【なぜか山形に】続・木コンクリート橋を見てきた【北海道オリジナル】

北海道で戦前に開発され、昭和40年代初頭まで国道の道路橋を含めて架橋事例のあった「木コンクリート複合桁橋」の現存事例を、2017~2018年に渡道して複数実見し、【北海道オリジナル】木コンクリート橋を見てきた【戦時設計】https://togetter.com/li/1271685 をまとめて、一部の方々ではあるがご覧いただいた。 伝統的な木橋とは異質な、「コンクリート橋に近い性能を目指し」「北海道で独自に開発された」ユニークな橋は、昭和末期までにほとんど消えたものと見られていたが…… それがなぜかケモ耳の国モフスタン もとい山形県内陸に現存することが判明した。 当方撮影の画像については、安スマホ(買い換えても安スマホ)でのオート撮影でたいへんお見苦しいですが、長文ツイート共々ご容赦ください。 続きを読む
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甘木@欅道居士 @profenigma

さて下から見てみると、なかなかとんでもない pic.twitter.com/m3QluRFkff

2022-07-10 20:48:35
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甘木@欅道居士 @profenigma

紛れもなく、継桁10mスパンの木コンクリート合成桁橋である。 北海道の日本海岸・初山別と遠別の境に架かる歌越別橋に倍する長さで、しかもそちらと違ってまだ人間が渡っていいのである。 これは驚くべき現存例と言える

2022-07-10 20:54:47
甘木@欅道居士 @profenigma

主桁は横に9本、その間隔は340mmほど。 桁の高さが150mmちょっと、幅が200mmくらい。 同じ木コンクリ桁でも、以前見た北海道湧別の無名橋が典型的な尺貫法設計寸法だったのに比べると、メートル法寄りな設計になってる感がある pic.twitter.com/qX7P6E0U1V

2022-07-10 21:30:08
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甘木@欅道居士 @profenigma

この橋の重要さはほかにも認められる。 木材を半ばコンクリートにめり込ませる北海道での主流手法でなく、木桁とコンクリートの接合部を外部に突出させる丁寧な手法を用いている。おかげで接合部の形状変更(矩形とノコギリ型の使い分け)がよくわかる。みてわかるお手本と言える pic.twitter.com/ZZw1TZzivQ

2022-07-10 22:03:15
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甘木@欅道居士 @profenigma

コンクリート打設についても、そう悪いようには見えない。 施工時期が昭和32年頃、かつ昭和大合併で新たに市域となった地区で小学校に通じる生活橋となれば、県都たる山形市の土木部局もコストは押さえつつ相応にまともな橋を架けようとしたのではないか pic.twitter.com/ueWZr9oEhd

2022-07-10 22:10:03
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甘木@欅道居士 @profenigma

いまの山形市役所の土木部局は、この橋が木造桁であることを承知しているだろうし、現状だと自動車通行に使うのは無理とも判断したはずだ。 しかしすぐ下流に県道橋があり、谷柏橋をかけ直しても利用者は地元集落住民ばかり、橋の前後の集落内道路も狭すぎるとなると、高級な新橋は架けられない

2022-07-10 22:14:05
甘木@欅道居士 @profenigma

橋の南側の集落内は昔のままのクルマ一台分幅で、家並みのために幅も広げられそうにないと感じた。 おそらくこの実状から、小学校への道、高齢者の歩く道として、谷柏橋が保っている限りは現状維持になっているのでは、と推測する

2022-07-10 22:17:32
甘木@欅道居士 @profenigma

たぶん、山形市内ではこの橋の技術史的価値はほとんど知られていないのではないか。 なおこの橋を見た直後に市街地の山形県立図書館に立ち寄り、金井村および金井地区に関する村誌および郷土資料の数冊をひもといたが、谷柏橋架橋に関する情報は得られなかった

2022-07-10 22:23:09

※なお、この橋のある山形市谷柏(やがしわ)は、1954年11月の合併以前は南村山郡金井村の一部であった。

追・木コンクリート合成桁の開発過程

高橋敏五郎技師らのチームが、北海道庁で木コンクリート合成桁を考案、開発した経緯は、いくつかの文献で語られているが、その最初、「賞をもらった」云々と喧伝される発表内容は、探さないと見つからない。
これは2021年に探してきた。国会図書館とのオンライン環境がある主要図書館の利用者には比較的容易にアクセスできると思われる。

数学も物理もわからぬ当方が文章だけで延々書いているので読みづらいが、ご容赦を。

甘木@欅道居士 @profenigma

国会図書館のデジタルコレクションに地元図書館経由でアクセス、「土木技術」誌昭和17年11月号掲載の「懸賞『時局下の橋梁新工法』当選記事」論文である、一等当選の「木コンクリート橋」鈴木重松(北海道庁土木部監理課)をプリントしてきた。

2021-09-15 20:34:48
甘木@欅道居士 @profenigma

編集委員の評。 「此の設計は、木桁の上にコンクリートを打ち、木桁が主として引張力を負担し、コンクリートが圧縮力を負担すると言う構想から成り、時局的に見て甚だ簡便な工法である。 力学的に言えば疑問があるにしても、実際に数十橋架設して成功を収めている所は、問題の核心に触れて居り

2021-09-15 20:38:44
甘木@欅道居士 @profenigma

敢て一等当選とした訳である」 一緒に写してもらってきた「道路」誌昭和17年8月号の高橋敏五郎「再び木コンクリート橋に就て」冒頭と末尾でも、この奇異な設計に対する業界の危惧に触れている。 提唱者の高橋自身「現に茲に提示した構造の中にも未だ理論的に判然としない点も可成あるのであるが」わあ

2021-09-15 20:45:57
甘木@欅道居士 @profenigma

そこで件の橋を架けまくって「論より証拠」を積み重ねたのは実践的な土木屋さんらしい。 鈴木、高橋の著述からわかるのは、木コンクリート橋を架設する場合、骨材にまで意を払った固練りの高品質なコンクリートを用意して打設管理を厳しくすること、また木桁にコンクリートを打つときには、

2021-09-15 20:51:01
甘木@欅道居士 @profenigma

橋桁下にしっかりした支保工を組んで、木桁にとっての死荷重になるコンクリート分の重量を支え、施工中の木桁垂下を防いでやる必要があることだった(コンクリートの養生が終わるまでその状態を保たねばならない)。 高橋によれば、支保工が不完全で施工中に桁が下垂した例があったようだ

2021-09-15 20:55:54
甘木@欅道居士 @profenigma

「土木技術」昭和17年11月号を見ると、木造とか竹筋という文字が目立って、さすがにわびしい。 完成が戦時中になってしまったので、鋼材不足で橋脚を竹筋コンクリートにした名古屋・庄内川の大正橋とかあって(長さ277m、幅7.5mの長い橋が......)とか、無茶してる感が pic.twitter.com/p2nGG01Px7

2021-09-15 21:36:29
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甘木@欅道居士 @profenigma

で、高橋が「再び木コンクリート橋に就て」と書いているのであれば、それ以前に一度紹介しているであろう。 はたして遡る「道路」昭和15年12月号に、高橋敏五郎と上戸斌司の連名で「木コンクリート桁に就て」(橋でなく桁)が掲載されている pic.twitter.com/sQjlgIMXqA

2021-09-16 21:14:21
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甘木@欅道居士 @profenigma

膨大な全道の木橋(当時で総延長50km、毎年の架け替え需要3~4km分)を、日中戦争突入後の鉄材使用制限下で鋼橋に架け替えるのは不可能で、新橋は木橋に逆行した。 そこで道庁土木研究所は、架設・メンテのコストダウン、長寿命化、トラック輸送増大への許容荷重アップ、材料の入手性など欲張った

2021-09-16 21:34:07
甘木@欅道居士 @profenigma

発想は、木材を抗張鉄筋代用に桁材に用いることであったが、コンクリートの中に埋め込んでみても弾性係数が異なり、引張亀裂が拡大するまでは有効に働かない。それを克服するには大断面の木材をコンクリート外に露出せねばならない、となった

2021-09-16 21:37:40
甘木@欅道居士 @profenigma

桁の圧縮部にコンクリートを、引張部に木材を配置した重ね桁とする。これを矩型の独立桁にしても橋に使う利益が少ないので、コンクリート側が幅広のT型桁を推奨している。 当時の木橋の床板形式は板張り、土覆、コンクリートとあるが、少なくとも当時の北海道では板張りが高くコンクリートが安かった

2021-09-16 21:44:00
甘木@欅道居士 @profenigma

木コンクリート桁だと、橋床(スラブ)が桁の一部を形成するので、床板の死荷重を負担しても木桁の断面を縮小できる(これで木桁の事前加工にかかる工賃が安くなり、材料も求めやすくなる)。 当時は自動車交通の頻度が上がり、木製桁橋で13年、木製トラスで11年とされた平均寿命が短くなり始めていた

2021-09-16 21:49:33
甘木@欅道居士 @profenigma

道庁技術陣は、橋桁の木材腐朽対策にコンクリートを被せた構造なら、水のかかる板橋や土に触れて腐りやすい土橋よりマシだろう、増加荷重にも従来の木桁断面でより多くの重量に耐えられるだろう、と見繕っていたようだ。 ここから10年後の論文を見るに、この目論見は一定以上の成果を挙げたようである

2021-09-16 21:55:32
甘木@欅道居士 @profenigma

高橋・上戸文献(1940)から、試験に供された桁の様々なパターンとその供試結果、上面から見た木桁部分のパターン写真。 コンクリートと木桁の間に発生する水平応力に抗するため、金具での結合も考えたらしいが、結局手間はかかるが結合の確実な木材はめ込みを最善策として選んだ pic.twitter.com/52Ue19TRUi

2021-09-17 18:09:52
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甘木@欅道居士 @profenigma

試験桁は、支間1mの矩型桁として作られた。中央に樫の木のブロックを荷重として置き、500kgずつ増やしては全部のけ、次はさらに500kg増やしてどけ、と反復していったそうだ。 前ツイート2つめの画像では、その試験結果が示されている

2021-09-17 19:50:32
甘木@欅道居士 @profenigma

A型の桁は「レ」の字の平たい逆三角を木桁の真ん中に向けて両端から切り込み、コンクリートにかかる荷重が木桁にがっちり食い込むつくりである。これはピッチを狭く作ったA2の方が、広いピッチのA1より好成績であった。 B型の桁は四角い切り込みを繰り返す凹凸型で、A桁にやや劣るが悪くない成績である

2021-09-17 19:58:04