書評家・杉江松恋氏が増田俊也「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を評す

書評家やトークイベントの司会者で知られる杉江松恋氏@from41tohomania が、ゴング格闘技@GONG_KAKUTOGI に長く連載され、このほど単行本にまとめられた増田俊也@MasudaToshinar 「木村様さ彦はなぜ力道山を殺さなかったか」を評す。同氏はtwitter以外でもhttp://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20111003/E1317570668105.html で長文の書評を書いています。
13
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

結局、徹夜で増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか?』(新潮社)を読んでしまった。上下2段組、700ページ。おそろしいほどにおもしろい本だ。2800円はちっとも惜しくない。巻を閉じた瞬間に記憶に残った箇所を読み返したくなった。いつまでも再読に耐える名著。

2011-10-02 10:27:39
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

明治の柔道の鬼、牛島辰熊は天覧試合での優勝を二度逃す。自らの肉体の衰えを知り、同郷・熊本の柔道少年・木村政彦を後継者として育成し、天覧試合優勝の夢を託す。貧困な家庭に育った木村は、家業の砂利すくいを手伝うことで頑強な身体を作っていた。

2011-10-02 10:30:02
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

上京し、拓殖大学に入学した木村が牛島との二人三脚で「鬼」となっていく過程が凄まじい。衰えたりとはいえど牛島は強く、特に高専柔道で培った寝技は超人級だ。二人は畳の上を転げまわって極めあい、縁側から庭に落ちたとしても相手を掴んで離さなかったという。

2011-10-02 10:33:22
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

木村はやはり天才肌の阿部謙四郎に敗れる。昭和十一年のことである。しかしそこから奮起し、以来戦後に至るまで一度たりとも負けていない。その驚異的な記録の陰には、余人には計り知れない努力があった。庭の立木に連日打ち込みを重ね、ついにはその木を枯らしてしまったほどである。

2011-10-02 10:37:42
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

木村は「だます柔道」の排斥を考える。相手の挙動の隙をつくことに頼る技には限界がある。相手がどのような態勢でも技を仕掛け、決められねばならない。練習の結果、木村の大外刈りは文字通り必殺の武器と化した。ライバルたちは木村が大外の態勢に入ると、怖れてしゃがみこむほどだった。

2011-10-02 10:39:47
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

昭和十二年に全日本選士権で初優勝を果たしたとき木村は恐ろしい決意をした。人の倍稽古するだけでは「絶対」の境地にはたどり着けない。三倍努力が必要である。木村は一日九時間以上の練習を自分に課す。乱取りだけで九時間。さらにウエイトや立木への打ち込み。睡眠時間は三時間そこそこだった。

2011-10-02 10:43:35
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

昭和十六年に徴兵されるまで当然無敗。しかし木村は二十代の貴重な時間を戦争によって奪われる。やっと戦争が終わったとき、GHQの支配によって日本の柔道界は大きく様変わりをしていた。講道館が支配する柔道界において傍流である牛島直系の木村の居場所はなかった。

2011-10-02 10:45:46
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

師に絶対服従であった木村は、牛島が興したプロ柔道に参戦するが、やがて日本を捨てて海外に雄飛する。北米でプロレス興行に参戦した後、ブラジルから招聘された。前田光世の流れを汲むブラジリアン柔術に日系人たちは苦戦していた。打ちのめされた日系人たちには英雄が必要だったのだ。

2011-10-02 10:49:20
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

現地入りした木村は、紆余曲折を経てついにエリオ・グレイシーと闘うことになる。決戦はマラカニアンスタジアム。その前年、ブラジルがW杯初優勝を逃す「マラカニアンの悲劇」の舞台となった場所だ。エリオは前年のその衝撃までも背負って木村と対峙した。双方にとって絶対に負けられない試合だった。

2011-10-02 10:52:36
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

1951年10月23日。ついに決戦の日。木村は立ち技でエリオを翻弄し、寝技でもさらに圧倒した。実力の差は歴然であり、ヘッドロックでエリオの耳から血が噴いたときには、腕の力を緩めて「大丈夫か」と囁く余裕すらあった。2R3分20秒、必殺の腕がらみでエリオの腕を折り勝利。

2011-10-02 10:55:59
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

グレイシー一族はこの敗戦を最大の屈辱と受け止め、同時にばねとした。腕がらみをキムラロックと名づけ、木村の強さを讃えた。第一回UFJ大会をホイス・グレイシーが制した際、彼はこう発言した。「マサヒコ・キムラは我々にとって特別な存在です」だがその七ヶ月前に木村はこの世を去っていた。

2011-10-02 11:00:50
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

連続RT失礼。少しでも本の迫力が伝われば幸いである。おそろしいことに今のツイート分でようやく内容の半分。ここからさらに木村の人生は怒涛の展開を見せ始める。気になる方は本を読んでもらうしかない。

2011-10-02 11:03:03
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

午前十一時。書店は開いた。走れ。今日一日どんな予定があろうと問題ではない。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』を読むより大事な用など今日はない。これは読まなければいけない本なのだ。

2011-10-02 11:05:36
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

もう一度書きますが『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかった』(新潮社)は大傑作です。格闘技に関心の無い方も読み逃してはいけない。ツイートだけでは書ききれない魅力については、後日きちんと書評として発表します。

2011-10-02 11:15:42
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

今気づいたけど発売日に本を買ったのに同日版元から献本が届いていた。全然後悔しないよ! これは二倍金を払っても惜しくない本だ。私は本を読みながら町道場に入門して柔道を始めたくなった。日本の柔道界はこの本を10万冊購入して全国の学校図書館に寄付すべきだ。一気に競技人口が増えるぜ。

2011-10-02 11:17:46
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

買うしかないでしょう。なぜならば一度読んだだけでは飽き足らず、絶対に再読したくなるからです。手元に置いておきたくなる本だ。 RT @JinSakuramaru 杉江松恋さんのツイート。やっぱ買うのか、『木村政彦はなぜ力道山 を殺さなかったか?』(新潮社) .

2011-10-02 11:21:29
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

原稿書いた! もちろんアレ! 明日公開みたいなのでお楽しみに。

2011-10-02 23:27:14
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

私も徹夜で読みきって、一日この本の持つ意味をずっと考えていました。いつかお会いしたときにでもお話したいです。@s_hakase 旅先で増田俊也著『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)が面白くて眠れない……。しかし、読んでも読んでもまだまだ読み終わらない。

2011-10-03 02:00:54
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

みなさん、違うんだよ。力道山とのことは本当はどうでもいいんだ。問題はあれほどの強さを誇る木村七段が、なぜ負ける試合の場に臨まなければいけなかったかということであり、そして戦後37年をかけてその意味を咀嚼したかということなんだ。

2011-10-03 02:04:48
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

プロレスは結末の決まっているショーだ。その中ではアクシデントだっていくらでもある。でもなぜ、木村政彦七段の試合だけが後々まで語られる因縁として残ったか。そこを考えてほしい。そうしたら絶対にアングルの話にはならないはずだ。人間の話になるはずだ。

2011-10-03 02:06:05
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

私もいろいろな格闘技関係の本を読んできた。しかしここまで切ない気持ちになったのは初めてだ。なぜ切ないか。増田俊也の紹介する木村政彦が魅力的で、抗えないからだ。そんな人が愚かな試合に出てなぜ負けたかとみんなが思う。その思考が欲しくて増田さんはこの本を書いたんだ。

2011-10-03 02:08:14
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

人にはどうしてもその場に出なければならないときがある。言い訳無用の舞台というものがある。そこに出てしまった人が木村政彦だ。その「出てしまった」行為を責めたいのではない。出なければならなかった哀しみを増田さんは言いたいんだ。自分で背負うのが辛いんだ。だからみんなと背負いたいんだよ。

2011-10-03 02:09:44
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

私は本を読んで背負う気持ちになった。背負わなければいけないという気持ちになった。そんな本が他にあるか。現存しない人、伝説上の人、そういう人の気持ちを背負って生きていこうという感情が起き上がってくる本。そんな本は他にないじゃないか。だからこそ私はこの本を必読だと断言するんだ。

2011-10-03 02:11:20
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか。』を読み終わって、木村七段のことを木村と呼び捨てに出来る人間がいるとは思えない。誰もが木村さんと敬称をつけて呼びたくなるはずだ。そういうことなんだ。みんなに慕われる巨人であっても、時に運命の悪戯で卑小な役割を背負うことになる。

2011-10-03 02:13:18