翻訳タイトル(邦題)の意訳・誤訳問題を考える
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1・翻訳タイトル(邦題)の意訳・誤訳問題を考える。 まず中田耕治訳『裁くのは俺だ』。いきなりハヤカワのポケミス第一巻やね。ミッキー・スピレイン。原題は『I, the Jury』だから、「俺、陪審員」だね。裁くのは多分the Judge(裁判官)。
2022-11-22 23:27:362・ただこれ、当時の日本には陪審員制度はなかったし(今でもない。調べたら昭和3年から昭和18年まではあったみたい)、陪審員の判断を裁判官がくつがえす、ってこともめったにないと思うから、わかりやすい意訳としてしかたないね。
2022-11-22 23:28:024・つぎ、清水俊二訳『かわいい女』。原題は『The Little Sister』だから「いもうと(妹)」。「俺の妹が…」じゃなくて、妹が兄を探す話ですからね。どうも中田耕治と比べると清水俊二の訳はノリと勢いで、ちゃんと原文読んでんのか、と思うことがちょくちょくある。
2022-11-22 23:29:145・ただ、当時の出版事情とか英米の俗語に関する日本人の知識とかを考えると仕方ないかな。『長いお別れ』のhousebroken(犬猫の下のしつけ)を半世紀にわたって誤訳のまま重版し続けていたのは訳者ではなく早川書房の責任じゃないかと思う。
2022-11-22 23:29:356・このレベルの意訳は許容できるものとして、気になるのはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズものやね。『緋色の研究』( A Study in Scarlet)が本当は『緋色の習作』だってことはだいぶ定着しつつあるけど、問題は短編「まだらの紐」(The Adventure of the Speckled Band)。
2022-11-22 23:30:127・これは殺されたと思われる女性のダイイング・メッセージが「speckled band」だったのに由来しています。翻訳ではもう、bandがほぼ何なのかほぼ推定はできちゃうんですけど、実はこの事件がおきた当時、現場の周りにはa band of gypsys(ジプシー集団)というものがいて、
2022-11-22 23:30:478・英語圏の人は「band」が二重の意味に解釈できる、という仕掛けがあります。しかしねえ、そんなの日本語に訳すのは無理だよ。「まだらのひ…」にして、一字ごまかすとか。しかしBand of Gypsysといえばジミ・ヘンドリックスのバンドとして有名なんだけど、起源ってこれなのかね。
2022-11-22 23:31:059・ぐしゃぐしゃなのがジュール・ヴェルヌ『海底2万リーグ』(Vingt mille lieues sous les mers)。ディズニー映画にもなったんだけど、映画の英語タイトルはちゃんと『Twenty Thousand Leagues Under the Sea』で、フランス語のリュー≒英語のリーグで、1リューは4キロ(1里)。
2022-11-22 23:31:3710・1マイルは競馬の場合1.6キロだから、1リューは2.5マイルか。海底5万マイル。ややこしくしてるのは日本語文化圏で、なぜか『海底2万マイル』という邦題になって、東京ディズニーシーのアトラクション名にもなっている(英語表記はちゃんと「リーグ」です)。小さい子は中学生になって気がつく。
2022-11-22 23:32:3011・もうひとつ、ディズニー映画でややこしいのはアニメ映画『ピーター・パン』の中に出てくるティンカーベル。あの子は日本語では「妖精」という漠然とした存在になってるけど、フェアリー(fairy)じゃなくてピクシー(pixie)なのね。
2022-11-22 23:33:0512・どこが違うかというと、アニメの中ではものづくり系(工学系)として語られてるのに対し、フェアリーは理系っぽいのね。こつこつものづくりをしても、どうも下に見られているというか。振りまく粉もpixie dustで、住んでるところもpixie hollowなのに。
2022-11-22 23:33:3413・日本語ではいずれも「妖精の粉」「妖精の谷」になってたかな(hollowは谷というよりは窪地ぐらいな感じ)。ここらへんのものは、ドワーフとトロールの区別もしないで「こびと」にしてるのと似たようなものです。
2022-11-22 23:34:0314・アニメ会社の「ピクサー(Pixar)」という名称とピクシーとの関係は、ピクト人(Picts。古代スコットランドにいた民族)と複雑にからめあっているので略。
2022-11-22 23:34:23