丸い理由はまた後で。 pic.twitter.com/R7px0BvsXL

2022-09-30 08:47:55
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

このウィットネジ仕様の管用ネジ(BSP)、 ネジ山が丸いのでちょっと手間がかかったが、 パイプ用途としては最適で性能が高かった。 ねじ込むだけでも当時としては十分な性能が出た。 更に高い気密性が欲しければ、膠や粘土、油なんかを塗って使っていた。

2022-09-30 16:42:41
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

1960年代くらいからはテフロンのシールテープが使われるようになる。 このテープ、「こう巻かねばならない」というのは決まってないが、BSPに使うシールテープの規格がEN 751で、テープの試験用の「巻き方」が載ってる。 この巻き方なら漏れないことが保証されてるので、 まぁ「正しい巻き方」と言える pic.twitter.com/XSXgH0YOeE

2022-09-30 16:44:10
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

・オネジの根本から ・締めたときに緩まない方向で ・半分重なるように ・引っ張りながら巻く ・巻き終わりは引きちぎる ・メネジを締めたら余ったテープは切る こんな感じ。 テープのテストのための物なので、ネットにある「正しい巻き方」とは違うところもある。

2022-09-30 16:48:57
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

半分重なるように巻く。つまり、テフロンテープは「2重」になってるだけ。 これは山の丸いウィットネジだから。 上に書いたように、日本の管用ネジでも同じ。 本来、2重になるように巻くだけでいい。 世界の管用ネジが全てこのBSPだけだったなら、 元ツイの「変な巻き方」は必要なかった。 ところが

2022-09-30 16:55:18
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

ウィットネジは「丸い」ので作るのに手間がかかった。 産業革命から時間が経って、熟練したイギリスでは良いが、技術レベルが低いアメリカでは困難だった。 なのに大陸が広くて成長著しく、ネジに高い需要があった。 で、「丸い山、たいらでもよくね?」と手を抜き始める。

2022-09-30 17:08:41
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

さらに「55度は難しいから60度でいいや」と、各工場・工員がどんどん手抜きをする。 それでもなんとかなった。 アメリカ全土に鉄道を通し、電話網を作った。 というか、なんとかならない「手抜き」は淘汰された。

2022-09-30 17:17:28
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

で、そうやってうまくいった例を調べ、 セラーズさんが「イギリスとは違うアメリカ用のネジ」を提案する。 これが「セラーズネジ」 en.wikipedia.org/wiki/William_S…

2022-09-30 17:21:34
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

セラーズネジはこんな感じ。 ・ネジ山の頂と底は高さの1/8を切って平らに。 ・ネジ山の角度は60度。 セラーズの提言はここ。 Journal of the Franklin Institute, volume 47, page 344 (May 1864). pic.twitter.com/ag7wknnC7V

2022-09-30 17:42:54
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

で、アメリカでは以降このセラーズネジが普及し、これをベースに少しずつ改良して今のインチネジにつながる。滅ぼしたい。 なのでアメリカのネジの起源と言われてる。滅ぼしたい。 でも、実はこのセラーズネジより前にアメリカでは別の規格のパイプネジが普及してしまっていた。

2022-09-30 17:50:07
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

それがBriggsネジ(Briggs Pipe Thread)。 パイプの太さであるBriggs Pipe Sizeと合わせてBriggsさんの会社の規格だった。 ・ネジ山の頂と底は高さの1/10を切って平らに。 ・ネジ山の角度は60度。 なのでセラーズネジとそっくり。 pic.twitter.com/762XC4PmTh

2022-09-30 17:55:40
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

で、これがパイプサイズと共にアメリカ中でデファクトスタンダードになり、アメリカ「管用ネジ」の規格、「National Pipe Thread(NPT)」になる。 年号を忘れてた。 Briggsネジ策定が1862年。 Sellersネジ提唱が1864年。 NPT制定が1919年。 上に出たBPSは1882年。

2022-09-30 18:00:19
れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

このNPTネジがなかなか厄介で。 出来や相性があって、かなり漏れやすい。ちょっと漏れる、とかではなく、かなり漏れる。 なぜかというと、図を見てほしい。 ネジが平らなせいで、らせん状に空間ができてしまう。 これをspiral leakという。 これじゃ使えない、と思うんだが、そこは流石のアメリカ。 pic.twitter.com/xkJvbafDYn

2022-09-30 20:05:35
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れい(猫耳の専門家)🍥 @rei_software

彼らは「その辺の枯れ草」や「ボロ布」「ほつれた麻縄」等をオネジに巻き付けて脂で固め、その上からメネジをねじ込んで使った。 その「ゴミ」達が上の図の隙間を埋め、spiral leakを防いだ。 なんの問題もない… これがアメリカの開拓魂( これなGraet America!

2022-09-30 20:31:48