『機動戦士Ζガンダム』感想

河樹　彬 @e_rewhon

（とはいえ、実力が追いつかぬエゴイストは、その我儘を周囲からウザがられ、バカにされる。カツもジェリドも、こちらが赤面してしまうような愛すべきバカチン。「カツ、ざまぁみろ」な感情も当然である。）

河樹　彬 @e_rewhon

で、Zの「分かりにくさ」に話を戻すが、最終局面になると、シャアがシャア元カノと戦い、シャア舎弟とシャアVer2.0が戦う混戦になる。で、彼ら全員どこかシャアの分身である。って、こんなん分かりやすい筈がない。

河樹　彬 @e_rewhon

これは本気で教えを乞いたいのだが、シロッコとの最終決戦。カミーユが「許せないんだ、俺の命に替えても、身体に替えても、こいつだけはッ。分かるはずだ。こういう奴は生かしておいちゃいけないって。分かる筈だ。皆には…」と吠えるのを聞きつつ、私は毎回「分からんわー」と絶叫している。

河樹　彬 @e_rewhon

と、流石に視界がシャアで一杯で、目の前の現実が見えなくなってきた。ここで一旦擱筆。

河樹　彬 @e_rewhon

なぜカミーユはシロッコのことを「許せない」「生かしておいちゃいけない」と憎むのか、私には分からない。 …という処まで書いた。第一、この二人、個人的な怨恨は一切ない。第二に、互いに対立するほどの思想もない。第三に、言うほど利害が相反してるとも見えない。何より、おまいう。

河樹　彬 @e_rewhon

カミーユは「いつもいつも脇から見ているだけで人を弄んで」とシロッコに激高する。そういえば、「そうやって貴様は永遠に他人を見下すことしかしないんだ」とアムロに怒られてた人がいたっけ。シロッコは確かに酷い奴だが、それをいうならシャア先輩もキミも大概なんだよ、カミーユ君。

河樹　彬 @e_rewhon

シャア達はアムロとは本質的に違う。アムロはエゴイストだ。力を奮える場所があれば身体が動いてしまう。対して、シャア達は「エゴイスト達（ザビ家やティターンズ）が暴走したから」戦う。いわば他者をただし、他者の暴力を否定するため、反動的＝反作用に戦う。ニーチェのいうキリストだ。

河樹　彬 @e_rewhon

あえて敵視線からみれば、彼らは一段高いところから自他を否定し、裁いてる。アムロは生きるのびるために戦うが、シャアは、他者の力を否定するため、他者の生き方を殺すために戦いを挑んでいる。敵からみれば「俺の人生を弄ぶな」「見下すな」という処だ。

河樹　彬 @e_rewhon

シャアがシャアと戦うZは『おまいう』事案が多発する。『暴力を否定する暴力』という自己矛盾。「命を粗末にするな」「俺は人殺しじゃない」と叫びながら、殺意を込めたライフルを撃ちまくる主人公。小学生の私でも頭を抱えた。実際、本作では、暴力の反作用の反作用の…と、否定と死の連鎖が続く。

河樹　彬 @e_rewhon

作り手はこれら全てを意図的にやっていた筈で、「この否定の連鎖をどう終わらせるか」「最終決戦をどうするのか」をずっと考えていた筈だ。誰にでも思いつく回答は、自己矛盾への自己否定。「否定する自分自身を否定する」「裁く自分を裁く」ことだ。では、それはどんな物語になるのか。

河樹　彬 @e_rewhon

（補足。否定の否定について、富野御大は既に有名な回答を出している。『伝説巨人イデオン』の（ほぼ）全滅エンドがそれだ。互いを裁きあう人類のもとに、神が現れ、人類全体を裁く。死の嵐が全てを焼き尽くすが、最後には否定性を知らない赤児が残される。…だが、シャアの世界には神はいない。）

河樹　彬 @e_rewhon

Zの最終決戦。まず、シャア対ハマーン。自己矛盾への自己否定といえば「自決」を想像しがちだが、この二人、自滅をも辞さない戦いをする。思えば、もともと否定性（理想）に殉じている人間は、自らの刃が肉体を滅ぼしても、精神性をさらに純化させるだけ。自決が自己否定とはならない。

河樹　彬 @e_rewhon

勝負を振り返る。1stの最終決戦の反復だ。かつてアムロに懐に飛びこまれたシャアは、自滅を恐れてアムロに敗れた。対照的に、懐に飛びこまれたハマーンが、自滅覚悟でシャアを撃ちぬき、組み敷く。この場面、「ハマーンさん、シャア相手なら無理心中でも悔いはなかったよね？」と私は邪推する。

河樹　彬 @e_rewhon

だが次の瞬間、ハマーンに支配されることへの反発から、今度はシャアが自滅覚悟の攻撃を仕掛ける。彼の肉体はここで消息不明になるが、シャアは否定性（死）を乗り越え、甘さを乗り越えたことで、さらにシャアとして純化される。精神現象学だ。