【寺田さんのこと】福間健二 #k2fact345

福間健二 @acasaazul

夜が来る。侮辱、屈辱、波のように来て行ってしまった。青いケースには入らない十月だが、つらい。つめたい滴と言いたいことがまだあるから、つらい。でも、老いた男たち、降りる駅はまちがえなかった男たち、作曲家でも画家でもないことがとくに残念でもないのだ。（寺田さんのこと１）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

旋転する、どういうことかというとクルクル回るのだが、急な寒さのなかで握られる権力がそうだと正しい日程なんかない。でも、身を隠して歌う人は区切りをまちがえないし、忘れてもいない。一昨日がだれの命日だったか。去らなくてはならない町。また来ることになる。（寺田さんのこと２）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

これはどういうことかわからない。やがて監禁される。そんなメモをあちこちにおいて消えた人のことを思いながら、生ゴミとカラスの日の、朝八時すぎ。登校する中学生を見ている。男子も女子もおなじブレザー。ズボンの女子もひとりいた。簡単には滅亡しない国にいる。（寺田さんのこと３）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

書いてあっただろう。母、弟、馬のこと。苦労したころの、雑誌を見て修理した白黒テレビと柔らかい肌のこと。センテンスで区切られて鈍感な、低音の地域をまわり、自分の意志でした甦生。ちょっとしたツマミとか、上手だよね。二人の老人が寺田さんのことを話している。（寺田さんのこと４）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

目を閉じると来ている対角線にとまどう弟たちの、子守唄の小道。わかろうとはしたのだろうが、どこだったのか。流動、暗くて、当てずっぽうに電車とバスを乗りついだ。親切にしてもらったら感謝はする。お茶を飲み、ジョークに崩れ、影を重ねる。そして消息を絶った。（寺田さんのこと５）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

だれの人生なのか。いくつもの死の先で拾ったもの、それをポケットに。金色に変わることなどないけど。寺田さんは言った。自分のペース、自分のゆっくりをとりかえしてからだ。よくできたはずの、多面的機能をもつ目が片方おかしくなっている、そんな機械への同情も。（寺田さんのこと６）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

被害と加害の線が交錯する庭で育ったなつめの実。それをカウンターにおいて、待つ相手はミオじゃない。ミオナでもない。一緒に動ける人がいるといいけど、何がおこっても大丈夫なように身軽に、と思えば地図にはない道のさびしさだ。山の見える場所で息をととのえる。（寺田さんのこと７）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

どの国のとか言ったって意味のない音楽。ソウルの領分。いくつか欠けた角はあっても無風の縮図によみがえる記憶。いいこと、わるいこと。待って、どっちでもないことにいい香りがして、死に抱きしめられた夜を忘れない寺田さんが来た。彼のことをまだよく知らない。（寺田さんのこと８）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

なくなった角を曲がる。じゃあ、いない人も連れていきなさい。過去の罪をつぐないたい。じゃあ、いまは朝ってことね。おしり、やさしく触ったからいいってわけじゃない。失敗作のこの世界も、よけいなものを省いて少しはきれいにする。よけいなもの、だれが決めるの？（寺田さんのこと９）#k2fact345

福間健二 @acasaazul

世の人情の姿をながめる。老人だからではなく、時勢に反発してではなく、ただふと思い出した言い方。菊岡さんの詩にあったかな。毎週水曜日の午後、寺田さんは「日本のこと」を留学生たちと話す。教えない。聞いて語って聞くだけ。その前後にたいてい三日月書店に寄る。（寺田さんのこと10）#k2fact345