男は暫く七色の煌めきを眺めていたが、ふと面白いことを思いついたように口角を上げた。 程なくして、背後の扉が開く。
2022-10-28 21:03:16男にそう声を掛けたのは、長い髪を一つに束ねた青年。 ニコリともしていない表情は冷たい印象を受けるが、その声音は何処か嬉しそうだ。
2022-10-28 21:04:18彼の雰囲気とはミスマッチな青いリボンが、モニターの明かりを受けて歪に光沢する。 長く伸ばした髪は、途中で鈍い水色から深い赤色へと切り替わっている。 目の前に座る男への忠誠心だろうか。
2022-10-28 21:04:48「早かったなぁ」 「躾られてるんでね」 青年──ホロウは僅かに声を弾ませながら近づくと、主の前にあるモニターを見つめる。
2022-10-28 21:05:29「ちょっと、思いついてね」 主人はゆっくりと椅子を回転させ、ニコニコしながら言い放つ。 彼がこの顔をしながら思いつく事は、大抵善い事では無い。
2022-10-28 21:06:30「そろそろちゃんとご挨拶にでも伺おうと思ってな。 娘も息子もお世話になっている事だし。」 男の背後では、彼と同じ赤毛の子どもが他の子供たちと遊んでいる姿が映る。
2022-10-28 21:07:24「…あぁ、………確かに、俺も妹がかなり世話んなってるしな。 でも、ただ挨拶しに行くだけじゃねんだろ?」 「勿論だ」 そう微笑んで返すと、端のモニターに目を遣る。
2022-10-28 21:08:16そこには仮面、着ぐるみ、ガスマスクやベールなどで顔を隠した奇々怪々な者たちが武装し、時折こちらへニヤニヤと目配せをしていた。 男の言う"ご挨拶"の準備は、既に進んでいるようだ。
2022-10-28 21:08:51ホロウが壁に背を預け、くつくつと笑う。 「アイツのこと受け入れてくれるくらい"ずば抜けたお人好し"が怒ってるとことかも、見られるかもな。 ……そんで、俺は何すりゃいい?なんでも聞くぜ、ご主人」
2022-10-28 21:10:01「まず、壊れたテレビを直しに行って貰おうか。 どうやら、あのテレビ全く働かなくなってね。用済みになる前に、働いてもらおうと思って少し電波を弄らせて貰った。」
2022-10-28 21:10:50あのテレビは、ロワが義兄であるキュリオを追ってサーカスへ来た際に、男から授けられたものであった。 ロワの記憶を弄るように細工が施されていたのだが、結果的にもう被る必要が無くなった為、今ではサーカスの食堂にてテレビとしての本来の役目を担っている。
2022-10-28 21:12:08しかし、テレビに搭載されたあらゆる技術は健在であり、このモニタールームとも難なくコンタクトが取れるようだ。 今回の計画にその技術を利用するらしい。
2022-10-28 21:12:47主の話を聞いていたホロウはモニターを見上げながら、ため息混じりに口を開く。 「中身だけじゃなく、ついに外面まで使い物にならなくなったのか。絆されやがって…まぁ、あの警備なら楽勝だろうよ」
2022-10-28 21:13:18「テレビを中心に周りの電子機器を狂わせるような電波を出すようにするよ。 そこに整備員でもなんでも、理由をつけてテレビに近づいてこれを貼ってくればいい。」 男が説明しながら差し出したのは、小さな雫型のシールだ。
2022-10-28 21:13:55「貼れば、あのテレビが僕たちの攻撃拠点になるんだ。もっと中がよく見えるようにもなるし、アポ取りもできる。 やっぱり、何事にもアポイントメントは大事だろう?」 「りょーかい。……一つだけ確認したいことがあるんだがいいか?」
2022-10-28 21:15:04