古屋美登里さんによる倉橋由美子の引用ツイートまとめ

10月10日、倉橋由美子の誕生日に倉橋文学のもっともよき理解者である古屋美登里さんがツイートしたものをまとめました。
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古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

今日は倉橋由美子の誕生日です。今日こそ、倉橋の文章をしばらくtweetしたいと思います。まずは「倉橋由美子全作品」の作品ノート2から。私がしびれた文章です。ちょっと長いのですが……。

2011-10-10 16:51:32
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「若い人間は若いというだけで自分を一種の天才と考えやすいが、ほとんどの場合凡庸で未熟なだけであり、その未熟さと逆手にとって利用することを思いつく程度に利巧であれば、ある器官新しいとか個性的であるとかで通用する。むしろ通用させようと待ちかまえていて若さに甘い、(続く)

2011-10-10 16:52:46
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

というより若さを悪用して商売しようという風潮が最近では強い。それでどうなるかといえば自他ともに悲惨にして滑稽な事態が生ずる。小説が文章であるという当り前のことに気づけば、ここでは若さが未熟さである限りは問題にも何にもならなくて、未熟な文章というものは単純に読むに耐えない(続く)

2011-10-10 16:56:13
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

えないだけである。型破りで個性的で、何か磨けば光る才能があって、などというお愛想をいくら並べてみても、未熟な文章を救うことにはならない。そんな文章で手紙を書けば物笑いであるところを、これが小説だといわれると返答に窮して、小説ならばと大目に見る。(続く)

2011-10-10 16:57:33
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

この錯覚が日本では通用してきたので、その不自然な温室で栽培される小説 が畸形的なものになるのも不自然ではない。もっとも、この未熟さは年齢とともに減っていつとはなしに消滅するというものではないらしくて、四十歳になっても六十歳になっても未熟さを保存して(続く)

2011-10-10 16:59:11
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

文学青年のままでいる人間が文学に関係した世界には多い。それで自分もまわりの人間もうんざりせずにやっていけるのはそこがよほど特殊な世界であることを証明していると同時に、この首の人間が同じ体臭を感知して集ることでこの世界が成立っている。鼠の集団にはその集団の匂いというものがあって、

2011-10-10 17:00:29
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

その匂いをもたない鼠が迷いこむと鼠どもは襲いかかって咬み殺すという話をコンラート・ローレンツが書いていたのを思いだした。断っておきたいが私自身は咬まれた鼠でも咬んだ鼠でもなくて、群れとは無関係な人間である。」(1975年)

2011-10-10 17:02:12
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

さらに第四巻の「作品ノート」から 「「文学とはKUSO真面目な精神が敬虔の念をこめてKUSO真面目に言葉を使うことによっては本来成立たないものではないかという気がする。勿論、これを真面目に主張しても無駄であろうから、冗談ということにしておく。そしてこれも冗談の続きであるが、(続く

2011-10-10 17:05:04
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

私見によれば我国ではKUSO真面目な精神の持主が大奮闘して書いたものでないと信用されない傾向がある。この作者には才能があるとか才筆であるとか言われるのは褒められたことにはならないので、そのあとには大概、しかし「まごころ」が感じられないとか才に溺れているとかの、(続く)

2011-10-10 17:07:16
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

我国では致命的な評言が来て止めを刺される。逆に悪戦苦闘の跡がありありとわかる程度にまずく書いてあれば、その真面目な努力は多とされ、文章は稚拙だが人を撃つものがあるというわけで、大いに褒めてもらえる。努力賞などというものがあるのは我国だけではないかとも思うが(続く)

2011-10-10 17:08:34
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

外国の事情に疎いので確信は持てない。(略)KUSO真面目であることが人を打ち、人もそれに打たれることを好むという事情がある限り、今度はKUSO真面目である(ように見える)ことが一種の才能となり、現にそういう唯一の才能を大車輪で発掘したあげく(続く)

2011-10-10 17:11:29
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

真面目な 読者を残して死んでしまった作家もいる。その残した文章は文章とは言えない何かであるが、そこにはKUSO真面目さが充満しているのだからそんなことはどうでもいいのである。」 引用ひとまず終わり。ね? 素晴らしいでしょう。朝から倉橋の文章を読んでいて、私もシニカル充満中デス。

2011-10-10 17:13:26
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

20代のころ、倉橋の文章の毒をくらった人はたくさんいらっしゃると思います。その毒はおそらくいまもどこかで効いていて、こういう文章を読み直すと、とたんに体中に毒がまわります。解毒剤はいまのところ、ありません。

2011-10-10 17:21:24
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

先ほどのtweetの訂正「器官」→「期間」、「この首」→「この種」 申し訳ありません。お誕生日だというのに、こんなミスを犯してしまって。 倉橋先生がお読みになったら、と思うと冷や汗。。。。倉橋先生は、お元気であれば七十六歳です。

2011-10-10 17:57:24
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

倉橋作品の冒頭の文を紹介していきます。初期作品から。 「「雑人撲滅週間」 ―― Kはその朝広報をみて、《雑人撲滅週間》が始まっているのを知った。かれは広報のうえにおもわずよだれをたらし、びっくりしてそれを吸いとると、鏡にむかった。

2011-10-10 18:14:21
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「パルタイ」  ある日あなたは、もう決心はついたかとたずねた。わたしはあなたがそれまでにも何回となくこの話を切りだそうとしていたのを知っていた。

2011-10-10 18:15:09
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「貝のなか」  わたしの到着は両側から唐突に首をだす女子寮生たちによってむかえられ、その一人はパジャマのままでてくると、腹だたしげに腕をあげてわたしの部屋を指示した。

2011-10-10 18:16:02
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「非人」 「おまえは有能な集金人ではない」雑役夫はそういうと便所の掃除にとりかかりました。ぼくはまだ充分排泄をしていなかったのですが、しかたなく便所を出ました。

2011-10-10 18:16:41
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

『蛇』  Kは口のなかいっぱいに異物がつまっているかんじで昼寝から目をさました。胃腸がわるいので、眠りからさめたときなどいつも口のなかに鉛の味が溜まっているのだが、きょうのはそれとはすこしちがっているようにおもわれた。

2011-10-10 18:17:39
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

『婚約』   ある十一月の小雨の降る午後、Kが役所から帰ると、女の客がかれを待っていた。そこはKの居間兼書斎だったが、暖房のない古びた部屋なので、客は外套の襟をたて、厚地のストールを頭に巻きつけて坐っていた。

2011-10-10 18:18:21
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「密告」  ここに一枚の形而上学的なタブローがある。太陽があなたがたの世界から退場しようとする夕暮れの海と岬と空がみえる。

2011-10-10 18:19:06
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「囚人」  ある暑い午後、Kは白い陽ざしを受けた清潔な路面でふいに数人の男にとりかこまれた。みんな土色の作業服を着ており、腕章を巻いていたが、その文字を読むまでもなく、Kは自分に対する刑の執行が始まったのを知った。

2011-10-10 18:19:50
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

「夏の終わり」  わたしたちの決心は変らなかった。Kはわたしたちの手のなかで重たい死の塊に変らなければならない。わたしと妹は、Kを恋人として共有していたようにこのイデーをも完全に共有していたように思う。

2011-10-10 18:21:15
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

素晴らしい小説は冒頭の一文からもう、その世界へと誘う力がある。へなへなした、輪郭の薄い言葉ではない。彫琢された文章とリズム――これは最後の作品まで貫かれている。

2011-10-10 18:27:50
古屋美登里 Midori Furuya @middymiddle

食事の前にもうひとつ。倉橋の作品ノート5から 「「結婚している人間に結婚について何がわかっているかは大いにあやしいと思われる。ただ結婚して無難にやっている人間はまだ結婚していない人間とは違って結婚について深刻に考えないで済むという点は救いである。(続く)

2011-10-10 19:01:25