古屋美登里さんによる倉橋由美子の引用ツイートまとめ

10月10日、倉橋由美子の誕生日に倉橋文学のもっともよき理解者である古屋美登里さんがツイートしたものをまとめました。
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古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

それは人間がそれだけ横着になったというだけのことだろうか。あるいはくたびれたということなのか。しかしこのくたびれるということは結婚生活にではなくて生きることにであると見る方が正しくて、そういう人は一人で生きていればもっとくたびれるのではないだろうか。(続く)

2011-10-10 19:02:21
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

独身を通して六十を過ぎても毎日子供のようにはしゃいで生きている男などは稀有な例で、誰にでも真似のできるものではない。そこで普通に生きている人ならば結婚して子供その他の家族がいて、家庭がある。外に出て働いている男は自分を舟のように感じているのだとするとその家庭は港に当る。(続く)

2011-10-10 19:03:16
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

これをことさらに平凡と形容するのは無用なことである。平凡だからつまらなくて、つまらないからくたびれると来れば、これは明かに病気である。この種の病気にかかれば、結婚ということよりも、自分が人間であることや生きることに対してどう考えているかを一度根本的に考えなおしてみるしかない。(続

2011-10-10 19:04:05
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

大概の病人はそこまではしないので、人生がつまらなくてくたびれているふりをした偽病人が横行している。実はこの種の、自分が病人であると思いこんでいる偽病人がその気持ちをしつこく書いたものが現代文学なるものの大部分を占めている。」(1976年) 引用終。

2011-10-10 19:05:17
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

今日は残すところあと一時間。できるだけ倉橋の文章をツイートしていきたと思います。倉橋由美子全作品作品ノート6から「文章が読むに耐えるもので、ともかく最後まで言葉に従って精神の散歩を続けるに足る域に達していたとしてその散歩の途上ひらけてくる風景はいかなるものになるか。(続く)

2011-10-10 23:02:56
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

その効果が計算できない文章というものは、例えばキャンバスの上に絵具をぶちまけて誰かが裸で転げまわってできた、絵と称する何かと同じであって、ともに評しようがないので、「前衛的」ということになる。」1976年

2011-10-10 23:05:47
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

倉橋由美子『あたりまえのこと』(朝日文庫)から「文章の巧さということ」――よい小説、面白そうな小説、読んで損をしない小説、それを見つけるのに一番はっきりした目安になるのは、まずは文章が巧いかどうか、ということです。知らない演奏家のCDを試聴してみる時、楽器がよく鳴っているか、(続

2011-10-10 23:07:39
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

音色がいいか、切れがいいか、リズムが快調か、フレーズが面白いか、といったことはちょっと聴けばわかります。小説でもその他の本でも、あちこち拾い読みしてみれば、文章の質がわかります。文章が下手で冴えないものは買わなければいいのです。(続く)

2011-10-10 23:08:37
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

文章の巧さは天成のもので、これは歌手の声のよさ、歌の巧さと同じです。残念ながら、文章というものは、大家の書いた文章読本などを読んで修業してみたところで大してうまくなれるわけではありません。文章の下手な人は、たとえば学者になって専門家にだけ読まれる研究論文を書くことなら(続く

2011-10-10 23:10:17
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

できますが、売文業には向かないのです。ましてや小説を書くことなど論外です。(略)いやな声の、下手な歌を我慢して聴くことがつらいように、興味あるテーマを取り扱っているからといって、文章の下手な人の小説や評論を我慢して読むのはそれこそ健康によくないことです。(続く)

2011-10-10 23:12:36
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

そんなことをしていると、そのうちに小説なら小説が嫌いになります。小説は読んで楽しくなければ小説ではありませんから、文章が上手で快く読めるものを選ぶことがまず第一です。深刻な問題わたし御扱っている野心作、力 作だからということで下手な文章を我慢して読む位だったら、(続く)

2011-10-10 23:13:34
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

中身は何もないのに文章が巧くて面白い百鬼園先生の文章を読む方が正解です。」引用終わり。次は「想像力について」。やはり『あたりまえのコト』から。

2011-10-10 23:14:49
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「よく想像力の貧困という悪口を耳にしますが、人間の想像力は意外に貧困なものです。不正確でとりとめのない夢みたいなものを展開することはできても、具体的で内容豊富で首尾一貫した世界を紡ぎ出す力はほとんどの人間には欠けています。子供はことにそれが未発達で、(続く)

2011-10-10 23:18:36
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

だから子供の作家も哲学者もいないのです。子供でもなれそうなものといえば数学の達人位でしょう。多くの人間は大人になっても想像力はそれほど発達しないもので、その点では子供の水準にとどまっています。あやしげなカルトの妄想や作り話や迷信に簡単に頭を占領されたりするのもそのせいです。(続く

2011-10-10 23:19:47
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

そんなことがありうるのかどうか、それはもっぱら想像力を働かせてはじめてわかることだからです。この世の終わりが来るとかハルマゲドンがどうだとか、先祖の霊が祟りをしているといった話がばかばかしいのは、想像力の産物としては余りにも貧弱、あるいはありきたりだからで、(続く)

2011-10-10 23:21:05
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

出来の悪い小説もこれと同じことになります。  ただし、小説の場合は一つ逃げ道があって、想像力の性能に自信のない作家は、自分が体験したこと、見聞きしたこと、または実地に調べたことなどをなるべく詳細に書くという方法に頼ることができます。」引用終わり。

2011-10-10 23:23:04
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「想像力について」はこの先、とても面白く展開していくのですが、さきを知りたいかたはどうか『あたりまえのこと』を読んでみてください。にやりとし絶句したり、はらはらどきどきしたりと、スリリングなこと請け合いです。楽しく面白く、優雅―それが倉橋の文章です。

2011-10-10 23:26:57
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

長いあいだお騒がせしました。今日は特別な日ですから、どうかお許しください。明日からは無口で引っ込み思案の、いつもの私に戻ります。どうも失礼いたしました。

2011-10-10 23:29:18